ケガをしにくい“体の使い方”とは? 体重移動ではなく「重心移動」

2018年12月03日

フィジカル/メディカル

ジュニア年代の子どもたちはオスグッド病といった様々な「スポーツ障害」を引き起こしている。その原因はどこにあるのか。スペインのRCDエスパニョールでトレーナー経験を持つ松井真弥氏は「間違った体の使い方」がケガを引き起こす要因の一つだと指摘する。今回はフィジカルコーディネーターの松井氏の言葉からケガをしない体の使い方を学んでいく。

ジュニアサッカーを応援しよう!VOL.45』より転載

文●木之下潤 写真●ジュニサカ編集部、Getty Images


image_preview

「体重移動」ではなく「重心移動」

 サッカーほど瞬間的に複雑な動きが絡み合うスポーツはないだろう。ボールを足で扱いながら周囲の上京を確認し、脳で判断を下したプレーを実行する。しかも、それを試合中ずっと繰り返す。付け加えると、状況は目まぐるしく変わり続けるから判断したプレーが一瞬にして最適ではなくなる。だから、次の瞬間にそのプレーを止めたり、変更したりすることがたくさんある。
 
 そうなると当然、負担が大きい。そもそもボールを手ではなく足で扱う難しいスポーツな上、状況に応じたプレーをしなければならない。そこに対人が関わるからケガのリスクは余計に高まるのは間違いない。

「ジュニア年代の子も病院にやってきます。サッカーをしている子たちに多いのはオスグッド病、シンスプリント、かかとの骨端症、グロインペイン症候群、腰椎分離症です。これらの症状を発症した子どもに共通しているのは『基本的に前傾姿勢で腰が引けて足の力を全面的に使い踏ん張って動いている』ということです。ジュニア年代だと5、6年生ぐらいから病院に来ることが多いです。疲労がたまると筋肉が硬くなるのですが、その状態に気づかずいつも通りに動き続けた結果、筋肉や腱、骨に負担がかかって様々な症状を引き起こします」
 
 そう語ったのは、スペインのRCDエスパニョールやベガルタ仙台でトレーナーをした経験を持つ松井真弥氏だ。同氏は、育成年代のサッカー選手たちのケガを治しながら“体の使い方”をアドバイスしている。

「ケガを治してもサッカーにおいての体の使い方が間違っていれば、またケガをして病院に戻ってきます。だから、私は必ず体の使い方を指導しています。姿勢が悪い状態で足の力だけで素早く動こうとすれば必然的に下半身に負担がかかるのは当たり前です。

 日本人の子どもたちでよく見かけるのは、後ろ足を蹴ってスタートすること。行きたい方向とは逆に一度上半身を振ってその反発力を利用して後ろ足で地面を蹴って動き始めます。欧州ではそんな出だしをするような選手は見かけません。進みたい方向へ肩を振り、背中を上手く使って地を蹴る事なく動き出します。

 わざわざ行きたい方向とは反対方向に上半身を振って動き出しても攻守で対応が遅れますし、無駄な体力を使っているだけです。それに蹴ることで後ろ足に負担をかけることになります。サッカーでその動きを続けたとしたら…。そう考えるとサッカーという観点では多くの日本人の体の使い方、動き方は最適ではないと言えると思います」

 確かに、日本人はスタートする時に地面の蹴り足である後ろ足に反動をつけるため、一度上半身を後方に振っているように思う。

「日本人の動き方は体重移動だということです。サッカーは前後、左右、斜めに素早く動けた方が実践に生きます。だから、私は“重心移動”の考え方で体の使い方を指導します。簡単に説明すると、動き出し時に進みたい方へおへそを向けるんです。そうすると、自然に体がその方向へ動き始めるからそれを利用して走るんです。そうすれば動き始める時に足を使わず無駄な負担や体力もかかりません。おへそ=重心を進みたい方向へクッと動かすと上半身がその方向に倒れるからその重力を利用して動き出す。結果的に足は後からついてきます」

