なぜ「レギュラー」と「控え」ができるのか? ”子どもたちの幸せを生む”育成環境を考える【5月特集】
2018年05月30日
コラム
子どもが選ぶ理由を持っているクラブづくりを目指す
――そうすると、上を目指すこともあれば、下に引き返すこともできます。
幸野「そうです。すべてのクラブが上を目指さなければならないわけではありません。指導者のレベルによるし、集まってくる選手にもよります。例えば、三部リーグに所属していたとします。ただリーグ戦であれば同じレベルの相手と対戦するわけで、そこで勝ったり負けたりを繰り返すわけです。現状だとレベルの違うチーム同士を同居させてしまっているから大量得点差がつくし、レギュラーとか控えとかが生まれてしまうのです。
レベルに応じて選手はリーグを選ぶべきだし、自分に合うクラブを探すべきです。それがヨーロッパであり、南米なんです。そして、ここを忘れてはいけないのはリーグ戦と移籍の自由化がセットだということです。だからこそ選手が自分の居場所を見つけられるのです。
現状はクラブに上を目指したい子や楽しみたい子などが混在し、クラブ内で選手も指導者も在り方がバラバラです。だから解決できない問題があふれている。こういうことを言うと、「一番下のリーグに属するクラブには、選手が集まらないんじゃないか?」という指導者や保護者がいるのですが、ヨーロッパや南米はどうでしょうか? 下のリーグであってもクラブは続いているし、たくさんあります。逆に、私は勝つことがすべてだと思っているからそういう価値観になるのではないかと思うのです」
――そういう不安を抱く指導者は多いと思います。私は『チームコーディネーター』という肩書きで町クラブの指導者育成とコンサルタントを行っていますが、4月から契約した町クラブとは『哲学づくり』から始めています。サッカーを通じた子どもの成長が目的なので、そこには勝ち負けに関係ない価値観の言葉しか並んでいません。
幸野「勝ち負けだけでクラブの価値観を決めていたら、結局は子どもの奪い合いになってしまいます。子どもたちをどう育てるか。どんなサッカーを目指しているのか。そういうことを明確に示すから子どもたちが『僕に合うかも?』と思い、クラブに入ってくるのではないでしょうか。強い弱いを基準にクラブづくりをやっていたら、ジュニア年代の目的が子どもの成長へとつながりません。
うちはサッカーだけではありません。毎年被災地に行って人生勉強をやっています。うちは家庭教師を雇ってちゃんと勉強もさせています。そういうクラブがあったっていいじゃないですか。強さがすべてで語ってしまうから1日に何時間も練習漬けにし、週末になると試合漬けにしてしまうのです。やればやるだけ上手くはなりますが、子どもたちへの過度なプレッシャーは燃え尽き症候群『バーンアウト』につながるし、サッカーから離れていく選手が増やす原因になります。
目の前の子どもたちに何ができるかを考えるから、もっとクラブの哲学や方向性を追求するのだと思うのです。クラブの価値観はそうやって形成されていくものなのではないでしょうか」
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<プロフィール>
幸野健一 (サッカーコンサルタント アーセナルSS市川代表)
1961年9月25日生まれ。東京都出身、中大杉並高校、中央大学卒。10歳よりサッカーを始め、17歳のときにイングランドにサッカー留学。以後、東京都リーグなどで40年以上にわたり年間50試合、通算2000試合以上プレーし続けている。2014年にアーセナルサッカースクール市川の代表に就任。日本の子どもたちをアーセナル流の育成方法で育てている。
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