即時奪回の線上にゴールはあるか?ボールを中心に考える「BoS理論」とは
2021年09月06日
戦術/スキル本日発売となる『フットボール批評 issue33』では、新連載「現代サッカーの教科書」が始まる。ドイツ・ブンデスリーガの名門シュトゥットガルトで指導者、スカウトを歴任した河岸貴氏が講師となり、日本のサッカーの現状を直視した上で、世界のサッカーに変換していくためのノウハウを包み 隠さず公開していく。今回は、ドイツのプレーコンセプト「BoS理論」を一部抜粋して紹介する。
『フットボール批評 issue33』
文●河岸貴
ボール中心のドイツ、人中心の日本
1回目の今回はまず入門編として、ドイツのプレーコンセプト「BoS理論」について説明しましょう。このDes Ballorientierre Spiel(ボールにオリエンテーションするプレー)理論に日本サッカーとドイツサッカーとの違いを見ることができます。オリエンテーションとは方向付けのことです。この理論はシュトットガルトがあるヴュルテンベルク州のサッカー協会の指導者講習会で使われる資料に日本語訳をつけ加工したものです。マンツーマン、ゾーン、プレッシングなど様々な要素をMIXし、ハイブリッドなコンセプトに仕立て直したのが「BoS理論」と言えます。
同理論の根幹を成しているのは、「ボールを中心に考え、サッカーをする」ということです。その観点から日本のサッカーはどうかと言えば、ゾーン、スペース、または人を中心にオリエンテーションしていると見受けられます。ドイツのサッカーもスペース、人を全く無視するわけではありませんが、「ボールがどこにあり、どう動くか」に重点を置いています。これは至極当然で非常に単純なことです。結局、人がどこに行こうが、いようが、スペースをつこうが、ボールが相手ゴールに入れば得点になり、自陣ゴールに入らなければよいからです。サッカーはボールが一つあり、より多く点を取った方が勝つゲームです。そう考えると、ボールを中心にサッカーをプレーした方が、どうしたって理に適っています。「BoS理論」では「ボール」の他に「ゴールを決めること」が中心にあります。これはボール保持時、ボール非保持時、どちらの場面においてもです。それぞれの選手は常に攻撃態勢を持ちながら共同でプレーし、最終目的であるゴールを目指します。ちなみに日本で局面を2つに分けると、「攻撃」と「守備」になります。この違いこそがドイツと日本におけるプレー概念の大きな隔たりを作る非常に重要な根源と言えます。ボール保持時に関しては日本でいう攻撃と考えて問題はありません。ただ、同じ攻撃でもやはり、プレー概念の違いは違います。
ボール保持時は当然ゴールをするために攻撃します。ではボール非保持は? こちらも守備という概念ではなく、同理論の定義上、ボール保持時と同じく攻撃と捉えます。ボール非保持時の攻撃プレーを「Ballgewinspiel」と呼びます。直訳すると「ボールを奪うプレー」となります。これは「BoS理論」の特徴的な概念と言えるかもしれません。ボール非保持時はボールを奪い、ゴールするための攻撃、ということです。ボールを持っていなくても攻撃と呼ぶのはそのためです。
相手がボールを保持しているだけであって、こちらは「ボールを奪う攻撃プレーをする」という発想です。ボール保持時には、11人すべての選手が攻撃の組み立て、ゴールチャンスの創出、生かすことに参加し、ボール非保持時には11人すべての選手がBallgewinspielに参加し、ボールのある場所、コースにオリエンテーションする、11人すべての選手が走り、ボールに寄せ、ボールサイドで数的有利を作り、パスコースを締めボールに最も近い選手たちがボールを奪ってゴールチャンスを作るために、ボールホルダーにアタックする。常にボールとゴールを決めることがプレーの中心にあるからこそ、「BoS理論」では両局面どちらも攻撃の概念になります。
全文は『フットボール批評 issue33』からご覧ください。
【商品名】フットボール批評 issue33
【発行】株式会社カンゼン
【発売日】2021/09/06
【書籍紹介】
秋のフォーメーション集中講座
今さら「フォーメーション」だけに特化したサッカー雑誌が、しかも東洋の島国から出るとの報せを、もし、イングランドのマンチェスター界隈、それもペップ・グアルディオラ、フアンマ・リージョが奇跡的に傍受したとしたら―。「フォーメーションは電話番号に過ぎない」と切って捨てる両巨頭に、「まだ日本ではそんなことを……」と一笑に付されるのだろう。いや、舌打ちすらしてくれない可能性が高い。
しかし、同誌はそんなことではめげない。先月無事に開催された東京オリンピック2020におけるなでしこジャパン戦のような感情論一辺倒の応援に似た解説だけでは、フットボールの深淵には永遠に辿り着くことはないと信じて疑わないからだ。「フォーメーション」と「フォーメーション以外」を対立させたいわけでは毛頭なく、フォーメーション観をアップデートし、その攻防をよりロジカルに堪能したい、ただそれだけなのである。
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