サッカーエンタメ最前線 近代バルセロナの栄光を築いたヨハン・クライフのサッカー哲学
2013年04月22日
サッカーエンタメ最前線4月20日(土)発売となった『フットボールサミット第12回』では、〝FCバルセロナはまだ進化するか?〝と題し、世界で最も美しく、最も儚いFCバルセロナのフットボールの未来を占っています。ここでは、本書で取り上げられている、近代バルセロナの栄光を築いたヨハン・クライフのインタビュー記事を一部紹介します。
文●ジャン・イサルテル 翻訳・構成●田村修一
フィジカルの弱さが早い状況判断を育む
――今のバルセロナをどう見ていますか。美しいサッカーのシンボルだと、全世界が認めているでしょうか?
クライフ エキスパートの眼で見たら、ピッチの上のことだけに限らず、このクラブはあらゆるディテールを完璧に作りあげている。そしてそこに至るまでに、本質的な点がひとつある。それはイニエスタもチャビもまたグァルディオラ自身も、他のチームでは自分自身を十全に開花できない、ということだ。大人になる前に彼らはこう言われるだろう。「サッカー選手になるには、身体の大きさも強さも足りない」と。恐らく彼らは、プロになるチャンスすら与えられないだろう。
――チャビはそのチャンスをくれたのはあなただろうと言っていますが…。
クライフ 最初にチャンスを与えられたのはグァルディオラ自身だった。私がバルサの監督になったときに、ラ・マシアのスタッフにこう質問した。「若手の中で最も優れているのは誰か?」と。全員の答えが「グァルディオラ」だった。「それで彼はどこにいるのか、リザーブチームか?」と聞くと、リザーブにすら入っていないという。フィジカルが弱いから、Cチームから上に上がれないと。私は彼をリザーブチームに上げ、1年後にはトップチームでプレーするようになった。バルサのコーチたちは、本質的に重要なのはボールを支配する能力だということを、このときから理解するようになった。そしてその領域では、小さな選手の方がアドバンテージがある。
――どういうことですか?
クライフ フィジカルの弱い選手は、普通とは異なるサッカーの教育を受けるからだ。彼らは小さな頃から、相手との接触を避けることを学ぶ。彼らは最年少の頃から身体的な衝撃を受けないためにボールをよくコントロールし、誰よりも速く周囲を見て状況を判断する。
それとは逆に屈強なフィジカルが特徴の選手は、同じように衝撃を回避する必要がない。予測する必要も素早くプレーする必要もないし、ボールをうまくコントロールする必要もない。衝撃は受けるが、それこそが彼らの最大の長所だからだ。
華奢な選手がプレーをするためには、狭いスペースで時間をかけずに動ける術を身に付けることが不可欠だ。そうでなければプレーはできない。私自身が子どもの頃にそういう状況にあった。当時はストリートサッカーだったが、他に選択の余地はなかった。一度、痛い目に会うと、嫌がおうでも理解する。そして私のサッカーのコンセプトのベースはそこにある。
――ラ・マシアの重要性を強調するのも、それがベースにあるからですね。
クライフ それだけではない。他にも重要な要素はある。それは帰属意識だ。環境をよく知っている選手の方が適応は容易い。同じ文化を共有し、ユニフォームへの愛着を持っている選手たちだ。このクラブへの帰属意識が、選手同士の関係を最大限に大きくする。というのもそれが彼らの行動に責任感を与え、重大さを意識させるからだ。今日ではひとつのチームに、異なる国籍、異なる文化の選手が混在することが多い。そうであるからこそ帰属意識はより本質的に重要になってくる。
過去を振り返ってみてもプレーを支配したチームは、ミランにしろアヤックスにしろ、かつてと現在のバルセロナにしろ、中核は地元出身の選手たちで構成されている。ほとんどがクラブで育成された選手だ。5~6年にわたりそのプレーでヨーロッパを支配したチームで、主力が外国人で構成されているチームはひとつもない。その意味で帰属意識は、他のすべての要素が同じであるときに、小さな違いを作り出すプラスアルファであると言える。
――その2つが、バルサが現在のヨーロッパを支配している最大の要素であると言いたいのでしょうか?
クライフ 恐らく最も重要なのは、監督自身がこの2つの要素から生まれていることだろう。外から呼ばれた監督が数年かけて学ばねばならないこと―クラブやチームの文化を、グァルディオラは監督になった時点ですでによく知っていた。彼自身が肌で感じていたからこそ、クラブにとってどの選手が必要でどの選手が不要か、どういう選手を獲得すればいいかよくわかっていた。その点で彼に迷いがなかった。
サッカーはそうしたディテールの積み重ねだ。チームの内外で何が起こっているか、試合のときと日常の生活で何が起こっているか。そうしたことを明確にかつ迅速に理解することで、すでに違いが作り出せる。
――チームの周辺で起こっていること―あなたが〝枠組み?と呼ぶものこそ最重要なのでしょうか?
クライフ チームでの相互作用が最も重要だ。とりわけバルセロナでは、クラブ首脳やメディア、ソシオの影響力が大きい。そうした周辺の枠組みは、チームが優れたプレーをして状況を支配しているときには追い風になる。だが危機に直面した際には、そうした力が負のスパイラルを加速化して、監督が荷物をまとめてクラブを去るにまで至る。そうなったときには、どんなにあがいてもチームはもはや勝てない。絶対に不可能だ。そうした事態を避けるために、私はクラブ首脳がロッカールームに入ることを禁じた。実行したのは私が最初だった。もちろんグァルディオラもその習慣を引き継いでいます。
当然のことだろう。クラブの会長や首脳はどれほど優れていようとも、1人のサポーターにすぎない。我々指導者は、彼らとサッカー論議はできない。我々が彼らにするのはサッカーを説明することで、決して議論にはならない。
議論すなわち意見の交換は、決断する際の大きな手助けになる。アシスタントコーチやロッカールームの人々との議論だ。私はそんな風に仕事をしたし、グァルディオラも同じようにやっていた。
※『フットボールサミット第12回』より一部抜粋
この続きは『フットボールサミット第12回』をご覧ください。かつて指揮官クライフの下にいたグアルディオラやロマーリオについてのエピソードなども紹介されている。
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