日本サッカーを支える街クラブとJクラブ。ジュニア育成のあり方とは?

2020年01月29日

育成/環境
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「全日本U-12サッカー選手権大会」は、バディーSC(神奈川県第二代表)が柏レイソルU-12(千葉県代表)に3対1で勝利し、幕を閉じた。試合内容に目を向けると、少しずつ指導格差も小さくなりつつあり、日本のジュニアサッカーは次のステップへと足を踏み入れている。

しかしながら、今大会もまた取材するメディアが減った。決勝以外の貴重な情報を独自に届ける媒体は、もうジュニサカWEBだけとなった。そこで、今月の特集はこの大会を取材して気づいたことを備忘録として残しておきたい。毎週コラム形式で多様なテーマを綴れたらと思う。最後のコラムは「日本らしいジュニアの形づくり」について書きたい。

【1月特集】「全日本U-12サッカー選手権」備忘録

取材・文●木之下潤 写真●佐藤博之


センアーノ神戸

ジュニアを支えているのは地域の街クラブだ

 正直、「今」のJクラブのジュニアに興味が持てない。

 それは「クラブのサッカーがバージョンアップされるわけではない」からだ。彼らに物語を感じないし、歴史を刻んでもいないから魅力も感じない。数年ごとにコーチが入れ替わり、次は「何が上乗せされるのかな」と試合を見ると、何も変わっていない、変わっていかない。こんなことを繰り返す。

 トップチームの結果によって育成部長クラスのポストに新しい人材が座り、玉突き事故のようにアカデミースタッフも入れ替わる。すると、さらに事態は深刻な場合が多い。その年の試合を観戦すると、サッカーのコンセプトすら変わっていて、所属選手が戸惑いを見せたり、そもそもコンセプトに合わなかったりしている現実を目の当たりにする。

 それはそうだ。前コーチ陣によってセレクトされた選手なので、そういうことも起こりうる。しかし本来、Jクラブにそんなことがあってはならない。なぜならクラブ哲学によって導き出されたアカデミーの意義があり、それによる育成方針が決まっているはずだからだ。

 そして、数年前にJリーグに「フットパス」が入った時点で、当時のクラブはすべてアカデミーの育成メソッドを資料化まで行う予定だったが、私がジュニアを取材する限り、そこまで取り組んだクラブはおそらく「数チームにとどまっている」と思う。

 それは継続性がない試合を見ていれば予想がつく。

 もちろん、現場のコーチにとって不可抗力で起こる人事もあるため、どうすることもできない場合が多い。大会で選手と格闘する姿を間近にしているので、コーチたちが思いを持って日々勉強し指導しているのを知っている。だから、こういうことを綴るのも心が痛む。しかし、物書きとして事実から目を背くことはできない。これを伝えることでいろんな痛みを伴うかもしれないが、近い将来きっとプラスに働くと信じている。

 少しJクラブのネガティブな側面ばかりを書いたが、きちんと、アカデミーの育成メソッドの資料化まで取り組んでいるクラブもある。取材した範囲でしか明言できないが、湘南ベルマーレや大宮アルディージャなど数クラブはそれが存在する。そういうチームはコーチが入れ替わっても、クラブとしてのサッカーに再現性が高く、安定した結果も残している。

 ただ新しく就任したコーチが、そこに自分の色を加えているかは疑問だ。

 私はそれを含めて「上乗せ」、つまり「バージョンアップ」だと認識している。また、このパターンにハマらないクラブもある。それはフットパスの審査後にアカデミーを立ち上げたJクラブだ。これは取材ができておらず印象の話で恐縮だが、そういったクラブは試合を分析していると、意外と自分たちが目指す育成を明確化しているように感じる。全日本が鹿児島開催と近いこともあるが、V・ファーレン長崎のコーチ陣は大勢で視察に来ている。アカデミーに真摯に向き合うクラブにはこのままトライ&エラーを繰り返した上で資料に起こし、数年ごとにバージョンアップをしてしっかり土台を築いてもらいたい。

 なぜここまで資料化にこだわるのか?

