柴崎岳はなぜ一流になれたのか? 青森山田高・黒田監督「彼はバスの移動中の時間も無駄にしない」
2018年06月14日
サッカーエンタメ最前線日本代表は12日(火)に行われたパラグアイ戦で4-2で勝利を飾りました。躍動したのは香川真司選手と乾貴士選手だけではありません。正確な長短パスで攻撃のリズムを作り、コーナーキックから相手のオウンゴールを誘発するなど存在感を発揮したのが、ヘタフェに所属する柴崎岳選手(野辺地SSS/青森山田中/青森山田高)です。高校時代から知的なセンスを備えていた柴崎選手は、6年間過ごした青森山田でどのようにして文武両道を実践していたのか、黒田剛監督(青森山田高校サッカー部監督)が様々なエピソードを教えてくれました。※取材年2015年
取材・文●鈴木康浩 写真●Getty Images
柴崎は黙々と努力するタイプ
柴崎選手は小学生のとき、地元青森県の野辺地SSSでプレー。青森県大会での優勝に貢献すると、その後は青森県や東北で絶対的な実績を誇る強豪校の青森山田中学、そして青森山田高校でサッカーに励み、卒業後に鹿島アントラーズ入りを果たした。
「決してガリ勉タイプではなかったですが、自分のプラスになると思ったものは黙々と努力をして取り入れる選手でした」
そう当時を振り返るのは青森山田高校サッカー部の黒田剛監督だ。黒田監督は青森山田中学サッカー部の総監督も務めているため、柴崎選手の存在は彼が小学生のときから知っていたという。
「小学生のときから非常に周りが見えていて、まるで次元が異なるプレーをしていたのを覚えています。彼の最大の特徴は、360度近い視野を持っていて、すべての選択肢のなかから一番いいものを選んで、そこに正確にパスを出せる技術があるということ。それは中学や高校時代にも群を抜いていました。
彼は小学生のときに将来はプロのサッカー選手になることを決めていて、親元を離れて青森山田に入学してサッカーに励もうとしていました。ご両親は柴崎のことが心配で一度は入学を諦めさせたようですが、本人の強い希望もあって『やはり入学させていただけますか?』と直接電話をしてこられたんです。私はご両親の子どもへの思いをしっかりと受け止められたものですから、柴崎の能力の高さを知っていたこともあり、その電話越しに『必ずプロにしますね』と約束したのを覚えています」
遠征バスのなかで試合を復習
小学生のときにすでにプロになる目標を立てていた柴崎選手の意識レベルの高さは半端ではなかったという。青森山田の場合、その生活のほとんどの時間をサッカーに費やすため、具体的な勉強のエピソードまでは出てこないが、物事や知識を吸収しようとする姿勢からも当時の柴崎選手の“勤勉”な様子は覗える。
「青森山田は試合で遠征に出るとなると、たとえば、東京であればバスに揺られて10時間ほど、同じ東北の仙台市に遠征するにしても最低でも4時間ほどかかる長丁場になるんです。移動中のバスの車内では時間があるのですが、柴崎は読書をしていることが多かったです。読んでいたのは有名になったサッカー選手の自伝などが中心だったと思います。将来に向けて黙々と知識を増やしているという印象でした」
空いている時間を決して無駄にしなかったのだ。遠征のバスの車内では読書だけに留まらなかった。
「たとえば、プリンスリーグなど公式戦の遠征に出て、試合をした後の帰りのバスでは、ほかの選手たちが疲れて眠ろうとしているときに、一人だけバスのテレビで試合の映像を確認してすぐに反省を始めるんです。ペンとノートを持ってきて。先輩たちも驚いていましたね。バスの座席にしても必ず前のほうに座って、指導者の近くにいるようにもしていました。同級生ともよくしゃべるのですが、柴崎は指導者など目上の人と話すがすごく好きそうでした。いろいろな大人の考え方を知りたいという欲求があって、自分の考え方と比較しながら参考にしているところがあったのだと思います」
現在の柴崎選手のインタビューなどを聞いても、非常に大人びていて、頭の回転が早く、その思慮深さというものが覗えるものだ。しかし、青森山田高校時代にインタビューにまつわる、ある出来事が話題になったことがある。
