ジュニア指導者の理想像は“お母さん”? 選手を取りこぼさないために必要な「発育発達への配慮」

2019年08月16日

育成/環境

1対1 指導者講習会
【7月1日に行われたシュタルフ悠紀氏による指導者講習会の様子】

脳→神経→体と一連で覚えるのに6週間かかる

——少し違うなと思うことの一つに、日本人は何か一つを習得しようとすると、一回の練習で完成する計算をしちゃうところがあります。例えば、「週2で練習しようとすると、年間で100個近く技術的なものや戦術的なものが身につけられる」みたいな計算を立てているような感じがするんです。そこがそもそも間違いで、1つのテーマを習得しようとする時に週2で月8回の練習だとしたら1ヶ月くらいはかかるものだと思うんです。もちろん、様々な要素に関連しながらのテーマの習得だからそれぞれ一つのものがそういう計算ではないとしても、年間で考えるとそう多くは習得できるものはないはずなのに、なぜか最大値で計算をしてしまっている節があります。

悠紀「だから、戦術的ピリオダイゼーションが注目を浴びているわけです。期間も大切ですし、もちろん反復も必要なわけです。繰り返すというのは身につけていくには非常に大事なことです。スポーツ科学的に説明すると、もともとフィジカル的なピリオダイゼーションが注目されて、世界に広まっていきました。いろんな専門家がいろんなピリオダイゼーション的なものを発信しているけど、一つだけわかってるのが『脳が刺激を受けて、その刺激を指令に変えて、そこがコンプリートするのに6週間かかる』と言われていることです。

 だから、もし週2の練習を月8セッション行い、例えば『1対1のスピードに乗ったドリブル』というテーマを習得できても、実は体内の電子回路的にはまだ安定してはいないんです。安定期に入ってないから、2ヶ月後には忘れてしまっているんですね。だから、6週間くらいかけて一つのテーマを構築し、またそれをどこかのタイミングで6週間くらい繰り返さないといけないわけです。フィジカルだったら6週間くらいやって、負荷をレベルアップさせて、それに体を慣れさせて、選手自身の中で安定して固まったらまた次に進んでいくというのがピリオダイゼーションですから。

 戦術的ピリオダイゼーションも、日替わりでテーマを変えてやってるところもありますけど、私は個人的にはそれをあまり推奨していません。特に幼い年齢の選手に対しては。年齢が上がってくれば、もともとの蓄積があるからまた違ってくるとは感じるんですけど。

 4種だったら一つのテーマを固める期間に、そこで同じことをやってるのに同じことに見せないのが、指導者の腕の見せどころです。毎回同じメニューでやってしまうから飽きが来たりするんです。そうではなく、うまく隠しながら、でもやってるコンセプトは同じで反復させてくのが理想的な形です。

 学校の勉強と同じです。

 例えば、九九は1時限教えて終わりじゃないですよね? ちなみにどれくらい九九をテーマとした算数はやるんですか?」

——詳しくはわかりませんが、2年生くらいの時期に最初は丸暗記して、先生がテストみたいなことをさせていると思います。そこから少し応用編というように進めるのではないでしょうか。例えば、「ニシチ(2×7)とシチニ(7×2)は同じだよね?」みたいなこととか。

悠紀「一回の授業で完結しないですよね。それと一緒です」

——そうですね。夏休みくらいまでは、ずっと呪文のように唱えて覚え続けて、夏休み明けから少し応用していくみたいな感じだと思うんですかね。

悠紀「九九なんて、サッカーに比べたら超簡単ですよ。九九に時間をかけているのに、なぜ守備の『チャレンジ&カバー』や『ゴール前の1対1』はもっと反復しないんだ?っていう(笑)。コーディネーション的にもいろいろ使っていますし、すごい難易度が高いものなはずのに…。それも年齢特性という点では必要なところです」

——育成年代の日本のトレーニングって技術的な反復はものすごく多いのに、なぜか戦術的な反復は少ないですよね。環境面で言うと5人制、7人制、9人制、11人制と、どの年代で人数が増えていくのかというところもヨーロッパなんかとは違って細かく刻んでいなかったりします。でも、そこは認知に大きく関わってくる問題になるので、結局は脳の発達にも重なってくる部分です。そういう観点で選手を見ていなかったりして、発達発育の部分がかなり欠落していると感じています。

悠紀「認知については、まだ言葉としてもきちんと知られていません。それが何なのかを理解している人も少ないです。脳の発達というところで追加なんですけど、例えば、10歳くらいまでは子どもは自分の世界で生きています。でも、そのタイミングでチーム戦術を叩き込んでも、それはただの暗記なんです。確かにチーム強化にはつながるかもしれないけれど、個々に目を向けるとただ時間を無駄にしているだけです。

 認知のスピードに合った内容の戦術、例えばジュニサカさんの講習会でやったような1対1の戦術などもあるわけです。1対1の戦術だと、2人の関係なんです。実は、相手がいるから戦術的な観点では難しいんです。そういうところからベースを作って、ベースアップをしてから積み上げていったほうがいい。

 それなのに日本では中学生になると、11人制になってサッカーの難易度がいきなり上がるんです。だから、急に難しい練習を始めます。あれも育成観点では良くない原因ですよね。8対8から11対11に一気にバージョンアップしているわけです。ピッチサイズも全然違いますし、ボールも違いますし、選手たちにとっては別競技のように感じているはずなのに、なぜかそれを考えてないなと思います。

 去年の夏にバイエルンに行った時に、さすがだなって思ったんです。新しいアカデミーセンターが完成していて、『いろいろ考えてるな』と感銘を受けたのがピッチサイズを各カテゴリーに応じていろいろ用意しているんです。もちろん規定があるから、必要以上に自由に変えられないけれども、ほぼ各カテゴリーに1ピッチを用意していて、その中でいじっていました。

 いくつか質問した中の答えの一つに『わざとピッチの幅を最小限レベルに小さくしてる。そのほうがコンビネーションプレーが出しやすいから』と。まだそんなにキック力がなくて、サイドチェンジができない年代だから、幅と縦をちょっとずつ狭めて、成長過程の中のギリギリラインのフルピッチを作ったりしていました。そうしていった方が、選手たちが5人制、7人制、9人制、11人制と2人ずつ増えるサッカーに移行しやすい環境を整えているんですね。

 バイエルンのようなビッグクラブですら、そういうところにきちんとした気配りをしています。なるべく自分たちの体のサイズといった発達発育に合わせた環境に配慮しているという。やはり、こういうことも大事なんだろうなと、すごく実感しました」


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<プロフィール>
シュタルフ悠紀リヒャルト
1984年8月4日生まれ、ドイツ・ボーフム出身。14歳で地元のサッカースクールでコーチのアルバイトを始めたことをきっかけに、プレーの傍ら、主に育成年代で20年間指導。現役引退後は自身が代表を務める会社が運営するレコスリーグの選抜チームである「レコスユナイテッド」やドイツのSVヴェルダー・ブレーメンと育成提携している「日独フットボール・アカデミー」で指導。2016年には世界各国の育成専門家が集うベルギーの育成コンサルティング企業「ダブルパス」と業務提携を結び、Jリーグ全54クラブの監査とコンサルティング業務に携わる。ドイツ・サッカー協会公認「A級(UEFA A級)ライセンス」、日本サッカー協会公認「S級ライセンス」を取得。2019年には「Y.S.C.C.横浜」(J3)トップチーム監督に就任し、日独フットボール・アカデミーでは育成ダイレクターを務める。


 

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