なくならない「指導」という名の暴力――。いい加減、スポーツの現場は変わらなければならない
2018年11月15日
コラム必要なのは子どもにしゃべらせること
「また増えてきたかもしれません」
ジュニアサッカーの現場で27年の指導キャリアを持つ、東京都武蔵野市の町クラブ、関前SCの小島洋邦監督は現場の実感をこう話す。
「町クラブで私のようにずっと長く指導をする人もいますが、そのうち若い指導者に入れ替わるクラブも少なくないんです。若い指導者の世代には、良い指導をしている若者もたくさん増えてきているし、羨ましくなるくらい生き生きしている選手やチームが出てきたと感じることもあります。
しかしその一方で、まだ自分が育った時代がそうだったからか、プレーする前にあれこれ指示をしてロボットのように動かそうとするか、子どものプレーに対して『何やってんだ!』と罵声を飛ばすか、そのどちらかである場合も少なくありません。
そのほうが勝率は高まるし、勝つために有効な手段ではあるので、強いチームの若い指導者ほど直らない傾向はあります。そういう指導者に対して、我々もずっと言い続けていかないといけないのですが……」
小島さんは東京都少年サッカー連盟の渉外部長も兼務するなど、プレイヤーズファーストを掲げて啓発活動を推進する立場にある。連盟としての取り組みと、その実感についてはこう話した。
「東京都の中央大会の場合、大会前の指導者会議でも説明があり、『怒鳴るような指導はしません』という内容の宣誓書に各チームの代表者にサインをしてもらい、それを試合会場に掲示することをもう何年も続けています。
ただ、これは個人的な感覚ですが、続けていると徐々にですがどうしても形骸化してくる印象はあります。それと問題だと思うのは、中央大会に出場してくるチームに啓発をしていればいいわけではなく、地区大会レベルでももっとやっていかないといけないし、練習試合のときはどうなんだろう?普段の練習中はどうなんだろう?という疑問はあっても、実際にはそこまで目が行き届かないし、周知徹底がどれだけできているか、把握し切れていないのが現状です。
僕が大きな問題だと思うのは、某有名チームの指導者でも、怒鳴る指導者が少なからずいることです。ただ、彼らは彼らで来年の契約がどうなるかわからない不安定な立場にあるから、結果を出そうと躍起になってしまう側面もある。そういう環境面から改善していかないと怒鳴る指導はなかなか減っていかないのではと思います」
怒鳴る指導者は今なお根強くいる。怒鳴りながら育てられた選手が指導者になり、また子どもに怒鳴る。以前から変わらないこの負の連鎖を断ち切るためにも、粘り強い啓発活動を続ける必要がある。
一方で、27年間、ジュニアの現場をつぶさに見てきた小島監督は、現代の子どもの “弱体化ぶり”にこう警鐘を鳴らす。
「20年前であれば、怒鳴る指導者は今以上にたくさんいた時代で、指導者が子どもに一方的に指示を伝えてプレーさせていることがほとんどでしたが、それでも当時の子どもはまだ勝手に自分たちで話している光景もあったんです。強いチームはとにかくピッチ上で話していた。それが、現代の子どもたちはとにかくしゃべらない。強いチームも黙って静かにプレーしているんです。
社会的にも、若い子たちが会社で隣にいる人間にメールでやり取りするような時代です。自己表現が乏しく、上司に言われたことは完璧にできるけど、そこから波及しない。自分から動けない。そういう現状があるだけに、サッカーを通じて、まず子どもがしゃべるように、自分を表現できるようにならないといけない。
『すごくいいポジションにいたのに、なんで声を出さなかったの?』と指導者が問い詰めるのは簡単です。でも、それが苦痛で仕方がない子どもがいます。指導者が外から怒鳴っていても意味がないし、子どもにまずしゃべらせる環境を作らないといけない。日頃から挨拶をすることも大事になるし、そうやって何でもいいからしゃべらせるようにして、仲間同士でしゃべるとか、自分の考えたことを発表するとか、結果として、それが良かったどうかを検証するとか、ピッチ上で自分たちで解決できるようにしていかないと結局はチームは強くはならないんです」
子どもがしゃべらなくなってしまったのは、親が子どもの面倒を見過ぎる過保護な社会的な背景も影響を及ぼしているとの見方がある。子どもは家で何もせず、何もしゃべらずとも勝手にご飯が出てくる。子どもがユニフォームやスパイクを忘れても、すぐに親が届けに駆けつける。小島さんは関前SCで「低学年のときから親が過保護になるのを良しとしない」というスタンスで厳しく子どもに接しているが、同様の取り組みは、Jクラブのジュニアチームに集まる子どもにも行わなくてはいけない現状がある。サッカーチームという組織のなかで、子どもを逞しく育てていく必要性がより高まっている。
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