「必ず成功するわけではないが、成功しやすい状態を作る。」PKキッカーはストレスとどう向き合うべきか

2023年03月06日

メンタル/教育
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認知・判断・実行の速さが求められる現代サッカーにおいて、人間の脳は今や無視できない存在になっている。いかに脳を活性化させるか、脳のストレスを取り除くかが、選手レベルをあげるためのカギとなっている。ドイツ代表のトレーニングコーチを務め、「Brain Activity」代表の運動学者エフティミオス・コンポディエタス氏による、サッカーが脳にもたらすストレスの向き合い方について、6日発売の『フットボール批評issue39』より一部抜粋して紹介する。

文●石沢鉄平、翻訳●河岸貴



(写真●Getty Images)

人間または選手は自身の想像力から被害者になる

――脳とPK戦の関係についてもお聞かせください。カタール・ワールドカップのベスト8を懸けたPK戦で日本代表は3人が外して敗退しました。

「日常の練習後によくある遊びとしてのPKであれば、同じようなシュートになったと思いますか」

――ならないと思います。

「でしょうね。ある選手はすでに決まっている自分の得意なコースにズバッとシュートを放ちます。あるいはPKが得意な選手はGKの動きを最後まで見て逆を突くでしょう。したがって、PK戦のテーマもやはりストレスになります。動物は想像から不安になることは ありません。群れの中から1匹のシマウマがライオンに襲われ、ほかのシマウマは逃げているとします。捕まったシマウマはライオンに食べられている…逃れられたシマウマたちは何をするかというと、20メートルくらい離れたところで草を食べはじめる…。シマウマたちは食べられている仲間を見て、明日は我が身だと不安がることはありません。しかし、人間または選手は自身の想像力から被害者になります。『失敗したくない』『失敗したらどうなるのか』などというイメージがまさに『想像力の被害』という問題です。それがストレスです」

――クロアチア代表が日本代表にPK戦で勝利したのは経験の差なのでしょうか。

「経験はもちろん重要ですが、人それぞれ違いがあります。クロアチアは前回大会で準優勝しており、自信を持っています。かつ国としての期待値は毎回優勝候補と呼ばれるドイツ、もしかしたら歴史を塗り替えられると煽られる日本よりも大きくはないかもしれません。国としてこれまでの成績に比較的満足している、このような代表を取り巻く状況が、PK戦を有利にした一因といえるでしょう。日本の場合は少し違っていました。もし、日本がドイツ、スペインに勝利した快挙以上の何を望むのか、という気持ちにあれば、ストレス値は低かったと思います。反対に、ここで負けてしまったら快挙の意味がないと考えてしまえば…いかに想像力が重要であるかがわかるでしょう。プラセボとノセボという効果があります。もちろん、どちらも成功と失敗があり得ますが、ポジティブに考えるほうが、ネガティブに考えることより成功へのチャンスは大きいでしょう」

――チーム全体のポジティブな雰囲気と、キッカーそれぞれが持つ想像力も重要だということですね。

「確かに最初のキッカー(南野拓実)が決めていれば、結果は違ったかもしれません。しかし、我々がよく言うメンタルの強さ、つまり、何が起ころうとも自分自身に集中できるか、平常心を保つことができるかが大切です。前のキッカーが決めようが決めまいが、自分自身の安定性が重要なのです。だからこそ、指導者は選手個々人を強化していくことが大事になります」

――キッカーが成功に近づくため に何かできることはありますか。

「深呼吸です。シュトゥットガルト時代、ゲーム中のPKキッカーを任されていた選手とPKの話しをしたことがあります。アドバイスとしては、蹴る前に深呼吸を2、3度してみようと。その後にPKの機会があり見事に成功し、彼は私に『うまくいった』と報告をくれました。自律神経系、交感神経、副交感神経はご存じでしょう。PK時は当然興奮状態にあるので、深呼吸で自律神経のバランスを取ります。また、禅的な方法論として、ろうそくの火を見つめるように、一点に集中する方法もあります。例えば、蹴る前に観客席のある部分に焦点を合わせて凝視する。そうすると自然に呼吸が整っていきます」

――ベストはどちらでしょうか。

「やはり、深呼吸が一番簡単です。自律神経が整ったからといって、必ず成功するわけではありませんが、成功しやすい状態を作るのです。あなたが車で東京から大阪まで移動しなければならないとき、 高速道路が渋滞、もしくは封鎖されていて、迂回をしなければならない場合があるとします。そのときに大事なことは車の状態です。ガソリンが入っているかブレーキは機能しているか、タイヤの空気は万全か。状態が良好であれば、不測の事態があっても、目標達成の可能性は高いはず。深呼吸はPKキッカーを良好な状態にしてくれます。成功する、成功しないという未来は誰にもわかりません。失敗するかもしれないと考えてしまう未来の不安、失敗してクソっと吐き捨てた過去の悪夢。ストレスは未来と過去からやってきます。未来と過去を想像するのではなく、今あなたが立っているその瞬間、刹那、つまりその唯一の『現実』に集中すべきなのです」


全文は『フットボール批評issue39』からご覧ください。


【商品名】フットボール批評issue39
【発行】株式会社カンゼン
【発売日】2023/03/06

【書籍紹介】
最終号 10年間ご愛読ありがとうございました

特集:眠れないほど罪深い「PK戦」の話

まずはじめに言っておきたいのは、「PK戦」は面白いものではない。ペナルティー=罰という名称からして、そこかしこにネガティブな要素が散乱している。いい例として、観ている側は「アイツ、決めそうだな」とは言わずに「アイツ、外しそうだな」と言う。サッカー好きでなくとも戦犯を血祭りに上げられる残酷なシステムが面白いわけがないのだ。

それゆえ、特集企画のほとんどはネガティブなアプローチから生まれたような気がしている。冒頭のPK戦廃止論から始まり、脳のストレス、ルールのグレーゾーン……。そう、特集名どおり、まさに罪深い企画のオンパレードである。しつこいようだが、最終号となる本誌を読了したとて「PK戦」が面白くなることはない、と断言しておく。


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