「軽い」と言われる選手は重心移動ができていない!? 守備力向上のヒントを探る
2016年09月28日
戦術/スキル守備と重心移動は密接に関わっている。日本でよく見かける重心移動は足に負担がかかるやり方をしていることが多いそうだ。ポイントは進みたい方向の足から1歩目を力強く刻むこと。「決して進みたい方向とは逆足で踏ん張り、勢いをつけない」。著書に『重心移動だけでサッカーは10倍上手くなる』があるフットボールスタイリスト鬼木祐輔氏の言葉に耳を傾けます。
(構成●木之下潤 イラスト●中山けーしょー 写真●Getty Images)
「軽い」と言われる選手は重心移動ができていない!
よくサッカーで「プレーが軽い」「守備が軽い」という表現を使います。それは体全体でプレーせず、足先だけでプレーしていることを指しています。体の動きとして読み解くと「きちんと重心移動を行わず、片側(片足)に重心を残した状態でプレーしている」ということです。
体から足が離れていくように足を動かすと片足に重心が残ってしまいます。スムーズな大股歩きのように出した足に常に重心が移動するように体を運んでいれば、軽いプレーにはならないでしょう。
そもそも片足立ちの状態だと、体の大小に関係なく、強く押されたら耐え続けるのは困難です。そのような状態でボールをキープしたり、ボールを奪うのはなかなか難しい。少し噛み砕くと、ボールキープやボールを奪うために片足を動かし過ぎると片足に重心を残った状態(片足立ち)になり、プレーが軽くなります。そうならないためには、動く方向に重心が移っていないと相手の力をはねのけられません。
攻撃も守備も1対1という観点では、ボールを中心に、どちらの選手にとって有利な距離なのかということが重要です。つまり、攻撃側が守備を交わすことも、守備側がボールを奪うことも、重心移動の延長線上での勝負になると捉えられます。私は動く時に勝手に次の足が出てくる歩幅を『ドーナツ』と呼んでいます。そこにボールが来るように素早く動くことが大事なのです。だから、体とボールとの関係において攻守は関係ありません。
次の足が勝手に出てくる歩幅=ドーナツを知り、よりボールに素早く触ることができれば、相手より優位に立てるという考え方です。 もちろん、サッカーは選択肢があるから戦術的な判断が絡み、その速度は問われます。ただ単純にボールを奪い合う1対1という視点で物事を見れば、スムーズな重心移動を連続かつ素早く行うことが勝負の鍵を握っているのです。
【ビダル(バイエルン・ミュンヘン)など重心移動がスムーズな選手は守備力が高い】
守備もボールの置き所が重要
では、具体的に『重心移動』とは何なのか。先ほど重心が片側に残るという言い方をしましたが、基本的に人間は2本の足で体を支えます。だから動くとき、どちらかの足で必ず重心を支えることになります。片方の足が体から離れていくと、その離れた足が地面に着くまで反対の足は体を支え続けるために移動することができません。
きをつけの姿勢から体を傾けると自然と足が出てくると思います。多くの人はそこでブレーキをかけるように踏ん張ってしまいますが、倒れた瞬間にまた次の場所に体を傾けると自然に動き続けられます。それが『体を動かす』原理です。
止まった状態から足が体から離れるように動いてしまうと片足立ちになってしまうため、全体重を毎回押して動くようにしなくてはなりません。毎回反復横とびをしているようなイメージです。そうするとエネルギー消費も激しいですし、何より攻撃も守備もプレーが足先だけになる。だから、攻める側は「プレーが軽い」、守る側は「守備が軽い」と指摘されてしまうのです。
何度も強調しますが、ボールの奪い合いでのポイントは体から足が離れてしまうのではなく、大股歩きのように出した足にしっかり重心がついて行っているかどうかです。守備側がボールを奪えるタイミングを細かく説明すれば、重心が片足にのった瞬間です。つまり、ボール保持者が無防備になった瞬間です。
たまにドリブルのうまい選手が「相手の重心が右に寄った瞬間を狙って左に交わしました」などとコメントしている記事を読んだことがあるかと思います。
秘訣はボールの置き所を、次の足が勝手に出る間合い=ドーナツに保ち、タイミングよくボールを扱っているから。相手よりも素早くボールを動かし、勢いにのって動いています。守る側にとってもボールの置き所は大事です。相手よりも素早くボールに触れたり、相手とボールの間に体を入れられる距離は攻撃と同じ。指導者は、このドーナツの原理を知っておくと便利です。
交わされても重心をリセット
