「目先の勝利より、選手を“認める”指導の実践を」 何のためにスポーツをするのか
2021年04月22日
育成/環境力強いスパイクを武器に日本を代表するアタッカーとして2004年のアテネオリンピックに出場した大山加奈さん。しかし、小学生時代のオーバーユースで後遺症に苦しむなど、人知れず悩みを抱えてきた。そんな大山さんは現在、バレーボールの普及活動に携わる一方、体罰やスパルタなど育成年代の指導が抱える問題に声を上げている。今回、サッカー界における育成のスペシャリスト池上正氏との対談が実現。スポーツ界の明るい未来に向けて、残さなければいけないメッセージとは。
『バレーボール指導の極意』巻末特別対談より一部記事を抜粋
著●岩本勝暁
できなかったことができるようになる
──大山加奈さんは池上正さんの著書を、どのような流れで知ったのですか?
大山 私が2010年に現役を引退してから、子どもたちの指導に携わるようになったとき、絶対に自分の経験則だけで指導をしちゃいけないという思いがあったんです。とにかく勉強をしたい、と。いろいろ調べていく中で、池上先生の本に出会い「なんて素晴らしいんだ!」というところからはじまりました。今では全て買いそろえて、後輩にも「これ読んで!」と勧めています。
──今回の対談では、主に小学生年代の指導について話をうかがいたいと思います。池上さんはサッカーの指導者としてご活躍中ですが、バレーボールにはどのようなイメージをお持ちですか?
池上 私は今、大学で非常勤講師をしているのですが、一緒に働いている方の中にバレーボールの関係者がおられまして。その方がおっしゃっていたのが、例えば、二つの学校が一つの体育館を使って合宿をすると、どっちが長く体育館にいるかという競争をしていると言うんです。いまだにそんなことをしているのかと。
大山 私も小学2年からバレーボールをやっていますが、朝から夜まで丸一日練習していました。本当にやりすぎだと思います。週に6日もやっているチームもあって、子どもにとっての自由な時間がないですよね。
池上 どこのチームもそんなに長く練習をしているのですか?
大山 はい、とても多いですね。一度、あるチームの監督さんに「ちょっとやりすぎじゃないですか?」と苦言を呈したことがあるんです。ところが、その監督さんは「選手がやりたいと言っている」の一点張りで……。本当に子どもたちがそう思っているのかはわかりませんが、それが現状でもありますね。
池上 子どもは、やればやるほど自信につながるというのは事実です。だけど、それを止めるのが指導者の役割で、子どもが「もっとやりたい」と言っているからといって、やり続けると際限がなくなります。
──どれくらいの練習時間が理想ですか?
池上 サッカーでいうと、ヨーロッパでは90分の練習時間が基本です。大人のサッカーは90分で行われるので、それに合わせていますね。じゃあ、小学生だったらどれくらいの練習時間が適正かというと、60分か、もっと短くてもいいと思います。なおかつ、練習は週2日で、土日のどちらかに1試合したら終わり。子どもたちには他にもやるべきことがあります。家族と一緒に過ごす時間も増やしてほしいですね。
大山 おっしゃるとおりです。私自身、小学生の頃からひたすら日本一を目指してきて、とにかく練習したかったし、強くなりたかったし、うまくなりたかった。だけどその後、プレーのしすぎが原因で、大きな怪我を負ってしまいました。指導者は目先の勝利だけではなく、その選手の長い人生をちゃんと見据えて、今何をすべきかを見極め
てあげないといけません。
池上 子どもが「もっとやりたい」と言っても、「楽しいなら、今日はこれくらいにしておこう。その方が上手になるよ」と言って止めてあげてほしいですね。
──子どものモチベーションを上げるために心がけていることはありますか?
