「決してフィジカルで劣ってはいない」。スペインの名スカウトが評価する“日本人選手の強み”とは
2020年03月09日
読んで学ぶ/観て学ぶ日本人は欧米人に比べてフィジカルで劣る。日本サッカー界の中では、さも常識のように語られている言葉である。しかし、海外の眼は違う。セビージャを黄金期に導いた“モンチの片腕”アントニオ・フェルナンデスいわく「フィジカルは自分たちの強みであるという認識に変えるべきだ」と言う。そう語るフェルナンデス氏がJリーグ視察のため昨年来日した。限られた時間の中で応じてくれた貴重なインタビューの模様をお届けする。今月6日に発売した『フットボール批評 issue27』から一部インタビューを紹介。
『フットボール批評 issue27』 より一部転載
文●小澤一郎 写真●Getty Images
日本人選手の強みは 〝フィジカル〞にある
――今季はラ・リーガの2部に香川真司(サラゴサ)、岡崎慎司(ウエスカ)、柴崎岳(デポルティーボ)といった日本人選手が移籍をしたことで日本人にとってもスペイン2部が身近になりました。試合を見る限り、スペイン2部はレベルが高く、拮抗しているように思いますし、個人的には2部リーグとしては欧州屈指の戦術レベルの高さと認識しています。あなたはスペイン2部リーグをどのように認識されていますか?
「実際問題、レベルは高いと思います。リーグとしての特徴はフィジカル的で、試合を決めるのは戦術的なディテールです。レスターでプレミアリーグ優勝を果たした岡崎慎司がウエスカでプレーしていることもそれを証明しています。1部のように世界的なスター選手はいませんが、チームのレベルや選手の質は高く、ファンにとっても魅力的なリーグです」
――2部の日本人選手をどのようにご覧になっていますか?
「いずれも高いレベルでプレーしています。日本人選手はどの選手もフィジカル面で高い能力を持っています。ここで言うフィジカル面とは、体の大きさ、高さではなく、スピードや敏捷性など動きのことです。技術面でも高いものを持っていますし、スペインのサッカーに合う選手が総じて多い印象を持っています。ただし、各局面での判断力には改善の余地があるようにも見えますし、それは育成年代からの問題でもあると思います。メンタリティと判断力の課題を解消できるような選手であれば、それは乾であり、香川であり、柴崎だと思いますが、彼らのような日本人選手であれば間違いなくスペインで活躍するでしょう」
――フィジカル面の言及は毎回欧州サッカー関係者と話すたびに興味深い示唆を受けます。我々日本人は「日本人はフィジカル的に劣っている」と考えがちなのですが、逆に欧州のサッカー関係者は口を揃えて「日本人選手はフィジカル的に優れている」と話します。まさに今のあなたの言及がそうでした。
「フィジカルは2つに分けて考える必要があります。まずは生理学的なフィジカルです。前述の通り日本人は一般的に体の大きさや高さ、強さでさほどアドバンテージがありません。もう一つが競技パフォーマンス的フィジカルで、そこは日本人の特長と捉えています。日本人選手は一般的にインテンシティが高く、スピードが速く、集中力も高い。文化的な面から来る規律の高さ、忠実さも持ち合わせていますので、補強を考える上では計算しやすい選手と言えます。競技パフォーマンス面でのフィジカルを見たときに日本人選手は『フィジカル的に優れている』と断言できます。サッカーにおけるパフォーマンスを発揮するためのフィジカルを日本人選手は持っていますので、『フィジカルは自分たちの強みである』という認識に変えるべきだと思います」
フェルナンデス氏が発掘したスター選手の代表格であるダニ・アウベス
モンチが全幅の信頼を置いた名スカウトの手腕
――あなたのキャリアにおいてセビージャ強化部の経験は欠かすことのできないものだと思います。世界最高のSDとも言われるモンチの右腕として黄金期のセビージャのチーム編成を担いました。セビージャでの経験についてお話しください。