 それはプロクラブの育成指導が人に大きく左右されてはいけないからだ。Jリーグは「地域に根差したスポーツクラブ」を目指すはずである。当然、Jアカデミーはその地域のタレントをトップの選手として育成するために存在する。そこに所属する選手は最低限トップのサッカーが再現できるスキルを身につけるため、日々練習に励む。それなのにコーチによって指導内容が大幅にブレる。絶対にあってはならないことだ。

 Jアカデミーの指導はコーチ個人の思考に頼って行ってはならない。必ずクラブ哲学、アカデミーの存在意義、育成メソッドに基づくものでなければならない。だから、クラブが担保すべきはクラブ哲学に沿った指導ができる質の高いコーチと、新しく就任したコーチが「何を元にトレーニングをプランニングしていけばいいのか」を理解できる資料だ。これがクラブにとっても、大きな財産の一つになる。

 これらがあるから、人が入れ替わっても左右されることはない。

 プロクラブとして共通認識を持ち、その上でカテゴリーを超えた情報の共有と互いのフィードバックができる環境が生まれるため、保有している選手たちの正当な評価と成長の進捗がきちんと把握できる。まだJアカデミーはどこも発展途上の状態だ。多くの人が「日本のジュニアはJクラブが引っ張っている」と見誤っているだろうが、私はその考えが多く見積もっても正解として1割程度しか満たないと思っている。日本サッカーの土台を支えているのは地域の街クラブであり、彼らがジュニアを形作っている。

 だから、街クラブに惹かれるのだ。

ディアブロッサ高田

クラブ同士のつながりがジュニアの土台を作る

 全国大会、もしくは都道府県大会で結果を出し続けている街クラブは、核となるコーチが入れ替わることが少ない。そのコーチはクラブにとって生き字引のようなものである。それが強豪たる所以だといっても過言ではない。ただ、見方によってはマイナスの面もあるだろう。

 例えば、ヨーロッパのクラブと比較して理想をいえば、私も思うことはある。しかし、ここは日本だ。ジュニアの環境を変えていけるのは、圧倒的な数が活動をしている街クラブが中心になるべきである。日本のジュニアを形作っているのは、彼らなのである。そこを勘違いしてはいけない。

 ここで一つ問いたい。

 街クラブを支えるべき協会と連盟、プロクラブとJリーグはその機能を果たしているだろうか? 既得権益に利用し、自分のため、自分に利益をもたらす人のためだけに仕事をしていないだろうか? 自分の利権を守るためだけに重要ポストに居座り続けてはいないだろうか? 重役である以上は行動と結果が伴わなければ、その意味をなさない。そのことを理解し行動する人が、これからは組織の中心を担ってほしいと切に願う。

「より良くしたい」。

 そういう現場の思いに応えるために組織はチーム作りを行い、仕組みや制度を考案しなければならない。ジュニアの現場を取材していると、「組織には届かない」現場で汗水流して働くコーチたちの悲壮な叫びをたくさん耳にする。

 だから、最後は「街クラブが形作る育成のあり方」を綴りたい。

 街クラブにとって、全国大会に出続けることは簡単ではない。Jクラブと同様、彼らも「地域には対戦相手がいない」という悩みがある。例えば、関東圏のJクラブはこの時期クローズで11人制のリーグ戦を行っていたりする。選手のため、どのように拮抗した試合を生み出すかは「今」ジュニアが抱える最も難しい課題の一つだ。それは地域の強豪街クラブにも当てはまる。

 本格的にジュニアを取材するようになって7年。全国大会などの大きな大会が中心ではあるものの、国内外の様々な地域クラブを取材していろんな育成事情を知ることができたのは、私の財産だ。長年現場に足を運んでいると、同じ顔に遭遇する。それは毎年、あるいは数年おきに全国大会に出場する街クラブのコーチである。

