コロナ禍で運動できない子どもたちのストレスに親はどう向き合うべき? 精神科医に訊く

2020年05月19日

メンタル/教育

新型コロナウイルス感染症の流行により、普段と違う生活を強いられているご家庭が多いことでしょう。子どもにとって「外で思いっきり運動ができない」という普段と異なる状況は大きなストレスにつながっています。親はこの状況に対してどんなアプローチをするべきで、どう自分自身とも向き合っていくべきなのでしょうか。精神科医であり、ブラインドサッカー日本代表のメンタルアドバイザーなども務める木村好珠さんにお話をうかがいました。

※取材は2020年5月8日にテレビ電話を使い実施しました

取材・文●内藤秀明 写真●ジュニサカ編集部


サッカーイメージ

 
子どもはストレスをストレスと認識しづらい
 

――現在コロナ禍のなかで、外で運動ができないことによって、子どもが大きなストレスを感じていますよね。

「普段していることができないストレス」なのか「運動できないことそのものに対するストレス」の両方があると思います。

 まず不安というものは、大きく分けて「抽象的なこと」と「未来に関わること」の二つに対して発生します。

 現在、新型コロナウイルス感染症流行に対して、ネットやメディアを通して多くの方々が対策法を論じていますが、正直どれが効果的で私たちがどうするべきなのか、まだいまいちハッキリしていない状況です。 

 加えて、5月4日に政府から緊急事態宣言の延長が発表されましたが、いつになったら普段通りの生活に戻るのか、すべてが現段階で不明な状態にあり、不安を生みやすい状況が揃っているんですよね。

――子どもも「いつになったら学校に行けるようになるのか」「いつになったら友だちと遊べるようになるのか」など不安も多そうですね。

 特に学校での部活動や友達との外での遊びなど、運動が普段の日課になっている子どもにとっては、いつになったら運動できるのかがわからないこの状況は、大きなストレスの要因になってしまっていますね。

――この「運動できない状況」がストレスにつながることがわかりましたが、子どもが感じているストレスを周りの人間が認知するのはむずかしいですよね。

 まず前提として、子どもは大人よりも敏感ですが、ストレスをストレスとして認識することが苦手なんです。「僕いまストレスを感じているんですよ」っていう子どもなんて見たことないですよね。

 つまり、大人よりもストレスを感じていることを表現するのが下手なんです。これは子どもならではの問題なので、本当にやっかいなんですよね。

――では、具体的に子どものどんな行動がストレスのサインなのでしょうか?

 よくあるのは、「チック」ですね。まぶたのけいれんや、突発的な発声などがこれにあたります。あとは「情緒的な変化」が起きてしまう子どもも多いです。

 そのなかでも、抑うつ気分になったり、落ち込んだりするというよりかは、いつもより我慢ができなくなってイライラしたり怒りっぽくなってしまったりすることの方が多いですね。あとは集中力が落ちてしまったり、少し普段よりわがままになってしまったりする子もいます。

 ただそこで怒ってしまったら、子どももどうストレスを表現すればいいのかがますますわからなくなり、さらに症状が大きくなってしまいますので、そこは親御さんも自分自身をコントロールすることが重要になると思います。

――子どもの精神的なストレスが体調不良につながることもありますよね。

 これは大人でも子どもでも変わらないのですが、基本的に抑うつ傾向になると身体の免疫力は低下してしまいます。あとはそのストレスが不眠につながったりすると、直接的な身体の不調にもつながってしまいます。そもそも、適度な運動ができないこと自体も免疫力低下につながりますしね。

 結果、風邪をひきやすくなります。そのため、この自粛期間は親御さんには特に子どものストレスに気を遣うことが求められます。

親子 サッカー

「子どもとサッカーをする」のではなく「子どもにサッカーを教えてもらう」 

――一方で、子どもと同様に大人にとっても不安な状況が続いています。そんななかで「普段と違う育児」をしなければいけなく、さらに大きな負担が子どもを持つ親御さんに降りかかっています。この「コロナ禍での育児疲れ」に対して、大人はどうセルフマネジメントするべきでしょうか?

 まずは当たり前かもしれませんが、生活リズムを整えることですね。普段と違う状況だからといってルーズな生活にならないよう気をつけなければいけないです。心の健康において最も重要なのはやっぱり「睡眠」と「食事」です。

 例えば食事ひとつをとっても、朝食をとる人ととらない人では幸福度が違うという実験結果も出ています。適度な時間と適度な量でしっかり三食とること。そして普段通りしっかり睡眠もとって、朝日が昇るとともに起きること。これらが最も重要です。

 そしてこれらが大前提として、加えてこのコロナ禍では「テレビやSNSを見過ぎないこと」も重要です。私が担当する大人の患者さんのなかでも、「テレビやSNSで多くの情報が飛び交っていて、なにを信用すればいいのかわからず不安になってしょうがない」という方は多いです。これに対してはどうしても「見ないこと」しか対策はないんですよね。

――しかも子どもが家にいて、育児の負担も大きくなってます。

 育児そのものの負担増も大変ですが、元々働いていた方だと、なんらかの形で仕事を制限したり、休まなければいけなくなったりしてしまいます。「働かなければいけないけど、働けない状況」となると、その葛藤をしつづけることで大きなストレスを感じてしまうことになりますね。

――大人のストレス解消法としては、他になにが効果的だと思われますか?

