「寄せる距離は仲間を裏切らない」育成年代の指導から得た選手の背中を押す言葉の力とは

2021年06月03日

育成/環境

パス成功率やボール支配率で最下位も昨季のJ3で圧倒的な強さを見せて優勝したブラウブリッツ秋田。そんなチームを率いている吉田謙監督は、育成年代の指導者を経てJリーグのチームの監督になった。吉田監督がチーム作りをする上で大切にしていることは何なのだろうか。6月7日発売予定の『フットボール批評 issue32』より一部抜粋して紹介する。

文●木崎伸也



(写真●ブラウブリッツ秋田)

まるでキャッチコピーのような吉田監督の言葉へのこだわり

 まずメンタル面のアプローチを解き明かすために、チームで使われている「吉田語録」に注目しよう。地元の番組で次のフレーズが取り上げられた。

・「球際」ではなく「魂際」
・礼儀正しさは「最高の攻撃力」
・取られたら他人に頼らず、地の果てまで追いかけろ
・かっこいい横パスやドリブルはいらない。前に刺せ!

――すごくオリジナルの言葉を使ってますね。どんな狙いが?

「本質から逆算して選手たちが上達するように、そして心の底から動いてくれるように言葉を考えています。こちらが伝えても心に響かなければ、良い言葉ではないからです」

――そう考えるようになったきっかけは?

「私は最初、育成年代の指導者でした。そのとき難しい言葉や選手たちのレベルを飛び越えてしまうような言葉では、選手は躍動しないと気づいた。横文字の戦術用語はたくさんありますが、それだと心と耳に入りづらい。逆に、本質を追求した言葉と練習は、子どもたちを磨き伸ばし、人間的な成長につながるとわかった」

――専門用語は子どもたちには伝わりづらい?

「監督が熱く言っているけど、何を言っているかわからない、という感じでした。自分の伝達力が足りなかった。コミュニケーションは受け手がすべて。預かった子どもたちを成長させなければならない責任がある。端的に誰もが使っている日本語でお母さんたちにもわかるような言葉を使う。言葉を自分で叩きのめした。行動してくれて初めて言葉の価値があると思った」

――その頃から「球際」を強調していましたか?

「『パスサッカー』や『ポジショナルプレー』などいろいろな言葉がありますが、最後は独力だと思います。単独の力がなければプロになれない。なので育成年代のときから目の前のやつに噛み付け、走り勝ちゴールを目指し続けよう、と繰り返し言っていました。それはJリーガーに対しても同じ。ボールを失うことを厭わない。奪いに行くことを躊躇しない。それよりも挑戦し思い切りプレーしたほうがいい。知性を上回るのは本能。獲物を捕らえる本能こそ、最高の知性です」

 つまり吉田監督は「本能に訴える言葉」を選んでいるのだ。「プレスをかけろ!」と外来語で言われるのと、「嚙みつけ!」と生々しい表現で言われるのとでは、ボール狩りの獰猛さが変わるのは明らかだ。しかし、日本ではこういうサッカーは一般的ではないため、選手たちができるようになるのは時間がかかるだろう。特に相手の懐に飛び込むのはリスクがあるため、恐怖心が芽生えてもおかしくない。

――激しい守備には怪我のリスクが伴います。どう背中を押していますか?

「最初の守備者がボール際の懐まで行けたら、次のDFが楽になりますよね? 全員が1人の寄せを信じられたら、躍動してボールを奪える。なので『寄せる距離は仲間を裏切らない』と伝えている。あとは度胸をみんなで共有している。誰かがかわされたら全員で助ける。谷底に落ちるなら、ともに落ちよう。君が飛び込むなら、僕も飛び込む」

――すごい覚悟ですね。

「自分の持つ宝を信じてやってほしい。自分の力は自分の足元にしかなくて、それに気づいていない選手がいる。気づいているけど極めてない。覚悟ある徹底と継続から感性が磨かれ、小さな変化に喜びを感じられる。全員が高い志で上を目指せるように、日々みんなで練習しています」

 ここまで読んだ方は、”頑張れば何でもできる”という「根性論」サッカーだと思うかもしれない。だが、それは誤解だ。吉田監督は「感情」だけでなく、「理論」にも重きを置いている。


全文は『フットボール批評 issue32』からご覧ください。


【商品名】フットボール批評 issue32
【発行】株式会社カンゼン
【発売日】2021/06/07

【書籍紹介】
禁断の「脱J2魔境マニュアル」

我が国が誇る2部リーグ・J2は、「魔境」の2文字で片付けられて久しい。この「魔境」には2つの意味が込められていると考える。一つは「抜け出したいけど、抜け出せない」、もう一つは「抜け出したいけど、抜け出したくない気持ちも、ほんのちょっぴりある」。クラブの苦痛とサポーターの得体のしれない快楽が渾然一体となっているあやふやさこそ、J2を「魔境」の2文字で濁さざるをえない根源ではないだろうか。

1999年に創設されたJ2は今年で22年目を迎える。そろそろ、メスを入れることさえ許さなかった「魔境」を脱するためのマニュアル作りに着工してもよさそうな頃合いだろう。ポジショナルプレーとストーミングのどちらがJ2で有効か、そもそもJ2の勝ち方、J2の残留におけるメソッドはできないものなのか。このように考えている時点で、すでに我々も「魔境」に入り込んでいるのかもしれないが……。


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