自分自身の将来に向き合う。アメリカでプレーする若きなでしこが下した「編入」という決断【1月特集】
2019年02月13日
育成/環境主将として藤枝順心高校を全国制覇に導き、卒業後に渡米した黒崎優香選手は、2シーズン在籍したケンタッキー大学を離れ、1月からはオクラホマ大学に籍を置く。今回は、彼女が「編入」という大きな決断に至ったいきさつを聞いた。前回「この経験は財産になる」。“女子サッカー大国”アメリカでプレーすることで広がる「選手としての可能性」に引き続き、1月特集の「女子サッカーを見つめる」から黒崎選手のインタビュー第4弾をお届けしていく。
取材・文・写真●木之下潤 写真●Getty Images、中澤捺生
【前回】「この経験は財産になる」。“女子サッカー大国”アメリカでプレーすることで広がる「選手としての可能性」
日本版NCAA設立には学生に学業ルールも必要
——ちなみに、高校の同級生はどんな進路を歩んでいるのですか?
黒崎選手「大学に進学した仲間が多いです。日体大、早稲田大、神奈川大、山梨学院大、大阪体育大など様々です」
——連絡は取り合っていますか?
黒崎選手「はい、取り合っています。私は『note』に感じたことを書いているので、『この記事を見たんだけど、どういうこと?』などと聞かれることもあります。『アメリカの大学についてこう語られているけど、どういうこと?』とか『そんなに勉強しているの?』とかはよく質問されます」
——私も黒崎さんの「note」を読みましたが、日本の大学アスリートとの違いを感じるので、みなさんもきっと興味があると思います。
黒崎選手「スカラシップ(奨学金制度)の差は大きいと思います。サッカーと勉強だけに集中できる環境は日本の大学だと少ない気がします。実家が裕福な選手は集中できるでしょうけど。大学のサッカー部の選手で一人暮らしをしていたら、経済的なことに向き合わなければいけない人たちが多いと思います。朝練習をやって、学校に行って、夜はアルバイトという生活をしていると友人から聞いています。その環境だとサッカーと向き合うことは難しいですし、私も日本の大学でサッカーをしていたら同じだったと思います。
大学に入ってくる額とスポーツにかける額が、アメリカとでは比べものにならないので、日本の大学では難しい部分が多いでしょう。それは女子サッカーも同じことが言えると思います。
最近は日本版NCAAの設立の話が出ていますが、アメリカと同じように完璧に取り組むのは難しいでしょう。例えば、『学生がアスリートとして扱われる』ことは厳しいと思います。でも、日本特有のルールを設けて、近づいていくことは可能だと私は思います。そのためには学生アスリートに成績のノルマを与えたりして文武両道にしないと、学生の本分を忘れてしまう事態になってしまいます」
——ハード面、ソフト面、目を向けなければいけないことがたくさんあります。
黒崎選手「観客を集めるにしても『どうやって?』と多くの方は考えると思います。アメリカは地域の子どもからお年寄りまでスポーツを観に行くこと自体が根付いています。部活によって違いますけど、フットボールだと4万人が入ったりしますし、今年のケンタッキー大学は男子サッカーが強かったのですが、4000人近い入場者がいました。では、『日本の大学は?』といえば、早慶戦とか何か特別な対戦などの時だけで、『じゃ、次の試合では?』というと観客動員に持続性があるわけではありません。それに日本の大人は忙しいですから。
日本版NCAAを作るのであれば、学生アスリートに対してもある程度プライベートや学業にルールを設けないと意味がないと思います。
私も決められたルールの中にいます。だから、それに違反するとシーズンを棒に振ることになります。ドラッグテストもあるから、使う薬もテストに引っかかるものは飲めませんし、日頃から気を使っています。日本の学生アスリートはそういうことを意識したことがないと思うので、この感覚を理解するのは難しいかもしれません。
もちろん日本版NCAAを立ち上げること自体は悪いことでありません。ですが、アメリカの大学はアスリートを管理する組織が学校とは別の組織として存在するんです。きっと、日本の大学ではありえないことでしょう。ルールの指導をする人やお金の管理をその組織の人たちがやっているんです。だから、そういうことを数年間で整えることは本当に難しいと思います」
——先日、スペインで指導経験のあるサッカー指導者の対談を取材しました。その中で、日本には体育館やグラウンドにスポーツを応援できる観客席がないよねという話になりました。
黒崎選手「アメリカの学生スポーツは観戦時に入場料がかかりますし、観客席もあります。それに日本の大学は、すべてのスポーツの試合が土日ですよね? だから、友達の部活の応援に行くこともできません。例えば、アメリカだとウェイトトレーニング時に違う部の選手と隣同士でトレーニングしたりするので仲良くなったりもします。そうすると、応援に行ったりもします。日本だと、そういう他の部活との交流も少ない気がします」
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