ジュニア指導者の理想像は“お母さん”? 選手を取りこぼさないために必要な「発育発達への配慮」
2019年08月16日
育成/環境
【今シーズンからレアル・マドリーに加入したエデン・アザール】
ベルギーなどから見る発育発達の取り入れ方
——コーチ自身が「自分が上を目指すために、選手を指導している」というものが強すぎるのは良くないなと思います。もちろん指導者も向上心が大事なので、試すことも必要です。
悠紀「その部分は残念ですよね。でも、それが現状だと思います。本当にボランティアコーチやパパコーチは違うけど、特にJクラブの下部組織や強豪の街クラブ、『自分でクラブを作ってやっていきたい』というところはそういう野心を持ってる指導者は多いと思います。別に野心が悪いわけじゃないけど、それが結果的に子どもに影響を及ぼしてるのはよろしくないかな、と」
——少しストレートな言い方をすると、「子どもが犠牲になっている」というのも否定できないです。
悠紀「それは思います。強豪校でもそうですよね。100人くらい良い選手がいるのに、たくさんの選手が試合に出られない状況があります。でも、高校選手権で勝ち進めば名将と言われますから。でも、育成できなかった選手のことは誰も触れません。『価値ある犠牲者』くらいな感じになっていることがまだまだたくさんありますから。でも、もしかしたらその犠牲になった選手の中にモドリッチがいたかもしれませんし、メッシがいたかもしれません。そう思うと、ちょっと残念だなと思います。
ベルギー代表のアザールがその典型です。
ベルギーは、U-15から代表が3つあるんです。U-15のA、B、Cみたいな。それらは早熟、正常、晩熟と発育発達という面での成長によってスカウティングされてきて分けられます。仕組みとしては、ゆくゆくはU-17で融合することになっています。ベルギーでは、アザールがその一番のモデルケースと言われていますが、彼は晩熟グループに入っていたそうです。つまり、その晩熟グループがなかったらすくい上げられていない選手なんです。スカウティング外として扱われていた可能性が高いわけです。
デンマークも同じ取り組みがあり、『フューチャーリーグ』というものが存在します。デンマークは協会発信で各クラブに『晩熟枠を何人まで入れないとダメ』みたいなことがアカデミーに伝えられているようです。その代表例としてのモデルケースが、ドルトムントにいたエムレ・モルです。彼も晩熟型のグループにいて、そのルールによって救われた選手です。
日本は、そういう選手を取りこぼしてるのではないかと思うんです。そうやって、もうちょっとA代表にも一人とか二人とか質の高い選手が残っただけで、またちょっと違う育成ができるのではないかと。トップ・トップはそういう微妙なところの争いですから。特にその一人、二人を取りこぼしたか発掘して育てきれたかというのが、今小さい国が欧州である程度の結果を残している理由にあります。大きな国は多少取りこぼしても人口が多いからからそんなに気にしていません。でも、ベルギーやデンマークといった小さい国は必死です。一人でもタレントを失ったらもう戦えませんから。そういう認識を持っています。
高いレベルのプロリーグでプレーする選手を一番育てているアカデミーって、どこの国かわかりますか?
実は、クロアチアのディナモ・ザグレブなんだそうですよ。少し前までのデータ上だと、モドリッチら、高いレベルのリーグに多くの選手を輩出しているアカデミーとして話題になりました。いろんな取り組みをして、なるべく取りこぼしがないように選手を育てていく仕組み作りはすごくよくできています。他国では、そういう発育発達も考慮しながら年齢特性を大切にしてるからいい選手が出てきているのも一つの要因だと思います。
ジュニサカさんの講習会でも触れましたが、私たち指導者には意外と時間がないんですよ。18歳までと言っても、長いようで短いんです。練習回数でカウントしたら、驚くほどとんでもなく大した回数にならないんです。そうなってくると、『効率』はかなりのキーファクターです。年齢特性に合ったものをそのタイミングでやるのは、まさに効率そのものなんですよね。
ゴールデンエイジで技術力が身につきやすいタイミングにどれだけそれを高められるかトレーニングを行うのかは大事だし、筋力がつく時期にどれだけ筋力がつけられるか、コーディネーション能力が上がりやすい時期にどれだけ上げられるか、コミュニケーション能力が育ちやすい時期にどれだけ育むか。
別に18歳の選手にも、コーチングで『がんばれ、がんばれ』と発破をかけながら指導すればできるようになります。でも、それを6歳の頃に言っていたら、その後は必要以上には言わなくてもいいわけです。その分の時間を別のものに割り当てられるんです。
今の時代はスポーツ科学がすごく発達しているので、どの年代で何が吸収しやすいのかは、もっとJFAを中心に各協会が発信していったほうがいいかもしれません。例えば、4種や3種は大切なことではないでしょうか。4種の指導者は、もっと何をやらないといけないとか、ここまでは教えないとダメとか、3種はここまでを教えましょうとか、もちろん2種でもこうしましょう、とそういうより具体的な指針があれば育成の在り方も少し違ってくるのかなと思います」
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