選手全員を公式戦に出場させる真の価値とは何か?【5月特集】
2018年06月01日
コラム
全員を試合に出せば1年後にはチーム全体が底上げされる
――昨シーズンまで前後半制でのリーグ戦を行っていて、1選手半分の出場というようなルールはあったのですか?
幸野「いえ、設けていません。今年から『3ピリオド制』にしたので、1選手1ピリオドは必ず出場させることという条件を加えました。多くの選手が公式戦に出場することを目的にしていましたし、3年間の反省として『3ピリオド制』に変更しましたから。そもそもサッカーは紳士が行うスポーツですから、そこは各クラブの指導者の判断に任せています」
――アーセナルサッカースクール市川では、どうされているのでしょうか?
幸野「どうしても全員出せないケースもありますが、うちのチームは基本的に全員出場させています。確かにチーム内で力差があるからリーグ戦の最初の数ヶ月は負けることもしばしばです。でも、1年後には全員を出しても逆転できるレベルにまで引き上がっています。
なぜなら、週3回の練習の質が向上するからです。チーム内で下のレベルの子であっても『M-T-M』を繰り返すと必ず実力が向上します。そうすると、何が起きるのかといえば、これまでその子よりも上手な選手は簡単にプレーできていたのがうまくいかなくなります。そうなると、上にいた子がお尻を叩かれる形になるため、さらに上手になります。すると、必然的に練習全体の質が時間を追うごとに格段に上がっていくのです。
一方で、同じレベル差がずっと続いたまま練習をしていたチームは全体の練習の質が思うほど上がるわけもなく、この2つの間にあったチームの差はひっくり返るのです」
――チーム内で下のレベルの子がうまくなれば、必然的に全体のレベルは上がります。
幸野「上手い子が下手な子を簡単に交わしていてもさらなる実力アップは望めません。下手な子がどんどんうまくなるから練習のインテンシティが上がり、上手い子はさらに努力を求められる。目先の試合では勝利できても1年後はわからないし、私たちの目標は目先の勝利ではありません。
そもそもプロサッカー選手には2万人に一人しかなれないのです。つまり、Jクラブのアカデミーや強豪の町クラブに在籍していてもほとんどの選手はプロにはなれません。育成年代から選手たちを『勝ち負け』で評価していたら残りの19,999名の選手たちはサッカーを辞めるしか選択肢が残りません。
プロサッカー選手は育てるものではなく、生まれてくるものなのです。私たちは環境しか与えることしかできないのだから、すべての選手を幸せにすることが最善の育成なのではないでしょうか。私の目標は一生サッカーを辞めずに続けてもらうことなのです。
サッカーをやっていることの価値は、それを通じて豊かになることです。私も50年以上サッカーをプレーしていますが、仕事で嫌なことがあっても週末にサッカーがあればそれを忘れさせてくれるし、サッカーを続けていれば仲間ができていきます。それがサッカーの、スポーツのすばらしさです。
――私もサッカーを続けていますが、豊かさについては実感しています。
幸野「育成年代で全国大会につながるようなトーナメントを続けている限り、『勝てば天国、負ければ地獄』というようなスポーツの価値観を変えていくことはできません。育成年代のスポーツは見る側にスペクタクルは必要なく、プレーする側のためのものであるべきなのです。プロでもないのに何万人もの観客がお金を支払って見にくる。海外の指導者からすると信じられない光景です。
「あのスタンドにはユニホームを着ている人がたくさんいるが、あれは何だ?」
「あれは試合に出場できない選手たちだ」
「えっ?ざっと100人ぐらいはいるぞ」
「そう、試合登録から漏れた選手たちだ」
「どうして別のチームに行かないんだ?」
「…」
強豪校で試合に出られない環境よりも少しレベルを落としても試合に出た方が絶対に伸びる。でも、なぜか強豪校に行く選手が多いのは全国大会があるからです。そして、1チームの在籍数を20人ぐらいを当たり前として適正人数でトレーニングを行う環境づくりをしていないからです。
私もたくさんの海外の指導者をいろいろと案内しますが、プロでもない選手の試合に高いお金を支払って観客が入ること、そして適正人数で練習をしない環境については、彼らはみんな『信じられない』と言いますし、「どうやって育成するんだ?」と逆に質問を受けます。
これが日本の現実なのです」
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<プロフィール>
幸野健一 (サッカーコンサルタント アーセナルSS市川代表)
1961年9月25日生まれ。東京都出身、中大杉並高校、中央大学卒。10歳よりサッカーを始め、17歳のときにイングランドにサッカー留学。以後、東京都リーグなどで40年以上にわたり年間50試合、通算2000試合以上プレーし続けている。2014年にアーセナルサッカースクール市川の代表に就任。日本の子どもたちをアーセナル流の育成方法で育てている。
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