畑喜美夫×幸野健一 両氏が語る、いまサッカー界の育成に必要なこと -“選手が主役”の指導法「ボトムアップ理論」が子どもの自立を促す!-(後編)
2013年10月09日
コラム真の「文武両道」とは?
――そういう意味では、畑先生は「文武両道」など当たり前という感覚ですか?
畑氏 そうですね。私は「試験週間」というものが嫌いで、あれは勉強する時間を1週間前に備え付けるわけじゃないですか。サッカーで言えば、「では、1週間前に強化トレーニング時期を作ります」ということですから、私とは逆の発想です。私はよく「終了のホイッスルは始まりのホイッスル」と言っていて、勉強でも中間テストが終わったホイッスルは期末テストに向けたホイッスルなのです。だから、常にコツコツやることが大事で、文武両道の中で一番大事なことは文と武を『自分の中で』一生懸命やりましょうということなのです。成績が高ければいい、偏差値の高い大学に行けたからすごいではなく、コツコツ頑張っていくことを私は真の文武両道として捉えています。私のチームでは、コツコツ型の人間ばかりですから、成績が悪くて補習を受けるような子は非常に少ないですし、最後までサッカー部で頑張りながら国立大学に行くような子もいます。今の安芸南高校でも首席は2、3年のサッカー部ですし、広島観音高校時代も大体首席はサッカー部でした。でも、一番は『自分の中で』毎日サッカーと同じように勉強もコツコツやることです。
――日本には学生スポーツの中に「引退」なる言葉が存在する珍しい国ですが、畑先生のボトムアップ理論が浸透すれば「サッカーか勉強か」の選択に迫られるような子どもは減りそうですね。
幸野氏 そもそも勉強か部活かの二者択一自体がおかしなことですし、勉強のためにスポーツを辞めるということも不自然です。スポーツをやりながらも勉強は両立できると思いますし、大前提として一日中勉強をしたって集中力が続かないわけで、やはり何事も短時間に集中して取り組むことが大事だと思います。私が関わった今までの子どもの中には、一度も塾に行かずに東大レベルの大学に合格した子が何人もいて、その子たちは何も特別な勉強法を実践しているわけではなく、授業の中で100パーセント理解するよう集中して授業を受けているだけです。勉強もサッカーも本当に集中してやることが最高の結果を生み出すということをもっと広めたいですね。そもそも「文武両道」という言葉が存在すること自体、「どうなの?」と思っていますから。育成年代で文武両道なんて当たり前で、「サッカーが上手ければ、勉強しなくてもいい」なんてあり得ないわけですから、畑先生のような考え方が当たり前になるよう願っています。
――最後に、新刊を手にとって読んで下さる皆さんにメッセージをお願いします。
畑氏 「サッカーはサッカーで上手くなる」というより、「サッカーは全てで上手くなる」という思いを持ちながら、子どもたちの能力を引き出すためのファシリテーター役であって欲しいと思います。教えない指導、引き出す指導をすることによって、彼らの潜在能力や可能性が広がることを信じながら子どもたちに携わってもらいたいですね。ボトムアップは決して遠回りではなく、実はこれが一番の近道だということを是非皆さんに知ってもらいたいですし、皆でそれを発信しながらサッカー界のみならず日本全体を盛り上げていきましょう。
幸野氏 ますます格差社会が広がっていくと予想されていく時代の中で、やはり自らの力で未来を切り拓いていけるような子どもを育てて行くことが大切だと思います。だからこそ、畑先生のボトムアップ理論は保護者、指導者のみならず、教育機関の方々にも深く理解してもらいたいです。そして、最終的にはボトムアップ理論が当たり前の指導法となることを心から願っています。
<プロフィール>
畑 喜美夫
1965年11月27日生まれ。広島県出身。広島県立安芸南高校教諭。小学生時代から地元・広島の広島大河フットボールクラブでサッカーをはじめ、東海大一高校(現・東海大翔洋高校)、順天堂大学でプレー。全日本ユース代表を経験、大学では総理大臣杯、全日本インカレ、関東選手権の3冠をとった。大学卒業後は、広島に戻って教鞭をとる一方で、広島大河フットボールクラブの小・中学生をサッカー指導。1997年に県立広島観音高等学校へ赴任し、同校サッカー部監督として指導。選手の自主性を促すコーチング術を取り入れ、2006年に広島観音高校サッカー部を全国優勝に導く。日本サッカー協会公認A級ライセンス、元U-16日本代表コーチ。

幸野 健一
1961年9月25日生まれ。東京都出身、中大杉並高校、中央大学卒。10歳よりサッカーを始め、17歳のときにイングランドにサッカー留学。以後、東京都リーグなどで40年以上にわたり年間50試合、通算2000試合以上プレーし続けている。息子の志有人はJFAアカデミー福島1期生でFC東京所属(今季はV・ファーレン長崎に期限付き移籍中)。これまで2002年ワールドカップ招致活動やサッカースクール運営など、サッカービジネスに携わってきたが、現在は育成を中心にサッカーに関わる課題解決をはかるサッカー・コンサルタントとして活動中。9月より株式会社フロムワン顧問に就任。

<関連リンク>
・畑喜美夫×幸野健一 両氏が語る、いまサッカー界の育成に必要なこと -“選手が主役”の指導法「ボトムアップ理論」が子どもの自立を促す!-(前編)
・『子どもが自ら考えて行動する力を引き出す 魔法のサッカーコーチング』
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