関前SCから見る卒団式の光景 -卒業後も太く結ばれる絆-

2013年04月01日

コラム

卒団式シーズンとなった3月。4月からはまた新たな門出で子どもたちは歩みはじめます。今回、本誌『ジュニアサッカーを応援しよう!』で2年にわたって連載してきた武蔵野市のジュニアチーム関前SCの、28度目となる卒団式を訪問。街クラブから見た卒団式の光景はどんなものなのでしょうか。卒団式レポートをお届けします。

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居心地のよいクラブづくり

町内のコミュニティセンターの一部屋で催された卒団式。檀上の壁には、コーチたちから子どもたちへ思い思いのメッセージが敷き詰められてあり、傍らには、これまで子どもたちが獲得してきたトロフィーやカップが並べられてあった。この日すべての子どもに一つずつ分配し、持ち帰らせるためのものだ。司会進行役は卒団生を持つお父さんコーチ5人。会場の後方にはチームをサポートし続けたお母さんたちが勢ぞろいし、卒団式の進行のサポートのために駆け回っている。手づくり感にあふれた卒団式は笑いに包まれながら和やかに進み、そしてフィナーレへと向かった。

「いよいよメインイベントだな」

同じテーブルのコーチがそんなことをいう。親からわが子へ、わが子から親へメッセージを伝えるという関前SCの卒団式恒例の一大イベント。小学6年生の卒団生にしてみれば、みんなの前で自分の思いを親にぶつける、そして親の言葉を受け止めなければいけない緊張の場面だ。内面から強くなる。それが、関前SCのコーチたちが一貫して子どもたちに求めてきたこと。卒団式にまで、子どもを少しでも成長させようとする関前SC流の趣向が凝らされていた。

そうして親子がそろって檀上にあがり、マイクを渡された親たちがまずわが子へメッセージを伝える。

「お母さんはあなたを責めたことがあったし、すごく厳しいお母さんだったと思う。でも、困難にぶつかったときに諦めることをしてほしくなかったの……」

「○○は最初あまりサッカーが好きじゃなかったのに、辞めたいとは一言も言わなかったね。一度だけ、辞めてもいいんだよ、と伝えたこともあったけれど……最後までよくがんばったね……」

親たちが感極まり、声にならぬ声になると、見守る父母たちからすかさず「○○さん、がんばれ!」と声がかかった。檀上の男の子も母親が涙を流す様子をみてとると、こらえきれずに背中を向けて顔を覆った。

「……これまでも迷惑をかけてきたし、これからも絶対に迷惑をかけると思うけど……中学校へ行ってもサポートをお願いします!」

男の子が声をふりしぼって思いを伝えると、会場中から大きな拍手がわきおこった。その姿に誘われるようにして、他の子どもたちは目を真っ赤にはらして涙を流していた。鼻をすする静かな音が会場全体に響いていた。

「例年になく幼稚で手のかかる選手たちでしたが、今年も最後の最後に出てきました。やはり、6年生から中学生になる頃ににょきにょきと成長を感じさせてくれる。最後の2週間は本当に楽しかった」

小島監督は今年の卒団生の印象をそう振り返った。「6年生の3月までに成長すればそれでいいんだよ」。かつてそう話したこともある。子どもの成長を急がない。子どもの成長を信じて根気強く指導する。それが関前SC流の信念。そんなコーチたちの期待に応えるように今年の卒団生たちも最後の最後に成長をみせたのだ。

そこにあるのは「本気」の指導である。あるコーチが「乾坤一擲(けんこんいってき)という言葉を子どもたちに伝えていたが、クラブの初代監督である佐藤喜重郎さんが残したもので「天下の命運をかけて、のるか反るかの大勝負をする」という意味。たかがサッカー、されどサッカー。やるなら本気で、全力で。少年サッカーに持てる力のすべてを注ぐ。それが日本サッカーを底上げし、突き動かす。そんな初代監督の信念は、小島監督を筆頭に引き継がれ、多くのコーチたちに伝播し、毎年毎年「本気」が子どもたちに注がれている。だからこそ、子どもたちにも伝わるのだ。

「このクラブは帰ってきやすいんですよ。いつ帰ってきてもコーチの皆さんが僕たちを快く迎え入れてくれる。なかなかないと思いますよ、これだけ居心地のよいクラブは」

二次会の席に駆けつけたOBの大学生たちがそんな話をしてくれた。このクラブを取材した数年間で、関前SCの練習グラウンドにOBが遊びに来る場面に何度遭遇したことか。コーチたちと、子どもたちと、親たちの間に、太く結ばれた絆。卒団後もありつづける信頼関係。

「子どもたちがこんなメッセージをくれたんだよ」

メッセージが敷き詰められた色紙をうれしそうに眺める小島監督。その表情がいつになく柔和な夜だった。

(文●鈴木康浩)

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