ゴールキーパーの「認知-判断」を鍛えるにはどうしたらいい?
2018年11月29日
戦術/スキル現代サッカーにおいて、ゴールキーパーはセービング技術だけではなく、足元の技術がより求められるようになった。正確にボールを止めて、蹴って、味方につなげる。「止める」「蹴る」といった技術を発揮するためには優れた状況判断も必要不可欠となる。「止める」「蹴る」と同時に「認知」「判断」といったサッカーに必要な能力をGKはどう鍛えていくべきなのか。ゴールキーパー専門のアカデミーで指導する武田幸生氏の言葉に耳を傾ける。
取材・文●後藤勝 写真●佐藤博之、Getty Images
GKに求められる「止める」「蹴る」
1992年のルール改正でゴールキーパー(以下GK)がバックパスを手で扱えなくなって以降、サッカーの在り方が大きく変わってきている。ボールをほとんど手で扱っていたGKは、現代ではボールを足で扱うことが増え、シュートストップやクロス対応など、手を使う機会は限られたものとなった。フィールドプレーヤー(以下 FP)との差異が少なくなり、戦術的にはGKの正確なロングフィードをトップに当てることから始まる速攻、GKが最後尾のスイーパーと化してビルドアップの開始点となるなど、攻撃に組み込まれることが当然となった。
このような変化に対応し、現代のGKはいかに「止める」「蹴る」をマスターすべきなのか。実際にスクールで小学生年代のGKに「止める」「蹴る」を指導している、東京・神奈川でGK専門のサッカースクールを展開するTKDGKアカデミースクールマスターの武田幸生さんに訊いた。
「以前に比べると小学生年代でもGK専門の指導を受けられる環境が整いつつはあるのですが、GKというポジションにおける『止める』『蹴る』を教わっているケースはそれほど多くはないというのが実情です。私たちの場合はGKに対し、サッカーそのものの基礎とGK専門のメニューを、年間を通してバランスよく配分するように心がけています」
GKに求められる「止める」「蹴る」はFPに求められるそれと大きく変わらない、と武田さん。ただしシュートを打つ機会はめったに訪れない。自ずと「ボールを受ける」「パスをする」に重きを置くことになるという。しかし小学生年代のGKは味方からのパスを受けたところでカットされたり、まともにパスができず大きく蹴ってしまうだけに終わったり、そもそも最低限の「止める」「蹴る」ができていなかったりと、攻撃が不得手な選手が目立つ。ゴールを守ることばかりを求められ、サッカーというゲームのなかでいち選手がどう機能するかという原則を学んでいないことが原因だ。
試合中のGKは、バックパスを受けて味方につなげる、ゴールキックを狙った場所に蹴る、キャッチしたボールを味方にパスする──というシチュエーションに遭遇することが多い。まずはこの状況に対応できるようにしなくてはいけない。
「たとえば右サイドバックからのバックパスをセンターバックまたは左サイドバックに配球しようと思うなら、ボールを受ける準備をしつつパスを送る場所を探し、受けたときにはどこにボールを蹴るか見極め、最後にキックの手段や強さを決めて蹴ります。FPとまったく同じ手順を踏むわけですが、ここでミスをするとすれば、技術的なものに起因するケースもありますが、判断のミスで失敗するケースもあります。この原因を見極めて短所を改善するトレーニングを実施する必要がありますね」
技術を養った前提で「認知」「判断」を鍛える
技術指導に際し、最初から「蹴り方は教えない」と武田さんは言う。まずは流れの中で蹴る数をこなすことが先決だからだ。
「現代は公園でボールを蹴ることが禁止されているし、なかなか自由にボールを蹴る時間がない。でも練習が終わったあとにその場で5分間だけボールを蹴るということでもいい。一日10球蹴ったら一週間で70球、一カ月つづいたら300球くらい。どうやったってうまくなるわけじゃないですか。それをやっていないことが問題なのではないかと。なので蹴り方は教えません。自分にあった蹴り方も含めて、蹴る回数に比例するものなので」
蹴り方は教えないが「止める」「蹴る」 の練習はする。まずは流れの中での「止める」「蹴る」の基礎。最初はボールを扱う選手自身が安定した流れの中で「止める」「蹴る」を実現できるよう“1人称”の技術習得に時間を割き、次に “2人称”。自分が受け手になる場合は出し手としっかりコミュニケーションをとり、出し手になる場合は対面する相手に受けるタイミング、左右どちらかの足で行けるのか、あるいはスペースで受けるのかの要求をする。“3人称”になると、出し手と受け手の役割を交互に替えながらパスワークに取り組み、より実戦に近いかたちで「止める」「蹴る」の精度を高める。これらの練習は4人が四角形を維持する“スクエアパス”のメニューとしておこなう。
