チーム動画紹介第67回「ダビデFC」
2009年03月19日
未分類現状に満足せず、常に新しいことを追求しよう!
今回は横浜市栄区で活動するダビデFCの練習にお邪魔しました。お話を伺ったのは元アルゼンチン代表のホルヘ・アルベルト・オルテガさん。アルゼンチンで17歳からプロの世界に飛び込み、アルゼンチンリーグ得点王に輝いたこともある経歴の持ち主です。
「ダビデFC」ってどんなチームですか?
ダビデFCは横浜市栄区のジュニアチームとして、2005年から栄区内の野七里グラウンドを本拠地として活動をしています。セレクションなどは行わず、平日に活動しているエスペランサのスクール生の中から、週末に少年団などで活動していない子どもたち12名でスタートしました。現在は、幼稚園から小学校6年生まで、全体で48名が参加しています。チーム名のダビデとは、旧約聖書の一説に出てくる、困難や試練に立ち向かい、それに打ち勝って王となったダビデ王のことです。子どもたちに、そういう気持ちを持ってほしいとの願いを込めて名づけました。
最近の活動状況を教えてください。
現在、ダビデFCは所轄の栄区サッカー協会にチーム登録を認めてもらえない状況にあります。「元アルゼンチン代表の指導するサッカークラブ」の存在が知れ渡ると、ダビデFCに入団を希望する子どもが増え、地域で活動するサッカー少年団との均衡が破られるということを危惧しているようです。協会側には、すでにダビデFCで活動中の子どもたちのことも考えて、柔軟な姿勢で対応して欲しいと思っています。公式戦などに参加できないことで一番つらいのは、私たち大人ではありません。他ならぬ地域の子どもたちなのです。そのような状況のなかでも、先日行なわれた第35回神奈川県少年サッカー選手権(※協会未登録の団体でも参加が可能)では、低学年、高学年ともに中央大会にまで進出し、高学年は第4位の成績を修めることができました。リーグ戦など対外試合への出場機会が少ないなか、大舞台で結果を残せたことは、クラブをアピールするとても大きな機会となりました。
オルテガさんが来日することになったきっかけを教えてください。
私はクリスチャンなのですが、ある日、キリスト教の教会で、12歳から15歳の子どもの自殺率が日本は世界で1位だと聞いてショックを受けました。未来ある子どもが自ら命を絶つなどアルゼンチンでは考えられないことなのです。その時に、私はサッカーを通じて友達を作ることや新たな価値観を発見することで、少年少女が辛い時期を乗り越えられるようにしていきたいと思いました。そこで、当時、教会が行っていたスポーツ選手派遣を通じて日本にきて、鳥取県倉吉市にあるFC.CAMINOというクラブで指導しました。その後、母国アルゼンチンに一時期離日しましたが、2002年に再来日し、再び日本のジュニアサッカーを指導することになったのです。
アルゼンチンでは、子どもたちにサッカーを教えるのに資格が必要なのですか?
サッカーのコーチになるためには、最低一年間の勉強で資格を取ることが必要です。私もアルゼンチンでサッカー技術指導者の養成課程を修了し、最上級であるS級ライセンスを取得しました。そして、コーチは元プロサッカー選手が多いですね。日本でも経験のある人、勉強をした人が教えるのはベストだと思います。サッカー界の将来は、子どもたちにかかっているのですから、教える側の資質は重要でしょう。例えば、あなたの目の前に、病気で手術が必要な子どもがいたら、どうしますか?あなたが手術をしますか?できませんよね。ちゃんと勉強をして資格をもった医者のところに連れて行くはずです。それがあなたもお子さんも安心でいられる手段だから。その子の人生がかかっているからこそ、専門家であり信頼できる医者に任せることが大事ですよね。
ジュニアサッカーの指導者にとって重要なこととはなんでしょうか?
物事には、決して学び終わるということはありません。サッカーに限らず、指導で伝えられることは、自分の経験したことだけです。経験を積んだ大人は、自分だけの教科書をもっていて、考え方が凝り固まっていることが多いのです。そのプライドを捨てて、柔軟な心構えで学び続けることが重要なのです。医者に例えれば、30年前に勉強をして医者になり今も現役で診察を続けているとします。果たして、大学で勉強をしていた当時のことだけを知っていれば通用するかと言えば、医学は日々進歩をしているので通用しません。サッカーも同じことで、日々進歩しているのです。
学ぶことに終わりはないという考えは、子どもたちにも伝えているのでしょうか?
もちろんです。私がそれを強く感じたのはアルゼンチン代表時代にディエゴ・マラドーナを見たときでした。チームの練習が終わった後に、彼はひとり残ってフリーキックの練習し、黙々とボールを蹴り続けていました。100本かそれ以上。試合のときはボールを見ないでも、自分の蹴りたいところに決めることができていました。マラドーナのようなスーパースターでさえ、それくらい影で努力を続け、自分を磨くことを忘れなかったのです。いつまでも昨日と同じプレーをしていては駄目で、いつでも先に進まなければいけないことを子どもたちに感じて欲しいんです。サッカーだけではありませんよ。勉強についても同じです。毎日10分だけでも勉強をする。たった10分でも、それが積み重なれば大きなものになるのです。
ダビデFCの目標とそれを実現させるための指導方法を教えてください
プロのサッカー選手を育てることを目標にしていますので、試合で使わないことは教えません。試合で使えるパターンを練習用にアレンジして教えています。リフティングの練習を一生懸命して、連続して100回できるようになれば、それはそれで素晴らしいことです。でも、試合でそういうことを披露するときはない。だからこそ、試合で使えるテクニックを指導者は教えてあげる必要があります。
編集部コメント
オルテガさんが、アルゼンチンでジュニアサッカーを指導していた頃の逸話です。「ある日、ボカの育成機関で総責任者を務めるラモン・マドーニにサッカーを観に行こうと誘われました。およそ2時間もかけて、やっと辿り着いたグラウンドでサッカーをやっていたのは、10歳くらいの子どもたちでした。マドーニは、そこでプレーをするひとりの子どもをみるために、しかも全く無名のチームへわざわざ車を走らせたのです。ところが、お目当てだった少年のプレーを数分見ると、マドーニは帰り支度をはじめました。きっと期待はずれだったのだろうと、私は思いました。なぜなら、その少年のプレーを見て、まだスカウトするのには値しないと、私は感じていたからです。しかし、マドーニは違ったのです。大至急、この少年と契約をする必要があると言ったのです」過去にリケルメやカンビアッソといったアルゼンチンを代表するサッカー選手を発掘した人物であるマドーニ氏だからこそ、わずか数分で、10歳の少年がダイヤモンドの原石だと見抜くことができたのでしょう。その時にオルテガさんは思ったそうです。ジュニアサッカーの指導者によって、ひとりの少年の人生を変えてしまうことが有り得るということを……。
10歳だった少年の名はカルロス・アルベルト・テベス。後にマラドーナ自身から後継者と指名された、現在マンチェスター・ユナイテッドで活躍する逸材だったのです。
(文● 山本 浩之)
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