 まずは適度な運動ですね。時間があるときに子どもを連れて外に散歩に出かけることは有効なストレス解消法になると思います。もちろん三密を避けた状態での散歩であることが前提ですが。

 例えば、普段通っているサッカースクールに行くことができないとすれば、親御さんが公園などで一緒にボールを蹴ればいいかなと思います。親も運動不足解消になりますし、子供にも良い運動になります。さらにいうと、そこで親御さんが子どもに“教えてもらう”というのも良いかもしれませんね。

――子どもにとって「教える」という行為には、どういった意味があるのでしょうか?

 自分が身につけてきたこと、経験してきたことを順序立てて整理してアウトプットするという作業は普段なかなかする機会がありません。

「考えて相手に伝える力」を身につけるという意味でも、「自分はこういう風に蹴っていたんだ」と学び直す「復習」の意味でも、普段あまりやらない「教える」という作業は子どもにとって重要だと思いますね。

いっしょに料理をしてみる

――食事の面で気を付けるべき点はありますか?

 東洋医学では、「気と血と水で身体ができている」と言われていますが、そのうちの「気」とは「生命エネルギー」のようなものです。これが足りてないと、ストレスにつながってしまうと言われています。

そのため、「気」を増やしてあげるような食事をとることはストレス解消において重要なことと言えますね。

――それは具体的にはどんな食事でしょうか?

 魚介類・豆類・米ですね。他にも栄養学の観点からみれば、例えば乳製品や豆類に含まれている「トリプトファン」や、チョコレートや玄米、キムチなどに含まれている「GABA(ギャバ)」などが睡眠や心に効果的とされていますね。

――食事の面で他に気を付けるべきことはりますか?

 お子さんがいらっしゃる家庭は、一緒に食べるなかで会話をしてみましょう。また、一緒に料理をすることも良い効果が得られるかもしれません。料理とするという行為は、神経科の世界で作業療法のひとつとして用いられます。「まずあれを切って、そのあとこれを煮込んで…」と自分で順序立てて作業していくことは、脳の訓練にもなります。

 子どもと一緒にする料理は普段より大変になってしまうかもしれませんが、「楽しいイベントの一つ」と捉えて取り組むことができれば理想ですね。

父親が育児ストレスを知るいい機会だと捉える

――現在コロナ禍で父親、母親ともに家にいる家庭も多いと思いますが、育児ストレスにおける男女の相違点はなにかありますでしょうか?

 家庭内の家事分担が母親側に偏っている場合、まず父親側は、家事という慣れないことをするストレスが少なからずあると思います。

 しかも、父親側からすれば初めておこなう作業のため、どうしてもスムーズに進めることができない場合、その様子に母親側もストレスを貯めてしまうという状況が起こっているご家庭もあるようです。コロナ禍以前でも、育児ストレスで来院される方の割合は、やっぱり圧倒的に女性の方が多かったです。

 これを機会に父親は、母親が普段感じている育児ストレスについてもっと知って、より協力できるようになればいいなと思いますね。そして母親側も父親側が慣れないことに挑戦していることを意識して、多少のミスに対しては少しでも寛容であることができれば、すれ違いも減るかもしれません。これは精神科医としての領域を超えた部分かもしれませんが。(笑)

――専門外の質問についてもありがとうございます。では最後に、コロナウイルス終息後の親子関係についての展望をおうかがいできればなと思います。

 今コロナ禍により普段と違って親と子どもが一緒に過ごす時間が多くなっています。それをマイナスに捉えてしまう方も多いですが、本来子育てにおいて親と子どもが一緒にいる時間が多くなることは良いことなんです。

 だから大変なことも多いと思いますが、「いつもよりたくさん会話ができるな」とか「一緒に料理ができるな」とか、なんとかプラスに捉えてほしいなと思います。

 そうすれば、親も子どももお互い普段だと気がつけなかったことに気がつける可能性もありますし、その後の関係にも良い影響を与えてくれると思いますね。


プロフィール
木村好珠(きむら このみ)
1990年生まれ、東京都出身。精神科医として勤務しつつ、産業医、健康スポーツ医として、ブラインドサッカー日本代表のメンタルアドバイザーや、選手のメンタルアドバイザーを務め、育成年代の保護者に向けたセミナーなども行っている。また、海外サッカーファンとして知られ、お気に入りのクラブはマンチェスター・シティ。


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