W杯で素早い判断力・決断力を武器に戦うドイツ代表。その力を高める秘密はライフキネティック理論にあり
2014年07月14日
コラムポジティブな気持ちで練習に取り組める
例えば、両手にお手玉を持ち、同時に上に投げてキャッチします。これだと、何も難しくはありません。だから、次の段階では、同時に上に投げて腕を交差させてキャッチし、その状態でまた上に投げて腕を戻してキャッチします。少し難しいですが、まだできる余裕があります。
その次は、投げた後に交差させる腕を上下交互に交差させます。具体的には、最初に左手が上になったら、次は右手が上に来るように交差をさせます。この時点で、もう体と頭がついていかなくなっていませんか。周りの参加者からも「もー、できなーい」という声が出ていました。
でも、この理論で一番重要なことは、一つ一つのトレーニングによる動きを完璧に習得することではなく、新しい動きによる刺激を脳に与えることなのです。
つまり、間違っても構わないし、失敗してもいいのです。逆に、間違える経験をして頭の回転や体の反応がうまくいかないことに気づくことに意味があるわけです。昼食時に、相席したセミナー参加社の50代の婦人は「これまで、こうしたトレーニングって、とにかくいかにミスをしないようになるかが大事だと思っていたし、そう言われてきた。でも、『できなくてもいい』と声をかけられたのはとても新鮮。だから、全然ストレスを感じないし、ミスしても大笑いしちゃう」と楽しそうでした。
セミナーに参加した筆者にとっても、そこが興味深いところでした。初めて顔を合わた参加者と一緒に練習をし、5分後にはお互い大笑いをしている状況はとても珍しい光景だと思います。みんなが真剣に取り組みながらも笑顔になる、このライフキネティック理論のトレーニングが与える影響はとてもポジティブなものです。
そして、ポジティブな気持ちで練習に取り組むことができれば、間違いなく、その練習の効果は上がります。ライフキネティック理論のトレーニングさえやれば、サッカーがうまくなるわけでも、すべてがうまくなるというものではありません。しかし、うまく取り入れ、他の練習と組み合わせることで、体と頭を効果的につなぎ合わせてトレーニング効果を最大限に高めることができる、そんな感想を持ちました。
プロフィール
中野 吉之伴
(なかの・きちのすけ)
1977年、秋田県生まれ。武蔵大学卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。2009年に日本人では数少ないドイツサッカー協会公認A級コーチライセンス(UEFA Aレベル)を所得。SCフライブルクでの研修を経て、現在はU19-3部リーグのFCアウゲンでヘッドコーチを務める
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