幼稚園時代に出会った南野拓実選手と室屋成選手。“幼馴染”のふたりが築いた最高のライバル関係
2016年07月29日
育成/環境来週開幕するリオデジャネイロ五輪日本代表メンバーである南野拓実選手と室屋成選手。ふたりが同郷の幼馴染であることはあまりに有名だ。良きライバルであり良い友人でもあったというふたりは、お互いのことをどう感じているのだろうか。『僕らがサッカーボーイズだった頃3』より一部抜粋して紹介する。
(文●元川悦子 写真●Getty Images)
南野と室屋、出会いは偶然
関西国際空港に程近い大阪府泉南郡熊取町。大阪市内のベッドタウンとして名を馳せるこの町で南野拓実は生を受けた。その日は奇しくも阪神大震災の起きる前日の1995年1月16日。両親も慌ただしい状況下での子育てとなったに違いない。
「僕の名前は『自分で開拓して実るって意味だ』と小さい頃、親に聞かされました。名前負けせえへんようにしないといかんと思いましたね」と南野は命名の由来を打ち明けるとともに、生きる決意を新たにしたという。
南野家には三つ上の兄がいて、幼少期の拓実少年は兄の後をついて回る、活発な子どもだった。
「兄貴とはよくケンカしていました。兄貴と友達が遊んでいるところに僕がついて行こうとすると、『来るなよ』と言われて、それに反発する感じですね。でも結局はついていくことになっていました(笑)。サッカーもそんな流れで始めたのかな。兄貴たちと一緒に、物心つく前からボールを蹴っていました」
通っていた熊取町のフレンド幼稚園で本格的にサッカーを始め、同幼稚園を母体としたゼッセル熊取に入るのは、ごく自然の成り行きだった。
(中略)
ゼッセルのチームメイトには、のちに2011年U-17ワールドカップ(メキシコ)、そして2016年1月のリオデジャネイロ五輪アジア最終予選(AFC U-23選手権=カタール)でともに戦うことになる室屋成(現FC東京)がいた。2人の出会いはまさに偶然以外の何物でもなかった。
『天才サッカー少年・南野拓実』を目の当たりにしてきた室屋
「拓実と初めて会ったのは幼稚園の頃。兄貴同士が同い年で、ゼッセルで一緒に練習している傍らで、親に連れていかれた僕ら2人もよくボールを蹴ったり、鬼ごっこしたりしていました。拓実の家で遊ぶこともあったんですが、二言目にはあいつが『サッカーしよう』と言い出して、家の裏にあった中学校グランドへ出かけることになり、よく練習させられましたね。ホントにとことんサッカーが好きな子やったと思います(笑)。
小学校の頃の拓実は、ボールを持ったら絶対に離さなかった。ある試合では、キックオフの笛が鳴った瞬間から一気にドリブルで仕掛けて相手チームの選手を全員抜きしてゴールすることもありました。そうやってガンガン突っ込んでいく拓実を見ながら『すごいなあ』と感心していた覚えがありますね。
点を取るだけじゃなくて、『自分がゴールを守ってやる』という意識も強かった。地元の少年サッカー大会なんかでPK戦になると、拓実は『全部俺が止める』といってGKに入ってました。そういう行動パターンを見ても、どれだけ負けず嫌いなんやと思いますよね(苦笑)。それが南野拓実という人間なんです」と室屋は幼馴染の天才サッカー少年の一挙手一投足を目の当たりにしながら、いつも刺激を受けていたという。
南野自身にとっても親友かつライバルの室屋の存在は大きかった。優れた選手が身近にいたからこそ、彼のサッカーへの意欲や向上心がより掻き立てられたのは間違いない。
「僕の中で成に対するライバル意識はすごくありました。小学生の時は自分がFW、成がトップ下という形でコンビを組んでいて、成が出したボールを俺が決めるみたいなコンビも結構あったかな。練習が終わった後もよく2人でボールを蹴りましたし、お互いに感覚的な部分でわかり合っていたところがありましたね」
生粋のストライカーと気の利くボランチ
高学年のときに二人を教えた比嘉陽一コーチもこう語る。
「拓実はホンマに負けず嫌いで、自分がボールを奪われたら追いかけて取り返し、そのまま点を取ってしまうような子。ゴール前の一瞬の動きとひらめきは生粋のストライカーそのものでしたね。成のほうは運動量豊富で気の利く選手だったから、トップ下やボランチに彼がいることで、拓実もやりやすかったと思いますね」
(中略)
中1からセレッソU-15入りした南野の同期には秋山大地、小暮大器といった面々がいた。中でも秋山とは仲がよく、ピッチ内外でよくコミュニケーションを取り合う間柄だった。ユースを経てプロになるまでともに切磋琢磨してきた南野について、秋山はこのように語っている。
