食事を通して子どもの成長を実感するために。家族で無理せず食育と向き合う

2020年01月28日

メンタル/教育
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1月の食育連載は「食育って何?」をテーマに連載担当三人が対談企画を行っています。毎日の食事において「栄養バランス100点満点の食事」をとることは理想的です。でも、もしお母さんが無理をしたら続けることはできません。「ストイックに作る100点満点の食事」も「家族みんなが笑顔でいられる食事」も家庭にあった「食育」があっていいと思うんです。連載第四弾は、そんなバランス感覚について話し合いました。

【参加者】
川上えり/管理栄養士
北川和子/ライター
(息子2人はサッカー少年)
木之下潤/編集者
(食育連載企画考案者)


川上えり
管理栄養士の川上えりさん

食育もハードルを上げすぎると続かない

川上 食事を用意することに対して「やらなきゃいけない」という義務感が生まれてしまうと、食育にはつながらないですよね。そういうお母さんの気持ちを楽にしてあげられる連載にしてあげられたらと思います。

北川 そうですね。そうすると、お母さんの心に「こんなにがんばっているのに」という負の感情が湧いてくるのも避けられるのかもしれませんね。

木之下 こんなふうになかなか「食育がなんなのか」という話をする機会はないですよね? どうしても食育って「子どもに食に関する知識を教えることだ」というようになりがちですけれど。

川上 食事って「もっと身近なものなんだ」っていうことを感じてほしいですね。

木之下 それこそ冬だから「ダシ汁に切った食材をぶち込んだ鍋」みたいな日があってもいいですよね。

川上 お鍋は栄養価が高いですからね

木之下 みんなで食べられて、片付けもラクです。その代わり「鍋の中に入れる食材は5色の食材を入れましょう」という話さえできていれば、食事として成立しています。
(参考=「食育はまず食材選びから。『五輪カラー+1』でみんなが好きなメニューを作ろう!」)

川上 鍋を囲んで、皿に盛った野菜を、みんなで鍋に入れていくのも子どもが楽しんでくれそうです。冬に肉も野菜も無理なく食べられるから、「いつも鍋でいい」と話す一人暮らしのアスリートって意外に多いんですよ。フレッシュなビタミンCが摂れる果物を加えて、栄養価を補えば十分です。

 アスリートがはじめて食事に関する面談に来るときは、「料理に必要なものを全部そろえなければいけない」と思ってて、最初は暗い表情をしている選手もいます。正直、炊飯器を持っていない選手もいるし、キッチンが物置状態の選手もいますから。

 でも、「まずは、外食時には食べる物を選んで、家ではできることからやっていこう」と話すと「えっ、そんなことでいいんですか?」と表情がパっと明るくなるんですよ。

北川 ダイエットも「最初にストイックにがんばりすぎると続かない」なんて言われますけど、食生活もそうかもしれませんね。

川上 食べることは生きている限り続くことですからね。

北川 「このくらいでいいんだよ」とハードルを下げることで続けられるようになりそうです。

川上 子どももお手伝いをするならやれることから、好きなことからでいいと思います。例えば、モンテッソーリ教育では、「敏感期」と定義づけられた時期があると聞きました。「ある事柄に対して強い感受性が表れる」特定の時期のことを指すんですけど、食事と支度にまつわるお手伝いでも、何に関心をもって、何が苦手なのかって年齢ごとに傾向があるような気がします。食事もある程度の自由の中で、自分の好きとか得意とかを伸ばしていくことができたらいいですよね。

木之下 子どもの感覚を大人が察して、いかに子ども用に転換するかということに通じていると思います。それは、サッカーのトレーニングにおいても同じことが言えるような気がします。練習で「あまりうまくいっていないな」と思うとき、僕は自然に場の設定を変えてみます。すると、子どもがスムーズに動けるようになってくる。

 そして、子どもがスムーズに動けるようになったら、初めてその設定を壊しにかかります。

 例えば、コーンを使った練習。正直、子どもは慣れてしまって、ただ「やるだけ」になってしまうんですよ。そこで、子どもに別の意識を働かせます。4色のマーカーを持ってきて「何色?」と聞きながら同じ動きをさせたり。

