「拮抗した試合」が増えた。勝ち進んだチームから見えた“切り替え”の質

2020年01月08日

育成/環境

昨年末の鹿児島は暖かかった。12/29、噴煙が上がる桜島を望む白波スタジアムでは、ジュニア年代の選手が日本一を競い合っていた。今大会で43回目を迎える「全日本U-12サッカー選手権大会」の決勝は「柏レイソルU-12(千葉県代表)×バディーSC(神奈川県第二代表)」が対戦。結果は3対1でバディーSCが勝ち、全国を制した。

ちなみに今年もまた取材陣が減った。決勝以外の貴重な情報を独自に届ける媒体は、すでにジュニサカWEBだけとなった。そこで、今年一発目の特集はこの大会を取材して気づいたことを備忘録として残しておきたい。一テーマ特集では伝えられない大事なこともあるので、毎週コラム形式で多様なテーマを綴れたらと思う。

【1月特集】「全日本U-12サッカー選手権」備忘録

取材・文●木之下潤 写真●佐藤博之/ジュニサカ編集部


柏レイソル バディーSC

サッカー指導の課題が浮き彫りになって安堵した

「拮抗した試合が増えたな」

 初日を取材し終えた感想だった。予選グループがすべて終了した後、結果を確認すると、やはり二桁得点差で負けるチームはなく、五点差以上で勝負がついた試合も昨年ほどの数は見られなかった。チーム内でのボールを扱う技術差もさほどなくなり、落ち着いたゲーム運びが目についた。

 どこもディフェンスラインから丁寧にパスを回し、相手陣内に侵入する。サイドから攻撃を仕掛けながらシュートまで持っていく。相変わらずボールがセンターハーフを経由する率は低いが、それでも昨年よりは中盤を使ったゲームの組み立てはしていたように思う。

 さらに守備についてもボールの出所を中心に個々が密集し、組織的に戦っていた。個人的に良かったのは、三重県代表の大山田サッカースポーツ少年団。結果は予選グループで全敗だったが、基本システムに選手が立ち位置をとる攻守の切り替えの早さ、相手の攻撃に合わせた個々の立ち位置の修正能力は非常に高かった。

 出場チームの中でも平均身長が低かった。だから、そういったフィジカル差を埋めるためにも、コーチが練習や試合でボール扱い以外の部分を鍛え上げているのが見て取れた。驚いたのは、ボール保持者とターゲットになる選手の間に必ずカバーがいて、その選手がどの選択をされても対応できるような中間ポジションを取れていたこと。もちろん完璧とまではいかない。

 しかし、予選グループの浦和レッズジュニア(埼玉県代表)とアビスパ福岡U-12(福岡県代表)のJアカデミー、ここ数年全国大会で結果を残すアミティエSC草津(滋賀県代表)と対等に戦えていた。違うグループだったら予選突破も十分に考えられたほど、印象深いチームだった。

 私にとって今大会最大の関心事は、選手間にボールを扱う技術差がさほどなくなったことで「やっとコーチの指導力差が表面化」し、日本サッカーの本質的な課題が浮き彫りになったことだった。

 もう何年も指導力に関する課題を書き綴っているが、「集まる選手によってチームに能力差が出る」とか、「今年は運動能力が高い選手が少なかったから」とか、言い訳の矛先を選手に向けられ、相手にしてもらえなかった。ようやく少し「サッカー指導とは?」に向き合わざるをえない状態が生まれつつあって、日本の未来に安堵している。

センアーノ神戸 鹿島アントラーズつくば

切り替えのあるトレーニングを積み重ねる重要性

 はじめに今大会の特徴(傾向)を大まかに整理したい。そして、それらの項目を前提に話を展開していく。ただ、あくまで個人の見解なので、自分で確かめたい人は下記のアドレスで動画をチェックしてほしい。

http://www.jfa.jp/match/japan_u12_football_championship_2019/

▼攻撃
・ボール扱いの技術差がさほどなくなる
・基本システムに立ち位置を取れる
・足下でボールをつなげられる
・中盤も少し使えるようになる … etc.

▼守備
・基本システムに立ち位置を取れる
・ボールを中心に密集した組織が作れる
・ボールの動きに応じてスライドできる
・中央へのパスコースを切れる … etc.

 私は、拮抗した試合が多かった理由が「基本システムに立ち位置を取れる」ことに起因していると考えている。その証拠に、わりとどのチームも攻撃と守備とがセットされた状況で落ち着いてプレーしていたシーンが数多く見受けられた。

 攻撃側としては、どの選手も足下の技術が安定しているので全員が安心してボールを預けられるし、そのつながりをもって前進できる。だから、慌てることが少なくなった。ボールを奪われても基本システムに立ち位置を取れるから、大きく崩されることもない。

 一方、守備側もボールを奪われた後、基本システムに立ち位置を取れるから攻撃側につけ入る隙を簡単には与えていない。その後もボールを中心に密集した組織を作り、スライドするから穴を開けてはいない。しかも中央へのパスコースを切れるから攻撃側も自然にサイドに逃げていく。

