理屈抜きに選手を愛せるか――。湘南・曺監督が実践する「怒る」と「叱る」の違い
2018年02月08日
コラム湘南ベルマーレの指揮官を務める曺貴裁監督は、チームの結果だけでなく個々の選手を育成することに長けた指導者だ。彼の選手に対する接し方や指導理論はジュニア年代の指導者にとっても大いに参考になるはずだ。
『育成主義 選手を育てて結果を出すプロサッカー監督の行動哲学』より一部抜粋
著●曺貴裁 再構成●ジュニサカ編集部 写真●松岡健三郎
「利害関係や理屈を抜きにして、預かった選手たちを好きになる」
昨年のクリスマスごろに、インターネット上で偶然にも読んだ記事に大きな感銘を受けた。
今年の平昌大会を含めて、3度の冬季オリンピックに出場したカーリングの本橋麻里さん(LS北見)が、ある国際大会でジュニアチームを指導した経験をこんな言葉で振り返っていた。
「コーチって、チームの全員を好きになれるかどうかが大切なんだと思いました。いろいろな選手がいます。でもみんなを好きになれれば、チームはうまく行くんだと思うんです」(ナンバーウェブ「コーチングとは“技術”ではない。スポーツに学ぶ『愛する力』の価値。」より)
なかなか口にできない言葉だと思わずにはいられなかった。いっさいの利害関係や理屈を抜きにして、預かった選手たちを好きになる。指導者にある意味で人生を楽しむ、あるいは享受する余裕がなければ、生まれてこない感覚と言ってもいいかもしれない。
人を好きになっていかなければ、その人をしっかり見ることはできない。こちらが好きになったところで、その人から嫌われることもあるかもしれない。それでも、競技の枠を飛び越えて、指導者は自らすすんで人を好きにならなければいけないとあらためて思わされた。
これから先、ITやテクノロジーはさらに発達していくだろう。ロボットや人工知能が大活躍する時代が訪れたとしても、人間がもつ可能性というのは無限に広がっていくのではないか、とも考えさせられた。
僕自身、指導者の道を歩み始めて以来、預かった選手たちを嫌いになったことは一度もない。これだけは自信をもって言い切ることができる。むしろ選手との関係を親と子どもにたとえれば、僕はまぎれもなく子離れできない過保護なダメ親だと思った時期もあった。
選手たちがつまずきそうだと感じれば、問題や課題を克服するための処方箋やヒントだけでなく、場合によっては答えも与えてしまう。自立をうながしたい、可愛い子には旅をさせたいと何度も言い聞かせながらも、肝心な場面で手を貸してしまう自分を咎めたことも少なくない。
それでも、先ほどの脳の話で言えば、選手を愛していなければ、その選手の旧皮質には何も入っていかない。野暮な言い方になるかもしれないけれども、練習における指導やミーティングで発する言葉を含めて、サッカーの指導に関わるすべてが、僕が選手たちを愛していることが大前提となる。
新しい年の訪れを前にして、大事な部分を再確認させてくれた記事と出会えた偶然に心から感謝した。
預かった選手たちを愛してきたからこそ、指導者の道を歩み始めて以来、彼らに対して怒ったことは僕の記憶のなかにない。
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