指導者は「実現可能な目標を立て続けることが任務」。ミゲルが語る“挑戦”の意味

2018年02月07日

コラム

常に目標を見せて子どもに一歩ずつ乗り越えさせる

 2012年のワールドカップでは、ポルトガル戦の前に編集したビデオを見せました。ブラジル戦の分析ビデオだったのですが、ミスしたシーンは一切入れず、「優勝候補を相手にこれだけのことができたんだ」というポジティブなシーンだけを集めました。「彼らを相手に挑戦してこれだけのことができたのだから、ポルトガルに対してもこれだけのことはできる」と、ブラジル戦で築いた自信を各自のモチベーションにするために映像を流しました。

 挑戦させることをうったえるときは「演技過ぎてもダメ」です。

 これは経験でわかったことであり、気をつけなければならないことも多いです。立ち向かうためにはシンボルを立てた方がモチベーションが高まるし、必ず明確かつ具体的な目標は立てなければ結果はうまく出せません。

 決勝トーナメント・1回戦のウクライナ戦は、前半終了時点で0対6と結果がほぼ固まってしまいました。日本初の決勝トーナメント進出が、選手たちの動きを固くしてしまった原因となりました。私は前半の間に、選手の動きを和らげるボタンを見つけられませんでした。ハーフタイムの時点で6点差があったけど、勝利への意志をこう表現しました。膝をついて頭を下げ、彼らにうったえかけました。

「死ぬなら、どう死ぬ?」

 首切りのように「頭を下げて首を切ってください」というのか、「最後まで自分たちの力を出し切って死ぬのか」と、最後までどう立ち向かうのかを問いかけました。本当に、ズボンがめちゃくちゃ汚れました(笑)。男として戦うという意志が『膝をついたジェスチャー』であり、シンボルとなって選手たちの心に響きました。

 チームの挑戦は危機に陥ったとき、選手たちに対して「何を目的にするのか」を明確に示すのが指導者の役目です。だからこそ時には想像を超えた行動に移るのも、挑戦に対する意思表示としては大事になることもあります。

 2014年のAFCフットサル選手権のときは2連覇への挑戦でこんなことをやりました。決勝戦の前日に、みんなでブラジル料理を食べに行ったのですが、その車中で携帯を扱っていると、映画のロッキーが偶然出てきました。ロッキー4です。ボクシングサイボーグのような対戦相手、ドラゴンと戦う内容です。食事が終わった後、決勝戦で当たるイランがそれまで大差で勝っていたので、彼らをドラゴンにたとえ、選手と話をしました。

「明日は、オレたちがロッキーだ! 明日はドラゴンのワンパンチをどれだけ耐えられるかが勝利の鍵を握る。とにかく耐えろ!」

「どうやって耐えるの?」

 実は大会中、3人の選手に子どもが生まれていました。私はそれを使いました。

「イランとの決勝戦は、とにかくシュートを浴びるだろう。でも、奥さんたちは子どもを生むのにどれだけがんばったと思う? ロッキーはドラゴンに何度パンチを打ち込まれても倒れなかった。そのとき、ドラゴンは『なぜコイツは何度パンチを浴びせても倒れないんだ』と感じただろう? そこに付け入る隙が生まれるんだ。『どうしてなんだ?』と、心に浮かんだときに迷いが生じる。明日の試合も同じだ。シュートを耐えに耐え、イランが弱気になったタイミングでプレスをかける、ポゼッションをする、シュートを打つ。この戦い方はロッキーとかぶるだろ!」

 決勝では、延長戦にまでもつれ込みました。延長に入り、選手たちに「ほら、ドラゴンがふらついているだろ?」と言葉をかけると、ベンチに座っていた選手が「いまだ! いまだ!」と大声で叫びました。実際に、GKとの1対1のシーンもありましたが、外してしまってPK戦になりました。そのとき、イランのスペイン人監督は鼓舞していましたが、選手たちは明らかに意気消沈していました。だから、私は「見ろ、イランを」と声をかけました。その姿を見た選手たちは精神的に攻め気になり、PK戦を制して見事にアジア連覇を果たしました。

 常に指導者は、選手にとって目印になるものを見せ続けなければなりません。

 勝負においては、レベルが高くなれば戦術やテクニックよりメンタルの方が重要になります。ジュニア年代の子どもたちは大人より夢を見やすいから、それを大事にしなければなりません。ただし、その夢は現実的なものでなければダメです。挑戦、そして目標は101%の力を出せば乗り越えられる、達成できるものでなければならないのです。

フットサル

【連載】ミゲル・ロドリゴが教えてくれた「才能を引き出す」11の魔法


<プロフィール>
ミゲル・ロドリゴ

1970年生まれ。スペイン・ヴァレンシア出身。イタリアのルパレンセ・パドヴァやロシアのディナモ・モスクワ、スペインのカハ・セゴビアなどで指揮を執った経歴を持つ。2009年6月〜2016年2月までフットサル日本代表監督を務め、その後、フットサルタイ代表監督に就任し、現在はフットサルベトナム代表監督として手腕を振るう。FIFAインストラクター、スペインサッカー協会フットサル指導者資格を保持。

 

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