「柴崎が高校2年生のときにインターハイで準優勝を果たして、彼はスター選手として注目を集めたんです。それで試合後にメディアが集まったときに彼はそれを避けるようにバスに乗り込んでしまったことがありました。それをあるメディアに『柴崎は生意気だ』というニュアンスの記事を書かれてしまったんです。でも彼には事情があったんです。当時の彼はまだ高校2年生。あくまで3年生が主役だと先輩たちを気遣うところが彼のなかにはあったわけです。試合が終わって3年生が先にバスに乗り込んで待っているのだから、先輩たちを長く待たせるのは失礼、だから自分がだらだらと取材を受けることが許せなかったのだと思います。彼は面と向かってじっくり話せばしっかりと答えられる選手です。普段はおしゃべりではなくてクールですけど、そこまた彼らしくていいじゃないですか」
優勝できず隠れて泣いていた
決して多くは語らず、自分のなかでつねにメラメラと燃えているタイプ。その根底にあるのは負けん気の強さだ。負けず嫌いの度合いでも柴崎選手は郡を抜いていたという。中学時代のこんなエピソードがある。
「柴崎が中学2年生のときに中体連の大会で全国3位になったことがあるのですが、その表彰式のときに彼の姿がどこにもないんです。どこに行ったのかわからなくなってしまって……。そのとき彼は競技場の下の階段で隠れて泣いていたそうです。人に涙を見せるのが大嫌いなので。次の年には全国で準優勝を果たすのですが、柴崎はこのときもまたいなくなろうとしたので私が怒って止めました(笑)。泣きたいときには姿を消す。彼の負けず嫌いな性格を端的に表しているエピソードだと思います」
乗り越えるべき壁があれば、闘志を燃やして果敢に乗り越えていこうとする。そんな逞しさを柴崎選手の内側から感じ取った黒田監督は、彼が中学校を卒業する前にある助言をしている。
「柴崎は絶対にプロになれる存在だったので、その先の日本代表入りをはっきりと見据えて取り組むべきだと思ったんです。そのために必要なのは自己発見能力の高さです。自分の弱点や課題を即座に洗い出して、それをトレーニングに移せる選手にならないといけない。だから本人には『指導者に言われてからではなくて、自分で考えて行動できる選手じゃないと日本代表にはなれないよ』と伝えました。それはずっと彼の頭のなかに残っていたと思います。私ができることは彼が伸びるための環境をどう作ってあげるかだと思っていました」
それからは加速するように自身のウィークポイント(弱点、課題)に向き合い、日々一つずつ潰していく姿勢を崩すことはなかった柴崎選手。青森山田高の2年生のときに鹿島アントラーズ加入の内定を勝ち取った柴崎選手だが、高校3年生になる頃の鹿島アントラーズの春季キャンプに志願して参加。フィジカルメニューが中心のキャンプだったが、自身の課題から目を逸らすことなく向き合い、プロとの距離を図ったのだ。柴崎選手の一挙手一投足を間近で見続けてきた黒田監督は今後の彼にこう期待を寄せる。
「柴崎の貪欲さ、物事を吸収しようとする姿勢、そして今後の伸びしろというものは計り知れないものがあると思います。今後海外へ挑戦したとしても、彼は頭が良くて周りが見えている選手ですし、新しい環境への順応性も非常に高いところがありますから、どこまでいけるかすごく楽しみです」
柴崎岳選手の中高時代こぼれ話
柴崎選手の視野の広さや瞬時にプレーを変えられる力は天性によるところも大きいが、黒田監督は「幼少期からの環境」も一つの要因に挙げる。柴崎選手は三兄弟の末っ子。兄二人もサッカーに励んでおり、かなり上手な選手だったという。柴崎選手はいつも兄たちに負けまいと、ボールをキープする技術や身体の動作を自然と遊びながら学んでいったようだ。黒田監督は「彼が小学生のときから『周りをみろ』『顔をあげろ』と言われるのを見たことがないんです」と感心する。
<プロフィール>
柴崎岳(しばさき がく)
少年時代:野辺地SSS
中学時代:青森山田中
高校時代:青森山田高
1992年5月28日、青森県出身。MF。175cm、64kg。野辺地SSSでサッカーを始め、全国屈指の強豪校である青森山田中学、青森山田高でサッカー励んだ。高校2年時に鹿島アントラーズの内定を勝ち取る。2011年に鹿島アントラーズに加入。2017年からはスペインリーグでプレー。現在はヘタフェに所属している。
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