「選手にとって小学6年生という1年間は一生に一度しかない」成長と勝利が求められる現場でどう子どもと向き合うか
2022年06月07日
育成/環境前回の記事ではスペースなどの概念をどう選手に伝えるかについて考えた。今回は全ての指導者が直面する成長と勝利という育成の問題に関して、本日発売の書籍『サッカー指導者は伝え方で決まる 机上は緻密に、現場は柔軟に』から、多くのカテゴリーでの指導経験がある岩瀬健氏の考え方を紹介する。
『サッカー指導者は伝え方で決まる 机上は緻密に、現場は柔軟に』より一部転載
著●岩瀬健 構成●清水英斗
(写真●佐藤博之)
――成長と勝利のどちらかを、もう一方の言い訳にしてはいけない、という状況はありがちですね。
岩瀬 そうですね。自分自身への言い訳でもあるし、もしかしたら他者への嫉妬もあるかもしれません。試合に勝っているからいい。選手を育てているからいい。そういった分断は選手の未来に対して無責任だと感じてしまいますね。12歳の選手が、その後10年間、22歳までサッカーをやるとなった時、はたしてそのアプローチの方法が本当に良いのかどうか。勝って成長することもあるし、成長したから勝つこともある。正解はわかりませんが、選手の未来を最優先に考えたいですね。結局、両方の観点を、育成でもトップチームでも持っていたほうがいい。トップチームは試合結果で判断されることが多くなりますが、選手の成長も必要になるのは間違いありませんからね。
――一人の選手の成長において、中長期的か短期的か、多少の違いがあるだけでしょうか?
岩瀬 そうですね。育成年代であれば、選手の視点で言えば長期的になりますよね。選手としては、小学校6年間、中学校3年間、高校3年間、大学4年間の時間がありますが、同じ指導者が、すべての期間を受け持つことはないので、指導 者の視点で見れば、短期的になります。持ち上がりで同じ選手を2〜3年間指導することは、稀なケースなので。
長期的というのは、あくまでも選手から見たサッカー人生であって、指導者として見れば、その選手と一緒にサッカーをする時間が1年間という可能性もあります。その短い時間の中で、どれだけ選手の可能性を広げることができるのか。もちろん選手自身で掴み取らなくてはいけないこともありますが、指導者の働きかけによっては選手の成長を加速させることができるので、指導経験がメリットになることもあるし、デメリットになることもありますよね。
指導歴の長いコーチが陥りやすい考え方は、「自分の経験」と「選手の時間」を比べてしまうこと、だと思います。たとえば、小学6年生(U-12)の監督を15年間やっている指導者からすれば、次の1年間は監督16年目になりますよね。ただし、一人の選手からすれば、小学校6年生という時間は一生に一度しかないですからね。選手の一生に一度の時間を自分が預かっている感覚を持ち合わせることで、一人の選手に対して丁寧に向き合えるようになるのではないでしょうか。
つづきは『サッカー指導者は伝え方で決まる 机上は緻密に、現場は柔軟に』からご覧ください。
【商品名】『サッカー指導者は伝え方で決まる 机上は緻密に、現場は柔軟に』
【発行】株式会社カンゼン
2022年6月7日発売
【書籍紹介】
選手の約7割は指導者の理論を欲していない。では、どう伝える?
プロサッカー指導者の岩瀬健はトップチームからスクールまで様々なカテゴリーのサッカー選手を指導してきた。サッカー指導者は、ピッチ外における「指導者の理論(ロジック)」とピッチ内における「選手の感覚(フィーリング)」に隔たりがあることを自覚しなければならない、と彼は言う。つまり、机上では緻密な理論を持つことは当然として、現場ではその理論を柔軟に伝えなければ選手は躍動してくれない――。トップチーム監督デビューとなった大宮アルディージャでの経験も踏まえながら、試合、戦術、分析、練習、育成、選手など、シチュエーションごとの最良の伝え方をサッカーライターの清水英斗とともに考察していく。
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