「肩甲骨」をうまく使うことが大事

 動き始めは下半身ではなく、上半身だというのは目からウロコだ。下半身ばかりに頼った動き方をしているから単純に体の大きな海外の選手に勝てないのかもしれない。

「例えば、ラダーでも『足を素早く動かして!』と声をかけているコーチをよく見かけますが、選手たちの様子を見ていると前かがみになってお尻が落ちて足だけを必死に動かしています。私には下半身をいじめているようにしか思えません。ラダーはコーディネーショントレーニングの一環だから体の使い方を覚えることが目的です。足の回転力を上げることが目的ではありません。まず、体の使い方を習得するには正しい姿勢を身につけることが必要です」
 
(2017年)3月に千葉市で松井氏が不定期に開いている講習会「体にとって無理のない動き出し方・走り方」に参加した。その時には「上半身と下半身をうまく連動させて動き出すための基本」を次のように教えてくれた。

 1.上半身を骨盤(お尻)に乗せる姿勢(ゼロベース)を作る
 2.肩甲骨(肩)を引き上げ、骨盤を引き上げて動く

 
 上半身をお尻の上に乗せる感覚は猫背になったり、前かがみになるとわからない。また、おへそを進みたい方にいろいろ向けてみると気づくが、おへそを動かすと肩甲骨や背中も連動して付いてくる。おへそはあくまでも方向付けにしかすぎず、動き出すには連動して付いてくる肩甲骨をうまく使うことが松井氏は大事だという。

 実践してみるとわかるが、肩甲骨を引き上げると骨盤が引き上がって足が前に進む。歩くとか走るとかはその繰り返しを素早く行っているにすぎない。なぜ動き出しに「おへそ →肩甲骨→骨盤」が連動しているかといえば、筋繊維でつながっているからだ。

「前回(「足の負担を少なくする動き方」ってどんな動き方? 体全体を使った動き方を学ぶ)教えた『肩甲骨を引き上げ、骨盤を引き上げる』という動き出し。これをじっくりと試してみて下さい。すると、使っている筋肉が体の後ろ側にあることに気づくはずです。だから、私は『上半身を骨盤(お尻)に乗せる姿勢=ゼロベースを基本だと伝えました。この姿勢は背中に意識が向くんです。

 例えば、窮屈に前かがみになってラダーをやるのと、ゼロベースでラダーをやると足の疲労度が全く違います。さらに基本姿勢のまま肩甲骨と骨盤の連動を意識してラダーをやってみると、どこが疲労するかといえば肩甲骨から腰、骨盤、太ももにかけた広い範囲です。ということは、疲労が分散されていることがわかります」

ROSTOV-ON-DON, RUSSIA - JULY 02:  Yuya Osako of Japan is challenged by Vincent Kompany of Belgium during the 2018 FIFA World Cup Russia Round of 16 match between Belgium and Japan at Rostov Arena on July 2, 2018 in Rostov-on-Don, Russia.  (Photo by Robert Cianflone - FIFA/FIFA via Getty Images)
【理想の“体の使い方をしている選手に松井氏は日本代表の大迫勇也選手をあげた】

手本となる選手は「大迫勇也」

 動き出しを補足したい。肩甲骨を引き上げる→背中や腰の筋肉によって骨盤が引き上がる→足が上がる→そのまま前に足が出る。足が自然に前に出るのは関節が前に曲がるからだ。右足、左足と交互に繰り返しを速くすればその回転力はどんどん上がっていく。足を動かすのではない。上半身(背中)を先に動かし、後からついてくる下半身を続けて動かすイメージだ。

 また、走る時によく「手を速く大きく振れ」という言葉を耳にする。多くの指導者は「手を大きく振ると足が上がるから」という。間違いではないが、手を大きく前に振っても足は上がらない。手を大きく引いたら足が上がるのだ。