「はい。私はモンチとともにセビージャの強化部に入りました。2000年のことで、当時のセビージャは2部にいました。しかし、そこから黄金期が始まります。はじめはスカウトとして働いていましたが、すぐに国際部責任者として国外のマーケットを担当するようになりました。そこで出会ったのがダニ・アウベス、ジュリオ・バプティスタ、レナト、ルイス・ファビアーノ、アドリアーノといったブラジル人選手です。彼らによってセビージャはレベルを一段も二段も上げることに成功し、その後の6年間で5つものタイトル獲得に成功しました。UEFAカップを2度獲得し、モナコで行われたUEFAスーパーカップではメッシ、ロナウジーニョを擁するバルセロナに3‐0で勝ちました。当時のセビージャはセビージャというクラブを国際的に押し上げてくれました。黄金期のセビージャにおいて、私はモンチの下で素晴らしい経験を手にすることができました。結果的に、私はセビージャでは6年間働きましたが、今となってはすべてがいい思い出ばかりです」
――あなたはダニ・アウベスを発掘したスカウトとしても有名です。セビージャのみならず、スペインサッカー界において「最も費用対効果の高い補強」だったと思いますが、どのような経緯で獲得に至ったのですか?
「アウベスを最初に見たのは2003年にウルグアイで行われたU20南米選手権でした。1月開催の大会で欧州、スペインの冬のマーケットは周知の通り1月31日でクローズになりますので、モンチが南米まで来る時間がありませんでした。とにかく強烈なインパクトを残す選手で、モンチには電話で『すぐにでも獲得すべき』と太鼓判を押したのですが、時間がありませんでした。結果的にモンチは『そこまで言うなら』と全面的に私の目を信頼してくれ、『お前の目はオレの目と同じだと思っている』という信頼まで示してくれました。ただ、当時のセビージャには潤沢な補強予算はなく結果的にアウベスに80万ユーロもの移籍金を払うのですが、当時のクラブからすると相当に高額な移籍金で注目されていない選手でもあったことから地元では彼の獲得を懐疑的な目で見られました。当然、その責任は私にありますので獲得当初は相当なプレッシャーにさらされました。しかしその4年後、セビージャはアウベスをバルセロナに3600万ユーロの移籍金で売却しました。彼は私のキャリアを語る上で欠かせない選手の一人ですし、今でもアウベスとは良好な関係を持って付き合っています」
つづきは発売中の最新号『フットボール批評 issue27』からご覧ください。
<プロフィール>
アントニオ・フェルナンデス
1970年8月27日生まれ、スペイン出身。2000年にセビージャの強化部でスカウトを務め、モンチとともにクラブの国際的知名度を引き上げた。その後は、マラガ、バレンシアなどを渡り歩き、08年~10年までスペイン代表のアナリストを務めて、W杯優勝に貢献した。現在はスペイン2部カディスの外部コンサルタントを務めている。
【商品名】フットボール批評 issue27
【発行】株式会社カンゼン
2020年3月6日発売
プレーモデルから経営哲学、はたまた人間形成まで、ありとあらゆる“洋物”のフットボールメソッドが溢れ返るここ日本に、独自のフットボール論が醸成されていないと言えば実はそうでもない。
例えば27年目を迎えるJリーグ自体、“完熟”の域には達していないまでも、“成熟”の二文字がチラつくレベルに昇華している。
“洋物”への過度な依存は、“和物”の金言をフォーカスする作業を怠っているからにすぎない。
フロント、プレーヤー、無論、サポーターにも一家言が備わりつつある時代になっていることを思えば、舶来のメソッドばかりを追いかけるのもそろそろどうかという気がしている。
経営、バンディエラ、キャリアメーク、データ、サポーターなどさまざなま分野に、それこそ秀でた国産のフットボール論は転がっている。
弊誌が見初めた“Jのインフルエンサー”による至言に、まずは耳を傾けてはいかがか。
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