【第37回全日本少年サッカー大会】決勝大会ジュニサカ取材日記⑦「鹿島が初優勝、体格という武器の裏に隠れた努力」

2013年08月03日

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鹿島が初優勝、体格という武器の裏に隠れた努力

 8月3日(土)、決勝戦を終えて表彰式が行われているピッチを眺めた小谷野稔弘監督は「信じられないんですけどね」と何度も繰り返しました。視線の先には、整列した全チームの中で優勝カップを手にした教え子たちの姿。全国8981チームの頂点に立ったのは、鹿島アントラーズジュニア(茨城県)でした。

 決勝戦は、名古屋グランパスU12(愛知県)のドリブルやパスに翻ろうされる場面もありましたが、3分にMF10番・大山晟那君が直接FKを決めて先制。終盤にもFW2番・久保田慧君がドリブルシュートを決めてダメ押しとなる追加点を奪い、勝利をつかみ取りました。1次ラウンドから圧倒的な強さを見せ、全8試合で32得点、1失点という驚異的な成績で一気に頂点へ駆け上がりました。特に前線の久保田君、最後方の生井澤呼範君がともに160センチを超える大型選手のため、対戦相手や観戦者からは開幕時点から「鹿島は大きい選手がいるので強い」という声が漏れ聞こえていました。

 前後のツインタワーが誇るパワーという武器が目立つのは事実。しかし、彼らは体格の強さだけで勝ったわけではありません。小谷野監督は「5月は土日になると必ず練習試合を朝から夕方まで入れて鍛えてきました。練習も(午前と午後の)2部練習をやったりしました。ほかの都市部のJクラブの子に比べると、うちには背の大きい子はいますけど、技術は低いです。だから、練習するしかありません」と明かしてくれました。

 猛練習の中で頭角を表したのが、久保田君でした。今年に入ってサイドDFからFWに転向。足下の技術に自信がなかった久保田君は当初「僕はシュートの精度が低かったし、ほかのFWは(得点王になった栗俣)翔一みたいに点が取れる。僕みたいに得点のできない選手がFWに入っていいのかな、やっていけるかなと思った」と悩んでいたそうです。

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 しかし、練習のない日には近所の壁に架空のゴールを描き、隅を狙ってシュートを打つ個人練習を1日に10~15分ほど繰り返すなど努力を続けてきました。ドリブルやシュートに磨きをかけた今大会は、栗俣君に勝るとも劣らない得点源としてチームに貢献。取材する報道陣が久保田君の「僕はドリブルが得意じゃなかったし、今も苦手」という言葉に驚くほど、ドリブルシュートで多くのゴールをこじ開けていました。

 得点王に輝いた栗俣君は、自身の成長を確かに感じ取っているようです。「大会前には考えられなかったけど、今大会でシュートを打てば入るというような感覚ができたし、自信になった。今は、次の大会でも得点王になりたいという気持ち」とチャレンジャー精神に大きな火がついた様子でした。

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 彼らは「練習は裏切らない」という有名な言葉の意味を、大会を通じて実感していたようです。キャプテンの大山君は「練習は、ほかのチームよりもやってきたという自信がありました」と胸を張って答えました。大山君も当初は「アントラーズという強いプロ選手たちと同じ名前のチームだから、ジュニアも強くないといけないと思っていました。でも、6年生になってからしばらく勝てない時期があって、苦しかった」と大きなプレッシャーに押しつぶされそうになっていました。しかし「そのときから、みんなでできることをやっていこうと言い合ってきました。この大会を勝てたのは、ベンチにいる選手も声を出してチームが一丸になれたからだと思います。(指導者に言われてからでなく)自分たちから声を出そうと言ってきたことができました。以前はあまりしゃべらなかった選手もしゃべるようになったし、みんなが緊張しないように、今日は試合前の円陣を組んだときに冗談を言ってみんなを笑わせてみました」とまとめ役という仕事に取り組み続け、日本一のチームを作り上げてきました。

 彼らの成長過程を見守って来たからこそ、小谷野監督は「春先は、得点のチャンスがあっても前線の2人が決められなかった。久保田は本当に下手だったけど、今はあのときとはまったく違う。シュートまでのイメージができてきているし、もっとできる選手になっている。この大会で多くの得点を決めていることが、今でもあまり信じられないけど、努力の成果が出ているのだと思う。大山もあの形のFKは自分の武器を磨くための自主練習でかなりやっていたので、努力の成果。GKの山田(大樹)だって県大会の決勝では控えだった選手なのに、今回は彼のおかげで勝った試合がいくつもあった。決勝戦で(ゴール前の)間接FKを与えたときはもう決められたなと思ったのに防いでくれた。あれが入って(同点になって)いたら、勝敗は分からなかった」と、彼らが手にした栄光を惜しみなく称えました。

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 外から見れば順風満帆な優勝でしたが、その陰には負けず嫌いな彼らの努力が存在しています。決勝で対戦した名古屋U12も、春先の大会で0-2と敗れた相手でした。そして努力の末につかんだ勝利は、歓喜だけでなく自信をもたらせてくれます。

 小谷野監督は「技術はまだまだ低い。今後は身長やスピードの差だけでは勝てない場面が増えてくる。そのときに対応できる能力を身につけていかないといけない」と今後の課題を指摘しましたが、その厳しさは努力を続ける彼らに対する期待の裏返しです。「このような素晴らしい舞台を今後もできるだけ多く経験し、一人でも多く、Jリーグや海外のプロリーグでプレーしてほしい」と目を細めていました。努力の末にたどり着いた日本一。その成果をさらなる力に、彼らはまた歩み続けます。

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(文●平野貴也 写真●魚住貴弘、編集部)

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