「正直、セレッソに来たばかりの頃の拓実は小さくて、そこまでうまいとは思わなかったですね。ただ、勝気な部分がすごかった。そこは他の選手とは比べ物にならないほどでした。もともとFW気質が強いのか、『絶対俺が決める』とボールをチームメートにもパスしなかったですね(苦笑)。あの頑固さは拓実の大きな武器。そういうやつだから、海外に出て行くんだなと今になって改めて感じます。
『自分が決める』というゴールへの貪欲さは、中2、中3と年齢を重ねていくごとにより一層、強まっていきました。中2から一気に身長が伸び、体も大きくなって、どんどんうまくなった。ゴール前の嗅覚も研ぎ澄まされていったと思います。一緒に試合に出ていても『やっぱり拓実、ここにおんねんな』っていうシーンはよくあったし、つねに点の取れるポジションを取っていた。そういう部分を含めて、やっぱり拓実は俺が見てきた中で最高のストライカーだと今も思っています」
『物凄い差がついたな』と愕然とした
ボランチとして献身的にサポートを惜しまず、時には決定的なパスも出してくれる秋山のような仲間にも恵まれ、壁にぶつかりながらも比較的順調に成長していた南野。そんな彼をゼッセル熊取のジュニアユースに残った室屋はただ遠くから眺めるしかなかった。自身はセレッソU-15のセレクションに落ち、地元に残っていたが、南野率いるセレッソと中学時代に試合をする機会が巡ってきた。そこで信じ難い力の差に直面。彼はショックを隠せなかった。
「その試合では、拓実が途中から出てきてハットトリックを決められました。やられた瞬間、『物凄い差がついたな』と愕然としたし、自分自身の将来を諦めかけました。正直、『もうサッカー辞めようかな』くらいの気持ちになったのも事実です。
ただ、逆にグングン成長している拓実を見て、自分も頑張らないといけないという思いも湧いてきました。それまでは全国トップの強豪校に進もうとは考えていなかったんですけど、俺も夢を持って前へ進まなきゃいけないとも感じました。
青森山田行きを決めたのは、黒田(剛)監督がゼッセルの杉山さんと同じ大阪体育大出身で、青森山田が奈良のインターハイに出た時に練習参加させてもらって『ウチに来い』と言われたことでした。自分は右サイドハーフでドリブルしていただけだったんですけど、『山田ならチャンスがある』と言葉をかけてもらえた。自分を変えて、少しでも拓実に近づきたいと思ったのも確かでした」と室屋は苦しんだ中学時代の胸中を打ち明ける。
(中略)
やっぱり拓実はいつも自分の前を走っている存在
2011年6月のU-17ワールドカップでは、ゼッセル時代の親友・室屋と再び一緒にプレーできるチャンスが巡ってきて、南野自身もモチベーションを高めていた。それは室屋の方も同じ。「何で俺がここにおるんや」と室屋は信じられない思いでメキシコの大舞台へたどり着いたことを明かす。
「僕はアジア最終予選の前にいきなり呼ばれましたけど、エースの拓実との差は依然として大きかった。そんな自分にできるのは、とにかく走って走って走ること。監督の吉武(博文=現FC今治監督)にも『迷ったら走れ、そして近くに預けろ』と言われていました。
メキシコで拓実と絡んだ一番の思い出は、決勝トーナメント1回戦のニュージーランド戦で、自分のアシストから拓実がゴールしたことですね。ゼッセル時代と同じことがメキシコの世界大会でできて、僕自身もすごく嬉しかったけど、親同士が特に喜んでいましたね。そうやって同じ舞台で戦っていても、やっぱり拓実はいつも自分の前を走っている存在でしたね」と室屋は本音を包み隠さず吐露してくれた。
プロフィール
著者:
元川 悦子
(もとかわ えつこ)
1967年、長野県生まれ。業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーランスのサッカージャーナリストとして活躍中。現場での精緻な取材に定評があり、Jリーグからユース年代、日本代表、海外サッカーまで幅広く取材。著書に『U-22』(小学館)、『古沼貞雄・情熱』(学習研究社)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『いじらない育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(NHK出版)、『勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)、『高校サッカー監督術育てる・動かす・勝利する』『高校サッカー勝利学 ―“自立心”を高める選手育成法―』(小社刊)などがある。
【商品名】僕らがサッカーボーイズだった頃3 日本代表への道
【発行】株式会社カンゼン
【著者】元川悦子
四六判/256ページ
2016年6月24日発売
⇒本人とその家族・指導者・友人の証言から描くサッカー人生の“原点”とは
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