なぜスポーツ指導の現場に「言葉の暴力」が蔓延するのか? 改めて考えたい“スポーツをする”ことの本質

2018年06月05日

コラム

当該選手や指導者だけでなく、その基盤となる組織にまで世間の耳目を集めることになった日大アメリカンフットボール部による悪質な反則問題。日大は5月31日付けで第三者委員会を設置し、真相の究明を急ぐが、少年サッカーの現場においても他人事ではいられない問題だ。そこで編集部では、長年、育成年代の指導に携わり、保護者や指導者に向けた指南書を多数執筆する池上正さんに話を聞いた。

取材・文●三谷悠 写真●ジュニサカ編集部、佐藤博之


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「ゲームに出さない」「相手をつぶせ」は言葉の暴力

 報道されていることが事実という前提ではありますが、まずは当該選手が、なぜ指導者の指示に従い、あのような悪質なタックルに及んだのか、その原因から探っていきたいと思います。

 そもそも、学生スポーツで強豪と呼ばれる大学のチームは、たくさんの部員を抱えています。サッカーでも、200名規模の部員が所属するチームもあるほどです。そして、こうした環境下でレギュラーになるのはとても大変で、一定のレベルにない選手にとっては不可能に近い。それにも関わらず、多くの学生が大量の部員を抱える強豪チームへの進学を希望します。そして、このことが今回の問題を招いた大きな原因です。

 当然の話として、選手はレギュラーになりたいと考えています。しかし、部員数が多いと、その競争も熾烈。すると、「どうしてもゲームに出たい」という思いが強くなり、監督やコーチに服従しがちになるのです。報道で知りうる範囲でしかありませんが、この悪質なタックルに関しても、恐らく監督やコーチから、問題視されるような指示が出されていたのでしょう。

 ただし、これは今回の一件や、アメリカンフットボールに限った話ではありません。「集中して取り組まないとゲームに出さないぞ」「この試合は天王山だから、相手のキーマンをつぶせ」などという指示は、大学や高校サッカーの世界でも当たり前にように行われています。

 言葉に込められた意味合いや、それを聞く側の受け取り方の問題という話ではありません。こうした言葉を使って指示を出すこと自体が大きな間違いであり、はっきり言えば言葉の暴力です。これは、日本のスポーツ界が世界から大きく遅れをとっている分野のひとつとも言えるでしょう。日本では選手の奮起を促すために「頑張れ」や「集中しろ」という言葉が使われますが、それ自体がおかしいのです。こうした指示は、選手が“頑張っていない”“集中できていない”というマイナスの判断から出されるのでしょうが、そもそも頑張っていない選手などいません。

 海外では、このような指示が出されることはほとんどなく、「このプレーや連携がうまくいっていない理由を考えてみよう」「どうすれば、この悪い状況が変わるだろう」といった言葉がかけられます。つまり、苦しい局面や状況を乗り越えるためのアイデアを選手自身に考えさせることが大切なのです。

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