池上 先日、あるチームの指導に行って、5、6年生の試合を見ていました。すると、全然楽しそうじゃないんですよね。そこにいた指導者にも、「これだと絶対にうまくならないですよ」という話をしました。結局、「俺たちは週に何日もやっている」「毎日何時間も練習している」と思っているだけで、決してうまくなっていない。うまくなるには、自分がやっているスポーツを「もっと楽しみたい」という気持ちでやらなければいけません。「勝ちたい」「レギュラーになりたい」と歯を食いしばって頑張っている小学生は、どこかで行き詰まってしまいます。私のやり方で言うと、子どもたちが「できないことを与える」ということです。なかなか難しいのですが、「どうやったらできるの?」ということができるようになると、やはり嬉しいものですよね。
つづきは『バレーボール指導の極意』からご覧ください。
大山加奈(おおやま・かな) 1984年6月19日生まれ、東京都出身。元全日本女子バレーボール選手。成徳学園高校(現・下北沢成徳高校)で、主将としてインターハイ・国体・春高バレーの3冠を達成、小中高全ての年代で日本一を経験。東レアローズ女子バレーボール部に入部後アテネオリンピックに出場するなど、力強いスパイクを武器に日本を代表するプレーヤーとして活躍。2010年に現役を引退。キッズコーディネーショントレーナーの資格を取得し、全国での講演活動やバレーボール教室に精力的に取り組み幅広く活動している。
池上 正(いけがみ・ただし) 1956年生まれ、大阪府出身。「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼年代や小学生を指導。02年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。2010年1月にジェフを退団。同年春より「NPO法人I.K.O市原アカデミー」を設立。2011年より京都サンガF.C.で普及部部長などを歴任した。現在は大学講師も務める。08年1月に上梓した初めての著書『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(08年・小学館)はベストセラー。ジュニア指導歴39年で、のべ50万人の子どもたちを指導した実績を持つ。
【商品名】バレーボール指導の極意
【発行】株式会社カンゼン
【発売日】2021/04/19
【書籍紹介】
いまどき選手の力を引き出す監督がここまで明かす!
バレーボール指導の極意
脱根性、脱スパルタ、脱勝利至上主義
『人を育て、結果を残す』
今、指導者へ求められるマル秘上達メソッド
練習メニューの一部はQRコードで確認
巻末特別対談
大山加奈(元日本代表)×池上正(「NPO法人I・K・O市原アカデミー」代表)
<収録チーム>
【高校】
「選手の邪魔をしない」
人から指示されるのではなく、
選手が自分たちで勝つことを求める
(星城・竹内裕幸総監督)
「自主性、自立、自律」
徹底した放任主義で、選手の考える力を養う
(慶應義塾・渡辺大地監督)
「負けの流れを作るミスを減らす」
シンプルな技術を伝え、
全ての不安を解消して選手を試合に送り出す
(益田清風・熊崎雅文監督)
【中学校】
「選手を完成させない指導」
みんなと一緒のことを頑張るのがベース。
「誰からも応援されるチーム」を
(ジェイテクトSTINGSジュニア・宗宮直人監督)
【小学校】
「小さくても戦える」
徹底した反復練習が正確なサーブと
粘り強いレシーブを生み出す
(上黒瀬JVC・小林直輝監督)
「〝勝ち〟から〝価値〟を見出す」
積極的に声を出して
コミュニケーション能力の高い子どもを育てる
(東風JVC・楢崎和也監督)
岩本勝暁 いわもと・かつあき
2002年からフリーランスのスポーツライターとして活動を開始。バレーボールやサッカー、競泳などのオリンピック競技からセパタクローまで幅広く取材。『月刊バレーボール』(日本文化出版)を中心に、主に雑誌やウェブに寄稿する。夏季五輪は2004年アテネ大会から2016年リオデジャネイロ大会まで4大会を現地で取材。また、『ママさんバレー 基本と戦術』(実業之日本社)、『ビーチバレーボール教本』(日本バレーボール協会)、『ソフトバレーボールの教科書』(日本文芸社)などの実用書のほか、セパタクロープレーヤー寺島武志の生き様を描いたフォトブック『夢を跳ぶ。』(日本写真企画)では執筆を担当する。
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