「サッカーを教わるのではなく、学べているか」。イングランドと日本の育成の決定的な違いとは?
2019年10月30日
育成/環境フリーズは成功者の考えを仲間に広げるもの
古木氏はおもしろいことをいくつか言っていた。
「日本のコーチってサッカーを細分化しすぎて、なんか鉄砲をばらしてパーツから作り上げるみたいな。種子島の鉄砲のようにコピーを作る、サッカーを部品から作るような指導の仕方をしているような感じがします。そうやってどうなっているか?サッカーの楽しさを知る前に「まずは蹴り方を知らないとね」と止めて蹴る練習から入っていくので、子どもがゲームの楽しさを知らないままサッカーに触れてしまいます。すると、サッカーをやらされている感が強くなる。「サッカーって楽しい」が後回しになっているような気がします」
私もそう思う。蹴ること、止めること、運ぶこと、考えること…そうやって細分化したパーツを一つ一つ練習していって、やっとサッカーの試合をする。でも、試合をした子どもたちはそれぞれがつながっていることを知らないので、練習したことと試合で使っている自らの学びが一致しない。そして、使い方を教わらないまま、時が過ぎていく。
例えば、ロンド(鳥かご)も多くの日本の指導者は“止める蹴る”の練習だと思っている。しかし、現マンチェスターCの監督ジョゼップ・グアルディオラも言っているが、ロンドは体の向きやボールの受け方を向上させるためのトレーニングであって、ボールを失わずに早くプレーするための基本を身につけるためのもの。どこで、どうボールを受けるかが重要で、ロンドはボール回しをする遊びではない。
ヨーロッパのコーチたちは、技術と戦術とそれを試合でどう使うかというものを包括したトレーニングを考える。そして、コーチが重要視し、トレーニングで子どもたちに問いかけるのは「どう使うか」という要素が互いに接着した部分。日本のコーチのように技術的なミスを指摘したりはしないし、失敗の原因を追求するようなフリーズを不必要にはしない。
ポール氏もそのようだが、むしろ私が見たヨーロッパの指導者は成功した際にフリーズをかけ、それが「どうしてうまくいったか」を選手全員に広げていき、共有するように問いかける。そのことはイングランドFAのコーチライセンスを持つ古木氏も同じ考えを持っていた。
「サッカーは学ぶもので教わるものではない。」
ヨーロッパの人たちはコーチが教えられることが小さいことを知っています。だから、ジュニアなど育成年代ではゲーム形式のトレーニングが多いのだと思います。私が日本にいて感じるのは、特に練習中のゲーム比率が少なさです。ポールの練習の中身は、ゲームをして、ウォーミングアップをして、フィジカルトレーニングをして、判断を要するトレーニングをして、またゲームをするというような流れです。
そして、彼は“成功”した時にフリーズをかける。
だけど、日本のコーチは失敗した時に、修正するためにフリーズをかけますよね? そこが大きく違うのかなと思います。ポールは失敗した時、ミスをした選手のところに近づき、「こうやってごらん」「こうやってみるといいよ」と個別に声をかけています。
つまり、ネガティブなことを公的にさらさない。
例えば、A君にプレーの改善が必要だった場合、B君のいいところで止めてA君がマネをできるようにフリーズをかけます。そうすると、C君、D君もマネをしようとアイディアの輪が広がっていきます。ポールが大切にしていることは4コーナーモデルすべてのバランスを見ながら、それぞれの子に対して必要なことにアプローチをすることです。
▼4コーナーモデル
・テクニック
・フィジカル
・メンタル
・ソーシャル
この子はキック(テクニック)が必要だ。この子は人と話をすること(社会性)が必要だ…一人ひとりの選手に対して4コーナーを元に評価しているから抜けがなく、サッカー選手としてバランスの良い選手が育ちます。日本ってチーム全体を見回して『ここが足らないからこうやっておこう』みたいな感じでトレーニングを考えていきますよね。イングランドのコーチを見ていると、クラブとしてやるべきサッカーがあって、その上でそれぞれの子どもに対して4コーナー、5コーナーを使っているので選手を個として捉えることがすごくうまいです。だから、日本のコーチとは選手たちへの働きかけ方も、求め方も違うのだと思います。コーナーモデルがベースにあるから偏りがなく、イギリスのこの指導哲学はとてもいいものだなと、私自身も教えていて実感しています」
今回、古木氏と話していても、ポール氏と話していても、例えば日本の指導者たちが知りたいような戦術的なテーマにはならなかった。それを自分なりに「どうしてだろう?」と振り返った時に、きっと過去にイングランドも技術的・戦術的な指導に偏りすぎて失敗を経験したからではないかと思った。彼らを取材していると、「こちらにも意見を問いかけるし、あちらもそれに対する意見を答える」ということが、テーマごとに一本の曲のように流れていった。そして、今回取材を終えた後は、一人のアーティストのアルバムを聴き終わったような感覚になった。
そういうコミュニケーション力こそがサッカーにおいて必要な要素であり、イングランドDNAの根幹をなす「ソーシャル=社会性」という部分に通じているのだと思った。フリーズも失敗を正すことが目的ではなく、成功者のアイディアを共有するもの。サッカーの議論を交わすことも誰の意見が正解か不正解ではなく、自分にないアイディアを吸収して次の行動に生かすためのもの。そう捉えると、日本のコーチたちもすべての人や物事から学ぶことができるのではないだろうか。
【プロフィール】
古木仁(ふるき ひとし)
サッカーブランド「アルファゴール」の輸入販売を扱う株式会社モーニングホープ代表取締役。現在は「Liverpool FCIA Japan」で通訳兼コーチも務める。イングランドと日本の橋渡しをするため、通訳兼コーチとして活動。ポール・ニアリー氏などイングランドの優秀な指導者が日本に来日した際のアテンドなども行っている。
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