「動き出した体をどんどん加速させるには、上半身と下半身の体の回転力を上げることが重要です。そこでポイントになるのが腕を引くことです。腕を引けば連動して肩甲骨が引き上がり骨盤が前に傾きます。引けばその反動で腕は前にも振れますから引くことを意識した方が体の動きとしては理に適っています。だから、私は速く走らせる時には『腕を引く、引く』という声をかけています。少し掘り下げると、筋肉には屈筋と伸筋があります。曲げる筋肉は疲れやすいから伸ばす筋肉を使った方がラクで動きやすいんです。それに伸筋を使った方が当たりに強くなります。

 例えば、一度グーを強く握って誰かとぶつかり合うのと、パーと手を開いて誰かにぶつかり合うのを比べてみて下さい。パーをした状態では自然に背中が伸びて伸筋をメインに体を使うから竹のようにしなやかな状態になるんです。でも、グーをすると自然に背中が丸まり屈筋をメインに体を使うから体が一つの塊のような状態になり、強い当たりに適応できなんです。まさに筋トレはこの状態を作っている。筋肉を鍛えて固めたら自分よりも大きな相手にぶつかられたら負けてしまうに決まっています。

 でも柔構造の建物のようにどの方向からの力にも耐えられたらぶつかり合いに負けることはありません。その象徴が大迫勇也選手です。彼は伸筋をメインに使っています。伸筋を使うことは必然的に背中を意識するから、私が考える体の使い方にマッチしています。背中は姿勢にも肩甲骨にも、骨盤を引き上げることにも腕を引くことにもかかわっています」
 
 前回(「足の負担を少なくする動き方」ってどんな動き方? 体全体を使った動き方を学ぶ)の講習会で「背中から腰の周辺をほぐす」エクササイズ(4ページ目)を習った。松井氏曰く「あれはほぐす意味もありますが、伸筋を意識させる意味もあります」。体の使い方は上半身とか下半身とか足とか腕とかいうのではなく、体の作りと動きの連動性を知らなければある一部分にだけ負担がかかるような結果になってしまう。

「私の考えでは技術とフィジカルはセットです。技術とは、頭の中で考えた筋繊維の活動を繰り返し行うこと。そこにはフィジカルが複雑に絡み合っています。だから、私はサッカーに通じる体の使い方という観点でそれぞれをわけて考えていません。選手たちのパフォーマンスという視点で見れば、自分の思い描いたプレーをそのまま体で表現できるのが子どもたちにとって理想だと思います。単純に100mの直線距離を競い合うことではありませんから」

「背中から腰の周辺をほぐす」エクササイズ

P57-ph01
【背中を伸ばした状態を保ちながら腰の部分の反りを保持し前傾する】

P57-ph02
【腕と骨盤をつないでいる背中の筋肉を意識しながら手を耳の高さまで上げる】

P57-ph03
【お尻を突き出し、背中の反り、背中に刺激を感じながら手の上げ下げを行う】


<プロフィール>
フィジカルコーディネーター 松井 真弥(まつい しんや)

スペインで10年、日本で3年、プロのサッカークラブでトレーナーを務める。帰国後は鍋島整形外科で体の使い方によるスポーツ障害の減少・パフォーマンスアップ、さらに健康維持等の指導、操体法による体のケアを行う。不定期で「足に負担をかけない動き方・体全体を使った動き方」などの講習会を開催。

▼経歴
2000〜2010年 RCDエスパニョール・トレーナー(スペイン1部リーグ)
2011〜2014年 ベガルタ仙台・トレーナー
2014年〜 鍋島整形外科(千葉市)
2018年〜 幅広い分野での活動を目指し、「EL CUERPO治療室」を設立。現在は順天堂大学サッカー部トレーナーとしても活動し、他にも2校のフィジカルアドバイザーを務める

▼ホームページ
https://elcuerpo.net/


カテゴリ別新着記事

お知らせ



school_01 都道府県別サッカースクール一覧
体験入学でスクールを選ぼう!

おすすめ記事


Twitter Facebook

チームリンク