プロフットボーラーの家族の肖像『久保竜彦 ~本気で向き合うということ~』

2013年07月03日

インタビュー

 

■見張りのおっちゃんとの攻防

久保は三人兄弟姉妹の長男だった。下に弟と妹がいた。昔から活発だった久保は、弟や妹と遊ぶより、年上の友ともだちと行動を共にすることが多かった。同級生や年下では物足りなかったのだという。近所に二つ三つ年上の友だちがいて、野球やサッカーをやっていた。体を使って遊ぶのが好きだった。「野球でもサッカーでも、年上の人とやっていました。よう動ける感じでした。小学校高学年になると、急に身長が伸びてくる奴がいて。そいつの足が速くなって、追い抜かれたり。負けたくないので抜き返して」違う世代の子どもたちが、ひとつのグループになって遊ぶ。一昔前の日本の子どもの、典型的な遊びの風景だ。

遊び場所は近所の田んぼだった。泥だらけになってボールを追っていた。「田んぼ、面白いじゃないですか」そう言って久保は、懐かしそうな目をした。「田んぼは季節によって変わるし。稲を刈った後の乾いた田んぼで。水が張ってある時でもやってました。さすがに苗が入ると怒られました」実は田んぼのそばに、絶好のサッカーポイントがあった。芝生を育てている畑だ。売り物の芝生を育成している場所なので、立ち入ればもちろん大目玉を食らうことになる。「そこでやると、めちゃくちゃ怒られるんです。でも、見張りが来るまでやっていました。見張りが来たら逃げるんです。芝生はむちゃくちゃ綺麗で。
『やっぱり田んぼとちがうなー』と言いながら」悪ガキたちと近所のおじさんとの攻防。数十年前なら、日本のどこでも見られた光景だ。そうやって日本の子どもたちは、世の中を知り、やがて社会へと出ていったものだ。

面白いのは、その時のおじさんと今も交流があることだ。「今でも地元に帰って、飲み屋とかで見張りのおっちゃんと合うと、その話になります。『お前らやってたなー』って」そして昔の話を肴に酒がすすむ。「今帰ると、その田んぼも家になっちゃって」20年以上経てば、変わってしまうものもある。昔遊んだ場所も、いつまでもそのままあるわけではない。時の流れとともに、宅地に変わっていたりする。その一方で、変わらないものもある。変わらないふるさとがあること、変わらない人々がいることは、人生の大きな宝物だろう。

 


 


プロフットボーラーの家族のプロフットボーラーの家族の肖像

勝負の世界に、身を投じた男たちの“父親としての声”
“サッカーを通じた子育て論”を凝縮

7月9日発売
著者:いとうやまね/発行:株式会社カンゼン

[収録]久保竜彦(廿日市サッカークラブ)/城福浩(ヴァンフォーレ甲府監督)/宮澤ミシェル(サッカー解説者)/水沼貴史(サッカー解説者)/福西崇史(サッカー解説者)/石川直宏(FC東京)/原博実(日本サッカー協会技術委員長)

※ご購入はジュニサカオンラインショップまで!

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