北川 ボールを扱いながら顔を上げなければならなくなりますね。

木之下 そうなんです。それまで通り足を動かしながら顔を上げなければならなくなります。でも、子どもは順応性が高いからすぐ慣れてしまいます。そうしたら、マーカーの色を2色に増やします。そうやって3色、4色と増やしたら、次は場所を移動してみたいに選手に起こる状況に変化を加えていきます。

 やっているうちに、子どもは「実行すること」と「意識すること」が違うことと気づいてきます。子どもたちは色当てゲームをやっているつもりだから、その間は「実は、コーン練習をやらされてる」とは思っていません。最近は反復練習を否定しているコーチもいますが、一定数は必要なことです。慣れるまでは意識してやるけど、子どもは慣れてきたら無意識でできるようになってきます。サッカーのプレーにおいては無意識でやれるようになることが重要なところでもあります。

 最初にハードルをあげすぎてしまうと、乗り越えるのがつらいと思うんですけど、そんな風に少しずつハードルを上げていくと適応できるのではないでしょうか。

 食事面も「これ食べなさい」「あれ食べなさい」と言われるのがつらいときもあるかもしれない。「おにぎりを2個食べなさい」と言われてつらいとき、1個のおにぎりをフルーツに変えたら食べられるかもしれない。「こうしたらできるかな?」とできることに目を向けて食事を用意するといいのかもしれませんね。

北川和子
ライターの北川和子さん

子どもは何に興味を持って食べているか

北川 「必ずこれだけは食べなさい」。そう押しつけるのではなく、ちょっとアプローチを変えてみるのが大事ですね。日々の単調なルーティンの中で、食事の支度も、食べさせることも「こなすだけ」になりがちですけど、そこは頭をちょっと使いたい!

木之下 お母さんは「毎回ちゃんとしたものを、いつも作らなければいけない」わけでなくて、ラクな日を作ってその分「子どもとお父さんが頑張る日」にしてポジティブにサポートするとか、そういう風にお互いの関係値を作っていけば食育にも目が向けやすくなりますし、そういう親の姿は少なからず子どもに好影響を与えると思います。

 僕の父親はとても忙しい人でしたが、数カ月に一回とか台所に立って料理をしていました。意外と凝ったものを作っていましたよ。そういう姿を見ていたので、親に「これをやれ」「あれをしろ」と料理を習ったわけではないけど、一通りなんでも作れますから。

北川 すごい! でも、実際はそんな男性ばかりではなく、「夫が何もやらない」とグチる女性の声もよく聞こえてくるんですよね…。子どもがそんな後ろ姿も見ているのだとしたら、「食の自立」というステージまで見越すとちょっと不安になります。

木之下 お父さんとお母さんのやりとりを、子どもはよく見ていると思いますよ。子どもは大人の様子を見て、こちらの気分や機嫌を敏感に感じ取るプロですから。トレーニングをするときには、子どもにこちらの機嫌を悟らせないように気をつけますが、家庭だとそれを永遠に続けることは難しいですよね。

北川 お母さんが機嫌よくいるためにも「たまにはフリーズドライの味噌汁を使って」という話に戻りますね。

川上 フリーズドライだけでなくても、味噌にネギやカツオ節、乾燥ワカメなんかを混ぜて丸めた味噌玉を作って冷凍庫に入れておけば、お湯に溶かすだけで手軽に味噌汁ができますよ。

北川 ある程度の年齢になったら、子どもでも用意できそう! 味噌玉、すごく便利なんだろうけど、「それなら、普通に味噌汁を作ったほうがラク」というくらい凝る人もいますよね。

木之下 どちらかというと男性によくありがちです。そういう人って特定の料理を実験的に楽しんでいますよね。

北川 確かに。いま、夫が異常にステーキの焼き加減に凝ってます。温度とか、時間とか細かくこだわって。ただステーキの焼き方は、私より夫の方がずっと上手です。その代わり、夫が料理する日は食費がかさみますけど(苦笑)。

川上 男性脳と女性脳の違いですかね(笑)。

北川 そんな気はします。

木之下 食べ物という認識を持ちつつも、実験に近いですよね。道具を使うのも楽しいだろうし、教科で言えば「図画工作」に通ずる部分があるのかもしれませんね。もしかしたら、子どもの関心を持たせるためには、そういうフックの作り方はありかも? 子どもは気分屋ですからね。お笑いで言うと、ツカミみたいなものです。食も少し楽しさを演出するのもいいのかもしれません。