ここまでは、あくまでも移動する時のお話です。動きには連続性が大切になります。たとえば、ボールを奪われたとき、切り返されて交わされたとき、一番近くの選手にパスをされたとき、それに素早く対応して一歩目が出せたら、それはいい守備です。
そのときの対応でポイントになるのが、『止まる』動作で踏ん張らずに重心を体の中心にフラットな状態に持っていくこと。やり方は、頭を上げて上体を起こすことです。そうすると自然に重心がフラットな状態になり、動きが止まります。よくありがちなのが、片足で必死に踏ん張ってブレーキをかけるように止まること。サッカーではあまりやりたくない動きです。
踏ん張って重心が片足に残った状態から動き直すことと、フラットな状態で一歩目を出すことを比べたら一目瞭然でしょう。さらに片足で踏ん張って止まり、次の一歩を踏み出すほど足に負担がかかります。
テニスの基本動作に『スプリットステップ』というのがあるのはご存知でしょうか。この競技は展開が早く、2時間以上も前後左右斜めとさまざまな動きを繰り返し、しかも数日おきに連戦でプレーします。サッカー以上にハードに重心移動を行います。なのに、テニス選手たちは毎試合スムーズに動いて戦っています。
スプリットステップは常に重心をフラットな状態にリセットし、次に出した足に素早く重心を移動させるためのステップです。片足で踏ん張って止まれば、その足に重心が残っているから進みたい方向に勢いをつけるには、同じ足に力を入れなければなりません。そんなことを続けていたらテニスでは、体が悲鳴をあげてしまいます。
簡単には「踏ん張らずに動きましょう」ということです。常に重心をどちらの足にものせていない状態を作り、進みたい方向の足で1歩目を出すことを繰り返せば、体に負担なく最短距離・最短速度で進むことができます。DFの選手がたまに逆をとられ、相手に背中を向けて反転して守っていますが、体を反転させた瞬間に振り切られているでしょう。前を向いた状態で方向転換して守った方が絶対に速いし、相手にとっては嫌なはずです。
「重心移動を素早く行うこと」いい守備はここから始まる
サッカー選手にとって大切なのは重心移動を連続してスムーズに行うこと。一つ段階的な学び方を示してみます。
ステップ1は、常に重心をフラットな状態に保ち、次の一歩を素早く出すために自分の歩幅=ドーナツを知ること。重心をフラットな状態に保つには、自然な足幅に足を開いて頭とお尻を高い位置に保つイメージを持つことです。そして、重心は足から足に移るから次の足に速く重心が移動しているかを意識し、進みたい方向の足から1歩を出すことです。これを窮屈に感じず、動ける距離感が自分の歩幅です。
STEP1
次の足(1歩)がスムーズに出る歩幅(ドーナツ)を知る
常に重心をフラットに保ち、次の1歩を素早く出すために歩幅(ドーナツ)を知ること。重心をフラットに保つには、肩幅に足を開いて頭を上げて上体を起こし、気持ちお尻とかかとを上げること。そして、進みたい方向の足から1歩を出して進むと適性の距離を図れます。
ステップ2は、自分の胸の高さに棒があるつもりでそれをくぐって移動するトレーニングです。これを素早くするには、体ごと次の場所に動かなければならない。つまり、重心ごと移動しなければなりません。足だけ動かしても体は棒をくぐれないから繰り返すことは不可能です。いわば、足先プレーとはこのことです。前後、左右、斜め前と斜め後ろと試してください。
STEP2
自由自在に重心移動を操る感覚を養う
ステップ3は、右と左に交互にコーンを置いたスラロームです。ポイントはターンをするとき、進みたい方向の足で1歩を出すこと。内側の足を真下に踏むように出しましょう。そうすれば、自然に重心がコーンの外まで移動していなければならないし、方向を変えるとき、頭を上げて重心をフラットに戻す作業を身につけられます。鬼を捕まえる鬼ごっこも守備の動きを学ぶのに役立つので、ぜひ試してみてください。
STEP3
コーンを使ってスラローム
ターンをするときは進みたい方向の足で1歩を出すこと。内側の足を真下に踏むように出しましょう。そうすれば、自然に重心がコーンの外まで移動していなければならないし、方向を変えるとき、頭を上げて重心をフラットに戻す感覚を身につけられます。
ポイントは進む方向の足でコーンをターンする
(外足で踏ん張って方向転換をしない)
<関連リンク>
・『ジュニアサッカーを応援しよう! VOL.41』
・サッカーやフットサルで使える! 守備力向上のヒントとなる記事12選
・思い通りにカラダを動かすために“重心移動”をマスターしよう!
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