GKコーチになったばかりのころに経験した挫折…。育成には“なぜ”基準が必要なのか?【GKを準備する】
2019年07月26日
メンタル/教育連載『ジョアン・ミレッはGKを準備する』。ジョアンがなぜGKコーチになったのか、そしてなぜ既存のGKコーチとはまったく別のアプローチに至ったのか。その理由が見えてきた。
通訳●倉本和昌 取材・文●高橋大地 写真●Getty Images、ジュニサカ編集部
ジョアン・ミレッ氏 監修『ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座』2020/1/15発売!

指導者が持つべきは“基準”
――経歴の続きを聞かせてください。ケガで選手を引退したされたあと、キーパーコーチを目指したのはいつごろですか?
プレーができなくなってしまうことがつらくてしばらく塞ぎ込んでいました。サッカーに費やしてきた分、プロになるため大学に行くことを断念したあとでしたから。
だから私は関わっている選手全員にこう言います。「ちゃんと勉強しろ。サッカーができなくなる日は突然訪れる。それが明日かもしれないし、明後日かもしれない。サッカーのプレーはサッカー以外で生かすのは難しい。でも、勉強をして得た知識は一生涯使える」と。
GKコーチになったのはその後です。道で偶然テラッサ(元バルサのチャビを輩出したクラブ)の幹部に会った際に「ジョアン、今何してんの? うちのクラブのジムをリハビリで使いなよ。それで、ケガが治ったらお前は来年どこでプレーするんだ?」と訊かれたので「いや、どこでもプレーはしない」と答えました。するとその人が「いやいや、冗談言うなよ」と。私は「膝が痛くてもう無理なんだ」と、そのときは返しました。その2カ月後に、彼がとある提案をしてきます。
それがキーパーコーチの仕事だったんです。当時は、もしかするとこの世に誰一人として『キーパーコーチ』なんて職業の人はいなかったかもしれない。そんな時代です。しかし、彼は「時間と労力をあれだけキーパーに費やしてきたのに、なぜその経験を生かさないんだ」と言いました。
私は「いや、子どもを教えるのなんて俺には無理だよ」と返答しました。でも、重い腰を上げて一度グラウンドに行ってみたんです。
すると、グラウンドでは監督がバンバンシュートを打ち、それに対して子どもがビビりながら練習をしている。私が子どものころから10年も経っているのに、10年間その状況が変わっていない。それを見て「俺、キーパーコーチをやる」と返答しました。
でも、それは大きな間違いでした。本当にキーパーコーチがいなかったので、自分のやっていることが一番だと思っていたんです。それこそシュートを打って飛ばせるなんてこともやりました。自分がゴールを決めたら「そんなシュートも止められないのか!」と子どもを怒ったりして。今考えたら最悪です。
そして、キーパーコーチを始めてから4年ほどがたったころ。とある子どもが私にこう言います。「ジョアン、俺キーパーやりたいんだ。もっと良くなりたいと思ってるんだけど、全然できないんだ」。私は「下手なのはお前がダメなんだ。お前は下手なんだからキーパーなんてできるわけないだろ」と返しました。
「お前にキーパーは無理だ」
その子の気持ちを考えず、そう言ってしまったんです。チーム内では、キーパーを誰がやるのか話しているときにです。その晩、家に帰ってメチャクチャ後悔しました。「キーパーをやりたい! と、やる気を出している子どもに対してなんてことを言ってしまったんだ」と。
そのことがきっかけで、私は3年間キーパーコーチをやめました。ちょうどその時期に少しずつ、ベティスやヴァレンシア、アスレティック・ビルバオなど各地域の大きなクラブにキーパーコーチが現れはじめました。
私がその空白の3年間に何をしていたかというと他のキーパーコーチの練習を見に行ったんです。他のキーパーコーチはどんなふうに練習しているのだろう、と。
しかし、みんな自分と同じことをやっていたんです。私はそのときに自身の経験から「この方法ではゴールキーパーはよくならない」ということがある程度わかっていました。
でも、なぜ良くならないのか、なぜうまくならないのか。すごく悩みました。とある子どもは「キーパーをするのが怖い」と話していました。当時は、その怖さをどう取り除いてあげればいいのかわからず、「もっと飛べ!」「いいから何回もやるんだ!」「もっとやれ!」と言っていました。
自分自身も「いつ飛び出して、いつ飛び出さないのか」、そのタイミングをわかっていないのにゴールを決められた選手に「ふざけんな! なんで決められるんだ!」と怒鳴っていました。そして、ゴールを決められなかったら何も言わない。そんなことばかりでした。
私は自身の頭の中を少しずつ整理していきました。
では、キーパーの育成はどこから始めるのがいいのか。このタイミングだったら「飛び出すor飛び出さない」というように、まず“基準”を持つことが大事だと考えたんです。
そして、何度も分析を重ねるうちに、似たようなシーンでも、できるときとできないときがあることがわかったんです。
この場所であれば取れるけど、そうではないときもある。では、どこでどうすればよかったのか。このタイミングで、飛び出せばよかったのか? そもそも今のボールは弾く必要があったのか? キャッチできたのではないか? そういったことを考えているうちに「GKの技術(スキル)を完璧に仕上げる」ということを考えはじめました。現在でも「GKの技術(スキル)」を完璧に仕上げられるキーパーコーチはいません。だから、私は「GKの技術(スキル)を完璧に仕上げる」ことが目的になりました。なぜか? 技術を完璧にすれば「今日がYESであれば、明日もYES」になるんです。一方で明確な基準を備えていないと「今日がYESであっても、もしかすると明日はNO」になってしまうんです。
ジョアン・ミレッ氏 監修『ジョアン・ミレッ 世界レベルのGK講座』2020/1/15発売!
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