北川 私は、いつも同じような手伝いしかやらせてないかも…。サッカーでも練習前のウォーミングアップのルーティンがすべて決まっているチームも多いと思いますが、子どもが「またこの練習か」と思ってやっているみたいに、「またこの手伝いか」と思っているのかな…。「やりたい」と思えるような ツカミ的な要素はちょっと必要ですね。

木之下 お母さんが「またこれか」思っているのなら、子どもたちはなおさら思っています。その瞬間に、子どもにとっては「やらされている」ことになってしまう。ある海外の監督を取材したとき、サッカーのトレーニングを食事に例えたことがありました。自分が就任する前は、毎日同じ練習をやっていた、と。もう選手たちが飽きていたから、自分は違う練習をしたそうです。

「毎日刺激的で楽しいトレーニングをしたい。食事も同じだろ?」と話していたのが、記憶に残っています。ようするに、毎日決まったものが出てきて、決まったものを食べろと言われても、それは食事ではなくて、それはタスクになってしまうという意図で語ってくれました。

 これは理想論ですけど、食べている様子を見ていたら子どもがその日に「何に興味を持っていて、何をおいしそうに食べていて、何が足りていないか」がわかりますよね。例えば、お肉が大好きな子があまり食べなかったら、食欲がないから食べたくないのか、おいしくないから食べたくないのか、その日に何かがあったから食べたくないのか。

 それって食育の枠の中だけで考えていても答えが出ないですが、大事なことだったりします。

川上 確かに、その背景にあることを探ることも大切ですよね。

木之下 ちょっと難しい話になりましたが、話題を変えて。最近の子は三角食べが苦手だと言われていますけど、北川さんのお子さんはどうですか?

北川 次男は、三角食べが苦手です。味噌汁とごはんとおかずを出したら、ごはんだけかきこんで、おかずと味噌汁が全部残っていることがよくあります。つい、「順番に食べなさい」「全部食べなさい」と口走ってしまいます。

 でも、次男の友達で、給食の完食のプレッシャーで一時的に学校に行けなくなってしまった子もいました。

 最近は「無理をしなくていいよ」という風潮が強くなりましたが、好き嫌いなく食べさせることが食育だとされている場合、ルールが子どもを追い詰めることもあるような気がします。

木之下 僕の時代は「給食を食べ終わるまで教室から出られない」ことは普通にありました。

川上 居残り、ありましたね…。

木之下 ルールは守らなければいけない場面もあるけれど、毎回は無理っていう子もいて、他の子と同じ基準を当てはめないことも時には必要です。その子の量を減らす方法だってあります。

川上 私は保育園の栄養士をしていた経験もあるのですが、食が細い子の量を減らす、つまりハードルを下げたうえで完食させることで、達成感を積み重なると、突然ある日食べたりするんですよね。それまで嫌いだったものを急に食べ始めたり。

木之下 子どもの七不思議の一つで、「急にできるようになる」というのがありますよね。

北川 子どもの頃に嫌いだった食べ物が急に好きになったという話はよくありますよね。

川上 根気強く待つのも大事なのかもしれません。

北川 親の立場からすると、長い目で見られなくて、昨日、今日、明日くらいまでしか見られなくて、思い通りに食べないことにイライラすることもあります。でも、こうして人と話していると「もう少しゆったりと構えていてもいいのかな」「少し手抜きをしてもいいのかな」「もう少し楽しくゆるやかな気持ちでいたほうがいいのかな」と思えてきました。

川上 そうですよね。きっと小学生(ジュニア)になってもお子さんの食事で悩んでいる人は多いと思うんですよ。赤ちゃんの離乳食に「もぐもぐ期」とか「ごっくん期」といったステージがあるように、ジュニア期の子どもにもいくつかのステージがあることをおおまかに知っておくと、家庭でも食のハードルが設定しやすいような気がします。

 1~2年生は三食のごはんとおやつを食べられるようになること
 3~4年生はどういう食べ方をしたらいいのか考えられるようになること
 5~6年生は大人の準備期として体が何を必要としているのかを知ること

 こんなふうに目標を作って、その子のステージに合わせたメニューづくりをしていくといいかなと思います。

木之下 今年のコンセプトが見えたところで、この対談はここでお開きにしましょう。お疲れさまでした。

川上&北川 ありがとうございました。

>>2月の食育連載は「2月4日(火)」に配信予定


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