清武弘嗣選手が経験した苦い全少での思い出と父の熱き教え【後編】
2013年07月11日
サッカーエンタメ最前線
メンタル面での不安定さに苦しんだ小学生時代
翌日の準決勝は、指宿洋史(セビリア・アトレチコ)を擁するエリート集団・柏レイソルU-12との対戦だった。チームの絶対的支柱である弘嗣少年を欠いた明治北SSCは、ゲームをうまく組み立てられない。本人もスタンドから声を枯らして懸命に応援するものの、主導権を握れない。0対1の敗戦だった。
チームは3位に入って努力賞をもらったが、弟・功暉やチームメイトに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。と同時に、「お前にだけは、サッカーさせんとよかった」という父の言葉が頭の中を駆けめぐる。改めて自分の失敗を振り返った清武は、「サッカー選手はどんなときも冷静さを失ったらダメなんだ」と強く感じた。そして「同じ過ちは二度と繰り返さない」と誓った。
全少でのアクシデントに象徴されるように、この頃の弘嗣少年はメンタル面の不安定さを垣間見せていた。
父・由光さんが「弘嗣は繊細なところがありました。兄の勇太や弟の功暉に比べて感性が鋭く、ピッチ上ではいつもピリピリしていて、完璧にすべてをコントロールできないと納得いかない子でした。その分、精神的に不安定になりやすかったのかもしれません」と指摘する。新庄総監督にも思い当たる出来事がある。
清武が6年生の頃、子どもによくありがちなイタズラを少々やりすぎてしまい、音楽の先生が教頭だった新庄総監督に相談してきたことがあったのだという。
総監督は本人を呼んで、こう言い聞かせた。
「お前は精神的に弱いから、つらいことからすぐ逃げる。それじゃあダメなんだ。そこできちんと立ち向わないといかん。もっと自分の行動をよく振り返ってみろ」と。
弘嗣少年にも思い当たるフシはあったに違いない。けれども、思春期を迎えつつある男の子は、人の忠告を素直に受け止めきれないところがある。
「新庄先生には『お前は気持ちが弱い、弱い』ってしょっちゅう言われました。淳宏さんや優人君と比べては、『技術はお前の方が相当うまいけど、気持ちとかは向こうの方が断然上じゃ』って怒鳴られる。カッと来たことが何度もありました。全少で退場したときも『気持ちが弱いからこうなった』って怒られたけれど、そのときは自分ではどうしても受け止められなくて……」と本人も少年時代の葛藤を口にする。
新庄総監督にしてみれば、弘嗣少年が「何年にひとりというダイヤモンドの原石」だとわかっていたからこそ、もっともっと厳しくしなければいけないと思ったのだろう。由光さんはそんな恩師の行動をむしろ、ありがたく思っていた。
「弘嗣がナイーブな子だったからこそ、あえて怒ってくれたんだと思います。そういう経験があったから今がある」と父は周囲の献身的なサポートに感謝する。
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【著者】元川悦子
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