次に実際にゴール前で足元の技術を発揮する実戦形式の3対3(2対2+GK)。前述の「止める」「蹴る」の基礎に加えて「ボールを受ける」「パスをする」にチャレンジしていく。ある程度技術を養った前提で、正しい判断ができるかどうか、認知や思考を鍛えるものだ。
こうしてサッカーの原則に基づきGKの「止める」「蹴る」を習得することが可能だが、ただし技術と判断が正しくとも、実際の試合では対戦相手がプレッシャーをかけてくる。そのときにも正しい判断をして複数の選択肢を持ち、正確なキックをするにはやはりそれなりに習熟が求められるようだ。
「そこはチームプレーですから、ボールを受ける味方の動きがすごく重要です。相手のプレッシャーが来ているときに、それをいなして逆を向く、自らボールに寄ってダイレクトにはたくなどの選択肢があると思いますが、GKもそうするには、ふたりの関係だけでなく、三番目の選手、出し手と受け手の次の受け手がどういう動きをするのかがすごく重要になってくる」状況が把握できれば、あとはある程度オートマティックに手順をふむこができる。
「GKの視点から言えることは、蹴るボールすべてをつなごうとするのではなく、つなげないのであればクリア。相手のGKにパスをする、あるいはそのくらいのつもりで相手陣地奥深くに蹴り出す。そうすると自陣からボールを遠ざけたうえで、相手陣内で守備陣形をつくってボールを奪い、次の攻撃につなげることができる。クリアする場所がなければ一度プレーを切るために外に出す。そうすると相手のスローインからの再開になるので、リスタートでしっかり守備を構築できる。
もし、相手が来ていてバックパスも難しいところにつけられたという場合は、自分からちょっとずれて、ずれながら出せるところを見て、アイコンタクトをとり、受け手の状況に合わせて球質を変えてパスを出す。受け手がGKを見ていないときでも、FPの味方を動かすようなメッセージをこもったパスを送ることも選択肢になりえます」
GKは「ミスが許されないポジション」
プレーの優先順位を考えるうえでは、最終的には「サッカーの中でGKの役割はなんなのか」という信念を持つことが重要だ。GKの役割は所属チームが採用するスタイルによって大きく変わってくるが、大前提となる原理原則は不変だ。サッカーとはなんなのか、GKとはなんなのかを整理しておくと、プレー選択の迷いが減る。
「GKがFPとまったく同じかというと、やはりちがう。ミスが失点に直結するという意味ではミスの持つ重さもFPとは異なります。ミスが許されないポジションだということです。キャッチミスもそうですし、蹴るミスもある。キックミス、パスミスが原因で失点を喫するようであればキーパーの責任ですから、ギャンブルはできない。安全確実なプレーをしなくてはいけませんが、そのためには何が安全で何が危険なのか、何がチャレンジで何がギャンブルなのかをわかっていないといけません」
サッカー先進地域である欧州でも、「止める」「蹴る」よりゴールを守ることにこだわるイタリアのような国もある。
蹴るだけなら技術だけれども、どこにどのタイミングでという判断が加わると戦術の要素が入ってくる。サッカー全体を理解し、そこにGKの仕事を位置づけていかないといけない。
「近頃は『認知して判断して実行する』──という言葉を聞きますが、GKについても同様です。ひとつのパスミスがあったとして、技術に起因するミスであれば『止める』『蹴る』のところをもう一度しっかりやりましょうということになります。GKの場合は自身の前でボールが動いてそれを受けることがすべてですから、向きや受け方が問題になるかもしれませんし、基本的な1対1で正対した状態のパス交換がうまくできないのであればその段階から学び直す必要があります。そこだけに特化すると一日のうちにGK練習を何もしないということになりかねませんが、デイリーワークのひとつとして組み込んでいったほうがよいですね」
守から攻に切り替わったところが攻撃のスタート。その局面でGKが何をするのか。「止める」「蹴る」を機に、サッカーについての考えを深めていきたいものだ。
<プロフィール>
武田幸生(たけだ・ゆきお)
ゴールキーパーコーチ/TKDGKアカデミースクールマスター 1970年11月生まれ。北海道札幌市出身。東急SレイエスFC、東京国際大学で指導後、現在は神奈川大学体育会サッカー部、高校などでGK指導を務める。チーム指導の他に、GKスクール運営など、草の根からトップまでのゴールキーパーを指導する「GK指導のスペシャリスト」を目指して活動中。
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