「サッカーを教わるのではなく、学べているか」。イングランドと日本の育成の決定的な違いとは?
2019年10月30日
育成/環境イングランドFAは2014年から「コーチメンタープログラム」をスタートし、コーチやクラブを指導サポートできる人材育成に着手している。そのコーチメンターの指導にあたっているのが、イングランドで20人ほどしかいない「サポートメンター」だという。今月の特集では、その一人ポール・ニアリー氏のインタビューを公開したが、急遽通訳をしてくれた古木仁氏にも追加取材を行った。古木氏は「Liverpool FC IA Japan」で通訳兼コーチを務め、イングランドFAのコーチライセンスLevel.2も保有している。古木氏が感じるイングランドと日本の違いなどを紹介し、今回のイングランド育成事情を終わりにしたい。
取材・文●木之下潤 写真●木之下潤 ジュニサカ編集部

サッカーをする理由の1位は「友達と遊べるから」
4コーナーモデルなど、イングランドの指導環境がきちんと整い始めたのは、ここ10年ほどだ。30年前には、グラウンドに怒鳴り声が響くことが日常的にあり、勝ちたいから強い選手、うまい選手を試合に出すことが普通に行われていたそうだ。
その頃に“コーチ改革”の話が持ちがったという。
15年ほど前にドイツをはじめとするヨーロッパ各国を視察し、「イングランドDNA」を作り上げることになった。イングランドFAが音頭を取って、各クラブに「チャータースタンダード」を義務化したり、お父さんお母さんが観戦できる場所を定めたりと、少しずつグラスルーツの環境をより良い方向へと導いていった。
「コーチが嫌でサッカーをやめる」
「コーチのせいでサッカーを嫌いになる」…
コーチ改革を推進していくことでグラスルーツのパイを広げ、タレントの取りこぼしがないようにするためにどうすればいいか。すべては、子どもたちのことを第一に考えた施策だった。大切なことは、子どもたちがサッカーを愛して、楽しんで上達するための環境を作ること。そういった取り組みが実り始め、イングランドは昨今ようやくアンダー世代、代表、クラブと結果が出るようになった。
ここに至るまでの過程には、いろんな失敗があったと聞く。
以前の指導マニュアルでは、「インサイドキックは軸足をこう置いて、こう蹴ります」みたいな内容があったそうだが、今はもうなくなった。イングランドFAのコーチライセンスはLevel.1、2と段階を踏んでいくが、現在のLevel.1では「どうやって子どもを楽しませようか」がテーマになっている。どう楽しませるか。そのアイディアを出すことが主眼に置かれているそうだ。また、同時に子どもをどう守るのかという「セーフガード」にも力が入れられている。子どもには「こういうことはしてはいけない」というルールをしっかり教えるという。そこからLevel.2になって、ようやく技術的、戦術的な内容になり、「トレーニングメニューはどうすべきか」が深堀されていくそうだ。
2016年8月には、その内容がさらにブラッシュアップされている。取材後日に、古木氏に調べてもらったところ、Level.1ではイングランドDNA、4コーナーモデル、トレーニングのプラン実施リビュー、コーチとしての考え方などについて学び、ワークショップでトレーニングの作成・発展・拡張とセーフガード、救急措置を受講者たちが取り組むそうだ。
古木氏は、日本とイングランドの育成との違いで感じることの一つに「親」を挙げた。「イングランドのお父さんお母さんは試合を楽しんでいるんですよね。日本はまるで親が試合をしていて、親が本気になっているというか。もちろんイングランドにも『どうしてこうしないんだ』という親はいます。でも、多くは勝ったか負けたかを気にするより、一生懸命プレーしている息子や娘の姿を楽しむ関係で子どもの試合を観戦しています」。
そこにはクラブとお父さんお母さんとが協力しないと「子どもが育つ環境は築けない」ということに、みんなが気づき始めた背景があるからだと、古木氏は語ってくれた。日本の現場はどうだろうか? 私が二人に取材して思うのは、イングランドでは「教える」という立場の前に「子どもに寄り添う」のを大事にしていること。日本のジュニアの試合では、選手が戦っているのに、コーチが、親が戦っている大人をたくさん見かける。
もちろん気持ちが入っているのは、とても大切なことだ。
でも、子どもを客観視できていなければ意味がない。本人になりきってプレーに没頭してしまうと、子どもが一生懸命やっているのか、何ができたのか、何が足らなかったのかが見えなくなる。試合をしているのは親ではない。子どもだから。つまり、そういうことがお父さんやお母さんができるプレイヤーズ・ファーストではないだろうか。
古木氏曰く「イングランドFAは、必ずコーチライセンス講習会の最初に子どもがサッカーをする理由の1位が『友達と遊べるから』という内容を必ず伝えます」とのこと。それは「勝ちたいでしょ?」という大人の理論ではなく、「友達と遊ぶ」ためにサッカーをどう活用するかという子どもの理論でトレーニングを考えてくださいというメッセージだ。これこそがイングランドDNAであり、イングランドFAの選手育成に対する哲学。
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