鄭大世が語るストライカーに必要なメンタル。理想の選手像は「内田篤人」

2017年09月13日

メンタル/教育

チームが勝ちたいときに勝負強さを発揮できる貴重な存在。それがストライカーだ。ストライカーには『メンタルの強さ』が必要だとされる。それはなぜか。元北朝鮮代表の鄭大世選手(清水エスパルス)はギラギラとした輝きを放ち、力強く相手ゴールに迫っていく姿が印象的なストライカーだ。そんな彼は、ストライカーの持つべきメンタルをどう考えているのだろうか。

(文●鈴木康浩 写真●Getty Images)

『ジュニアサッカーを応援しよう!Vol.45』より転載


YOKOHAMA, JAPAN - JULY 29:  Chong Tese of Shimizu S-Pulse reacts during the J.League J1 match between Yokohama F.Marinos and Shimizu S-Pulse at Nissan Stadium on July 29, 2017 in Yokohama, Kanagawa, Japan.  (Photo by Masashi Hara - JL/Getty Images for DAZN)

ストライカーに必要なものは安定感

――ギラギラしたプレースタイルからいかにもメンタルが強そうな印象がありますが、鄭大世選手にとってストライカーに必要なメンタルとは?

 間違いなく、安定感です。これはストライカーに限らず、アスリートとして勝負事を戦うならば絶対に必要です。ストライカーの場合、ゴールを取らないと評価されません。取れるときは気分良くプレーできるからいいんです。問題はゴールが取れなくなったときに焦り出すこと。これは高校時代も、プロになっても、代表でも、すべて一緒でした。焦り出すともっとゴールは取れなくなる。

 結局、メンタルに左右されてしまっている。だから一番大事なのは、ゴールを取れる動きを、継続的に、機械的に、ずっとやり続けることです。守備をして、ビルドアップや崩しに参加して、さらにゴール前へ入っていくのだからすごくしんどい。それでも走り切ることが大事なんです。ボールが自分に来ないと思っても走り切らないと、狙いとは違った場所にこぼれ球が転がってくることがあって、そこにいないとゴールは取れません。だから、継続的に、機械的に、プレーすることが大事なんです。

――ゴールを取れる動きを、継続的に、機械的に繰り返すことが大事だということですが、そのために心掛けていることは?

 これは毎試合のことですが、自分のなかで決め事があって、たとえば、クロスは相手の前に入るとか、くさびのボールを受けるときは一回チェックの動きを入れるとか、僕よりも高い位置に縦パスが出たらボールを見ずにターンしてゴールに向かうと裏が取れるとか、センタリングがアウトスウィングだったら点で合わせるとか、インスウィングだったら縦の動きで線で合わせるとか、色々ある決め事をルーズリーフにまとめてあるので、それを試合前日と試合直前に読み返して確認するんです。

――それを見ると落ち着くということですか?

 感情に揺さぶられないように、感情が無視できる状態を作るんです。機械的にできるように。人間は感情が高ぶり過ぎると空回りをする。逆にリラックスし過ぎると今度は試合に入れない。丁度いいところを保たないといけないのですが、結局はそういうことを考えないことが一番大事なんです。

 僕がメンタルの準備として一番いいと個人的に思うのは、究極のネガティブ・シンキング。これは岡崎慎司(レスター)の書籍に書いてあったんですが、自分に期待しない、どうせ今日の試合も負ける、点も取れなくて試合後に落ち込んでいる、と考える。これがすごく自分に合っていた。絶対にゴールを取ってやる! と試合に入ると力んでしまってゴールは奪えない。だから、僕は今メディアがどれだけ注目してくれても『シーズンで10点奪えればいいです』と言い続けています。それで10点奪えたら目標達成なのであとは力まずにプレーできる。

――ネガティブ・シンキングとは意外でした。自分で自分のハードルを下げるということですね。

 そういうことです。点を取り続けられる 選手はいません。まあ、イグアインはかつてセリエAで36ゴール奪ったからすごいと思うけど、イグアインにしてもユベントスに移籍した当初はゴールが奪えなかっただからこそ安定感が大事になる。うまくい かないときにどれだけ考え過ぎずにプレーできるか。うまくいっても、俺のおかげだ、などと調子に乗らないこと。周りに流されず、感情に流されず、同じテンションでやり続けられる選手が一番強い。内田篤人(FCウニオン・ベルリン)のように。

――内田篤人。

 内田篤人は僕のなかの選手の理想像です。本当にメンタルが強い。メディアには『適当にやっています』などと軽い発言をして一見チャラチャラしているようにも映っていると思うんです。僕は鹿島時代の彼が人気はあるし、うまいし、僕は嫉妬心もあって嫌いでした。僕が『絶対に点を取ります!』と宣言するような、気合い十分の選手をどこかで演じているのに、あいつは『努力とかはしていないです』と適当なことを言っている。

 それでもあいつはワールドカップに出て、シャルケに行って何年も活躍している。そういうのを目の当たりにしつつ、僕がボーフムに行ったときに一緒にいる時間が長くなって仲が良くなったんです。すると芯の強い男だった。カメラの前では本音をしゃべらないけど、実際は芯が強くて、意思がはっきりしていて、周りに流されない強さを持っていた。

――普段接するなかで感じたんですね。

 あいつは、小笠原イズムだ、というんです。そこから来ているというんです。カメラの前で強がるのは強さじゃない。環境で 感情が揺さぶられないことが真の強さだと思いました。

BERLIN, GERMANY - AUGUST 27:  Atsuto Uchida sits on the substitutes bench prior to the Second Bundesliga match between 1. FC Union Berlin and DSC Arminia Bielefeld at Stadion An der Alten Foersterei on August 27, 2017 in Berlin, Germany.  (Photo by Thomas Starke/Bongarts/Getty Images)
【FWではないが内田篤人選手を理想のメンタルを持つ選手としてあげた鄭大世選手。長年にわたり、代表やクラブで活躍できる秘訣に「周りに流されない強さをもっている」】

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