運動能力低下と勝利至上主義はつながっている。日本スポーツ界全体の問題点とは

2019年02月04日

コラム

2017シーズン天皇杯全日本サッカー選手権でJ1の北海道コンサドーレ札幌を撃破するなど、衝撃的なジャイアントキリング旋風とともに脚光を浴びたいわきFC。天皇杯での躍進をキッカケにJ1のクラブにも勝るとも劣らない施設や、クラブのヴィジョンに掲げる「日本のフィジカルスタンダードを変える」というセンセーショナルな言葉が様々なメディアに取り上げられ話題となった。一方で彼らは「育成」にも力を入れ、着々と地域に根差したクラブになっている。今回はいわきFCでアカデミーアドバイザーとして育成に携わる、小俣よしのぶ氏の言葉から、子どもの運動能力が低下する理由の根源を探る。

【連載】いわきFCの果てなき夢

取材・文●藤江直人 写真●Getty Images、ジュニサカ編集部


【小俣よしのぶ氏インタビュー第3回】いわきFCが取り入れる“東ドイツの知見”。発育に応じて「育成プランを変えていく必要がある」


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【いわきスポーツクラブ(いわきFC)でアドバイザーを務める小俣よしのぶ氏】

スポーツ科学の骨格を作った70年代の東ドイツ

――東ドイツにおける選手育成システムを長く研究してきた、とうかがいましたが、そもそもなぜ東ドイツに興味を抱くようになったのでしょうか。
 
「私はアメリカンフットボール出身で、将来はコーチになりたいと思い、1980年代にアメリカへ留学しました。しかし、残念ながらアメリカにはコーチの養成システムどころか、選手の育成システムも何もないといった状態でした。やっていたのは競争による淘汰、選抜で、これは今も変わりません。
 
 1988年のソウルオリンピックをアメリカで観戦しましたが、東ドイツが非常に強かった。以前から東側の国々に興味があったので、アメリカに見切りをつけて帰国して自分なりに調査を始めました。
 
 最初はソ連から入りましたが、ソ連にも西側にはない理論やノウハウがたくさんありました。しかし、いかんせん育成強化システムは大国ゆえの戦略でした。
 
 対照的に東ドイツは人口が1,600万人くらいの弱小国なのにアメリカに勝ち、メダル獲得数が2位になったりしていた。
 
 理由を調べていくと、西側諸国よりも数十年先を進んでいる、ものすごく先進的なスポーツ科学に基づいた育成システムとその理論でした。実は私たちが学んでいるスポーツ科学のほとんどは、この時代に東ドイツとソ連などの旧東側社会主義国で作られたものなんです」
 
――それはちょっとした驚きです。
 
「これは私の偏見に満ちた推察ですが、アメリカはソ連や東ドイツなどからフィジカルトレーニングなどのネタを頂戴して、綺麗に作り直して、パッケージ化して日本へ輸出していると感じます。
 
 今では一般化している体幹トレーニングがあるじゃないですか。あの源も1970年代に東ドイツで作られたものなんですよ。
 
 元々は体幹トレーニングとして作られたものではなく、子どもの育成段階で、姿勢がだんだん悪くなってくる。そうなると、人間が持っている情報収集分析能力を含めた感覚機能や姿勢支持機能が低下し、結果として運動能力も低下してくる。さらに姿勢が悪く猫背になると身長の生育にも影響を及ぼすことになります。
 
 姿勢については日本代表でも猫背が話題になったこともあります。こうした悪循環を食い止めるためにも、姿勢支持機能や感覚機能に刺激を入れるためにはどうしたらいいのか、という考えの下で編み出されたものなんです。
 
 1970年代に東ドイツで出版された本を見ると、なんとかプランクやゴムバンドを引っ張っている写真などが添えられた、今で言う体幹トレーニングが紹介されている。
 
 将来的なトレンドを知りたかったら、東ドイツで1970年代に出された本を読めばいい、と私はスポーツ関係者の方々によく冗談で言っています。ラダートレーニングなども、すべて当時の東ドイツで作られたと聞いています。アメリカ発というスポーツ科学は、嘘っぱちです(笑)。
 
 ちなみにアメリカはスポーツ医学やバイオメカニクス、ストレングストレーニング手法などは優れています」

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