ジュニサカ賢人・池上正さんに聞く 私が「怒鳴らないコーチ」を推奨する4つの理由

2013年03月11日

コラム

ジュニサカWEBサイトでは、指導者や保護者の質問に池上正さんが回答する、『一語一得』というコンテンツがあります。質問の中には、「コーチが怖くてチームに入りたくない」「コーチが厳しくて休ませてもらえず、前向きになれない」といった指導者に対する悩みがあります。一方、指導者の方も、「池上流を取り入れようと努力しているが、子どものプレーぶりを見ていると歯がゆくてストレスがたまる」といった声も寄せられています。『怒鳴らないコーチング』とはどういうことか、その本質的な意味を改めて考えてみましょう。

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(構成・文●島沢優子 写真●編集部 取材協力●京都サンガF.C.)

「怒鳴る」はもっとも簡単なコーチングである

私は「怒鳴るコーチ」をひとりでも減らしたいと、さまざまなことに取り組んできました。講演や講習会では「怒鳴るのはやめましょう。楽しくサッカーをした方が子どもはうまくなりますよ」と言います。4年前に出した『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』を筆頭に3冊になった書籍の中でも、何度も触れています。

私の持論に共鳴してくださる方が少しずつ増え、怒鳴る指導者が減ってきた実感はあります。ですが、まだまだ多数派を占めるのが現実でしょう。

「アイツは叱ったほうが伸びる」「褒めるとつけ上がる」「テングになるから」―それが、多数派の皆さんが怒鳴る主な理由のようです。叱って言うことを聞かせる、がんばらせる、苦しい練習をやらせる。「○○ができないヤツはグラウンド1周!」と報復措置をとったりもします。

実際に、怒鳴れば選手は動きだします。子どもが思い通りになるので、安心しますし、何よりそこに達成感が生まれます。よって、「怒鳴る」「叱る」という手法は、もっともイージーなコーチングといえます。「なんで走らないんだよ!」「シュート、ちゃんと狙えよ!」と、目の前で起きたことを表現すればいいわけですから。

このように、「怒鳴る」は、とても簡単で便利な手法なのですが、さまざまな欠点があります。ここでは、私がおススメしない「怒鳴るコーチ」の、主となる四つの欠点をお伝えします。

(理由1…怒鳴られている子は、コーチの想定内しか上達しない)

これがひとつ目の欠点です。例えば、リフティングの練習をするとします。「集中しろ! 全員100回やるまで帰れないぞ」などと命令します。すると、子どもたちは心のなかで「怒鳴られるから仕方がないな」「帰れなくなるからやろう」などとネガティブな思考になりつつも、何とか100回までやります。そう、「100回まで」です。怒鳴られている子は、コーチが設定した数で止まってしまいます。

反対に、こんな言葉がけをするコーチだとどうでしょう。
「なんとなくダラダラやっているように見えるけど、そのままでいいのかな? 本当にサッカーをうまくなりたいですか?」

子どもたちは目の色を変えて取り組みます。そしてほとんどの子が100回以上やりつづけます。一生懸命やる子は「200回までやる!」などと独自に目標設定をします。要するに、怒鳴られない子は「コーチの想定外に」上達します。コーチの予想を飛び越えていくわけです。このようなことを、私は何度も経験しています。

毎日一生懸命子どもの指導にあたっている少年コーチの皆さんこそ、日本のサッカーの未来を支える人材です。ですが、サッカーでいえば、日本はまだ世界のトップ10入りはしていません。強豪国から見れば、私たちは新興国です。だとすれば、子どもたちには新興国の大人である私たちの枠をどんどん飛び越えてもらわなければいけません。強豪国の育成コーチでさえ、自分たちの想定外をいく子を育てることに躍起になっているのですから、私たちも簡単で便利な「怒鳴る」をやめなくては、彼らには未来永劫追いつけないでしょう。

加えて、Jリーグの選手に高校時代の話を聞くと、9割以上が「どうやったら練習をサボれるかということをいつも考えていた」と言います。でも、日本代表などで活躍できる選手は違います。

「成功した選手は、僕がこれをやれと命じた以上のことを、自分からやっていたよ」名門・帝京高校で多くの日本代表選手を送り出した古沼貞雄元監督はそう話していました。
それでも、「いや、コーチである私の想定内で十分だ」と思われますか?

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