 どのチームもまんべんなくこのようなことができるようになっているから、混乱もなく、攻撃と守備がわかりやすい状況でずっと繰り返されていた。一見外から観戦していると「うまいな」「整っているな」という好印象を受ける。それも確かに正しい見方だ。

 しかし、並べた項目をジッと見つめてほしい。

 どこにコーチのアイディアや指導力を必要とするのか。これらは選手個人でもチームに属していれば身につけられることであり、ヨーロッパや南米では10歳までに習得している内容だ。ごく基本的なことで、複雑な思いはあるが、全国大会レベルのチームができる項目として喜ばしいことではない。

「この先に進むにはどうすればいいか?」が指導力と向き合う上で重要だ。

 そこで、勝ち上がったチームの特徴に触れたい。参考になったのは、ベガルタ仙台ジュニア、センアーノ神戸、横浜F・マリノスプライマリー、ディアブロッサ高田だった。これらのチームにあって、負けたチームになかったものは何か。

 それは「切り替え」が早く、その中に意図と判断が存在していたこと。

 勝ち上がったチーム全般的に言えるのは、圧倒的に切り替えが早かった。攻撃から守備の切り替え、守備から攻撃の切り替え。シンプルに、全員が基本システムをベースに状況に応じた立ち位置を取るスピードが早かった。そこにはかなりの差があった。正直、攻守と守攻の両方の切り替えを安定的に体現できたチームはなかったが、大会中に成長し表現できたチームとして、決勝戦のバディーSCがそれに該当する。

「切り替え」を学ばせるには、コーチに知識と指導力が必要になる。

 なぜなら日頃からゲームに近いトレーニングを作り出さなければならないからだ。よく日本で見かけるような「一つのゴールを置いた2対2、3対3」をやっても切り替える状況は生まれない。ましてやコーンドリブルではボール扱いしかうまくならない。切り替える状況を生むには何かと何かの要素を組み合わせたり掛け合わせたりし、コーチが複合的なトレーニングを考えられる知識を身につけなければならない。

 そして、個人の切り替えも大事だが、ジュニアであればグループ(複数人)による切り替えを練習の中から学ぶことが、8人制サッカーへとつながる。単純にゴールを2つ向かい合わせた2対2や3対3、ゴールを4つ置いたグループトレーニング、技術トレーニングでも「シュートを打った後に守備に入る」などの設定をすれば「切り替え」を発生させることができる。

ベガルタ仙台 和歌山

切り替えの練習に、どう複数の人を関わらせるか

 先ほど挙げたベガルタ仙台ジュニア、センアーノ神戸、横浜F・マリノスプライマリー、ディアブロッサ高田の4チームには、切り替えの中に、もう一つチームとして大事な要素をプレーとして表現できていた。

 それは「人との関わり合い」だ。

 個々の選手がボールから自分までを見通し、「その間の敵と味方がどう動きながら配置されていくから僕はこうしよう」と素早く認知して動けていた。これはコーチが練習から「チームとしてどう戦うか」「このポジションだったらどんな対応が必要か」「どういう優先順位でプレーすべきか」などを具体的にトレーニングに落とし込み、選手に理由を伝えながらコミュニケーションを取っていかないとできないことだ。

 横浜F・マリノスプライマリー以外は、一年を通して全国大会の場で取材できていたので、コーチが練習や試合の中でそういうアプローチをしているのを知っている。最近では、ゲームモデルやプレー原則といった言葉で一括りに片付けられがちだが、もっと大きなところで小さい頃からイメージを持てるような取り組み、土台づくりが必要だと個人的には思っている。

 日本だと要素として言語化すると、会社の査定項目表のように個人にフォーカスしてできているかできていないかをチェックしてしまう傾向にあるが、サッカーはチームスポーツなので個人の時間より他人との関わり(チームやグループ)から答えを出す時間のほうが多い。だから、「他人との関わりの中で自分がどうするか」をプレーで体現できる選手が育つような取り組みは大切なことだ。

 現時点で、具体的な言語化が難しいのを実感するし、無力さを痛感する。「切り替え」と「人との関わり」との両輪がスムーズに回っているようなコラムを書けたらいいのだが、今の自分にはできない。ただ何か足らなかったことを言葉にし、「こういうことをしたらいいのでは?」という提案じみたことはできる。せめてもの抵抗だ。

 ベスト16に勝ち進んだチームは途中途切れることはあっても、攻撃、攻撃から守備、守備、守備から攻撃と4局面に連続性をもち、チームとして人との関わり合いを保ちながらプレーしていた。だから、流れるようなパスワークや複数人が関わるチャンスメイクとゴールが生み出せ、隙のない守備によって拮抗した試合を作り出せていた。

 攻撃や守備とセットされた状況の練習も大事だが、これからは「切り替え」というカオスの状況をどう作り、どう打破するのか、どう利用するのかもサッカー指導に取り入れる時期に来ている。私は、そのカギを握るのが「オフ・ザ・ボールでのプレーの関わり方」だと睨んでいる。

>>1月特集の第二弾は「1月15日(水)」に配信予定


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