 真剣勝負の場を取材するため、プライベートで話をすることはないが、短時間でも会話を交わしていると顔見知りになる。すると、ちょっとずつ試合以外のことを話すようになる。これは数年前に気づいたことだが、全国大会に出場する街クラブ同士はつながりを持つ。

 春休み、夏休み、冬休み。長期休暇に入ると互いに遠征し、試合を行っていたりもする。関西のチームが関東に行くこともあれば、関東のチームが関西に行くこともある。なかには、対戦相手の家にホームステイし、恒例行事化していることもある。強豪の街クラブは独自にフェスティバルを開催し、同じレベルのチームを招待して長期休暇中に多くの経験を得る。このときにしかできない強化策だ。

 もしかすると、周囲の地域クラブからはやっかみで噂をされているかもしれない。

 しかし、彼らには彼らにしかわからない不安や悩みを抱えている。そばで取材し、そういうことを双方の立場で見聞きしているからわかる。実際、ネガティブな言葉だって耳にする。ひがまれてもいる。ただ、一つ言えることは都道府県内で常にその立場を維持することは並大抵の努力ではできない。彼らは世界の情報を貪欲に仕入れ、他の街クラブのコーチから教えを乞うている。だから、トレーニングの質が向上し質の高い選手が育成できる。

 2019年度のU-12全国大会では、奈良のディアブロッサ高田(以下、高田)、兵庫のセンアーノ神戸(以下、神戸)、三重の大山田サッカースポーツ少年団など数チームの動向を追っていた。名前を挙げた3つは、小学校最後の大会となる全日本でも質の高い戦いを見せてくれた。私自身も、それぞれのコーチが毎回「どんなチームに仕上げてくるのか」をいつも楽しみにしている。

 5月のチビリンピックの決勝は「高田×神戸」だったのだが、試合後にこんなやりとりがあった。先に高田の川上弘仁監督に話を聞くと、こう答えた。

「いやー、また負けてしまいました。実は、新チーム立ち上げの1月からセンアーノさんとは何試合もやっていますが、公式戦では一試合も勝っていないんですよ。選手たちも先制点が取れたんで『今度こそ』という気持ちがあったと思うんです。またダメでしたね。でもね、また明日も帰って試合をするんですよ。リベンジですね」

 その後、神戸側のベンチに行き、大木宏之監督に取材した。

「なんとか勝ててよかったです。高田さんとは関西で何試合もやっているんで、お互いに手の内は知り尽くしています。だから、粘り強くやるだけでした。最後の最後に同点に追いつけましたし、諦めずに戦えた結果、運が味方してくれました。実は、昨日の夜も川上さんと飲んでいたんですよ。明日も試合しますし、また切磋琢磨してがんばります」

 現在のジュニアの土台を築いているのは、日本サッカーが時間を重ねる中で緩やかに形作られてきた街クラブ同士のつながりである。

 昨今、あらゆる問題が指摘され、のざらし状態で議論されるなか、物事が二極化的に語られがちだ。しかし、本当に現場で起こっている問題は複雑な事情が絡み合っている。そんな分断した考え方では到底解決できない。それぞれが自分は解決できたと思っても、相手の立場になると問題のままだったりする。

 みんながどう相手の立場にもなって物事を見たり考えたりできるか。

 そういう「つながり」が日本サッカーらしい歴史を形作る方法だと、私は感じている。セレクション後は隣のジュニアクラブに、ジュニアユースになれば市をまたいだ違うクラブに、ユースになれば遠い地域の高校に大事な選手を手渡すことになる。選手の育成に街クラブも、Jクラブも関係ない。18歳までは、みんなで選手を育むものだ。

 これは私が街クラブのコーチから教えてもらった「ジャパンズウェイ」だ。


>>2月特集は「2月5日(水)」に配信予定


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