派手な”ブラジル”と派手さがない”アルゼンチン”。南米各国によって「ドリブルスタイル」が違う訳

2017年12月11日

コラム

LEIPZIG, GERMANY - JUNE 24: Juan Riquelme of Argentina is pursued by Jose Antonio Castro of Mexico during the FIFA World Cup Germany 2006 Round of 16 match between Argentina and Mexico played at the Zentralstadion on June 24, 2006 in Leipzig, Germany.  (Photo by Clive Mason/Getty Images)
【バルセロナなどで活躍したリケルメは、自分の足が遅いことを自覚し、相手を おびき寄せてから抜く、というドリブルが極めてうまかった。】

スピードではなく、手やお尻を上手くつかう

 アルゼンチン人のドリブラーでは、かつて代表でマラドーナとツートップを組んでいたカニーヒアの存在も忘れることができ ません。カニーヒアの魅力はスピードにありました。スペースがあれば活きてくるタイプのストライカーです。

 ただ、スピードは、アルゼンチンのドリブラーにとっては、それほど重要なファクターではないかもしれません。相手の逆をとって抜いたら、すぐに相手の背後に入ってしまうからです。ボールを相手選手に触らせないところに置きつつ、そのときに手やお尻の使い方もうまいのがアルゼンチンのプレーヤーの特徴です。相手を抜いてから背後をとるにはパワーや手の使い方、腰やお尻でのブロックなど相手の半身でも前に入る一瞬のコツが必要となるのですが、そんな巧さと力強さも兼ね備えているのです。

 スペインのバルセロナやビジャレアルで 活躍したリケルメは、決して足の速い選手ではありませんでした。リケルメ自身も、自分の足が遅いことをわかっていたのでしょう。相手をおびき寄せてから、その背後を取るという方法で抜いていきました。

 これは、サッカーの本当に面白いところです。スピード勝負ではウサイン・ボルトには勝てないけれど、陸上競技と違ってサッカーはフライングもできるし、ウソをついてもいい。「右に行きますよ」と振っておいて左に行くこともできる。引き技で後ろに下がるフリをして実は前に進んだり。そうやって相手を誘い出したり、相手を一度止めておいていきなり前に出たりしてもいい。そうなると周りも錯覚してしまいます。リケルメも速いように見える。でも、決して速くはないんです(笑)。

 そして、アルゼンチン人のドリブラーは観客が作り出すといってもいいでしょう。選手がドリブルを仕掛けると、スタジアム のスタンドからは「Bieb(いいぞ)!」 という声が飛んできます。逆に「Cagon!」だったら、それは選手に対しての罵 声です。「腰抜け!」や「へこたれ!」「ビビりな奴」というような意味です。
 
 どんなときにそんな風に言われてしまう のかというと、たとえば、相手陣内の深いところまで攻め込んでいて、前方に二人のディフェンダーが立っていたとします。そこには隙間があるわけです。ただ、隙間といっても、日本であれば、仕掛けなくても問題にならない狭いスペースなのですが、アルゼンチン人であれば「あれは行けるだろ!」という感覚がみんなにあるのです。そのときのスコアが0-2で負けていて、しかもペナルティエリアの中だったら絶対に「行け!」と言う。もし、選手が仕掛けなければ、スタンドから「Cagon!」という痛烈な声が選手の耳に突き刺さるわけです。

 ワールドカップ(ロシア大会)の南米予選で苦しんだアルゼンチンは、崖っぷちに立たされたエクアドル戦で、メッシのハットトリックで出場を決めることができましたが、それまでの2試合は、まさにスタンドは「だから行けよ~!」という雰囲気 になっていて、アルゼンチンの選手たちが、両サイドから必死にドリブルを仕掛けているのがわかりますよ(笑)。

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