「走るのが苦手で辛かった」 日本代表・川島永嗣がゴールキーパーになるまで
2018年07月05日
コラム「レッズユースに来てくれ」
全国を狙うラストチャンスは、夏の高円宮杯全日本ユースU-15予選(県民総合体育大会予選)。相手は地元・三室中で、駒場スタジアムでのゲームだったが、スリッピーなピッチが災いし、相手のロングFKが川島の手前で微妙なバウンドになって、そのままゴールに飛びこんでしまった。与野西中は0-1でまさかの敗戦。中学最後の公式戦に敗れ、彼は初めて涙を見せた。
この光景を、柏監督は今も忘れることができないという。それでも、川島にはトレセンの活動が残されていた。夏休みにはドイツ・オランダ遠征に参加。ボルシア・ドルトムントU-15と練習試合をし、アヤックスやフェイエノールトのスタジアムを見る機会にも恵まれた。
「初めての欧州はメッチャ楽しくて帰りたくなかった。当時の県トレセンは『埼玉から世界に通用する選手を育てたい』という哲学があって、アヤックスの3-4-3をモデルに戦っていました。その高度な考え方のおかげで欧州に行かせてもらえた。自分にとってはホントにいい刺激になりました」と川島は海外志向を強めていく最高のきっかけを得た。
秋には県トレセンのGK練習会に参加。その一挙手一投足を目の当たりにした浦和レッズの横山謙三GM(当時)に高い評価を受け、ユースの練習参加の打診を直々に受けた。
「練習会には70~80人の選手がいたのですが、ウチの永嗣が模範演技をするのを見て、私たち親はホントにビックリしました。それをじっと見ていたのが横山さんでした。『セレクションは受けなくていいから、レッズユースに来てくれ』と言われたときには、てっきり行くんだと思っていました」と父・誠さんも言う通り、本人も最初は乗り気だった。だが、彼の中には「高校サッカー選手権に出てプロになる」という大きな夢があった。
「塀内夏子さんの漫画『オフサイド』を読み返して、やっぱり高校サッカーでやりたいという思いが強くなりました。そこで公立の強豪校だった浦和東に行くことにした。生徒と真摯に向き合ってくれるという意味で、野崎先生は柏先生と似たところがあった。そこにも惹かれました」と川島は本音を打ち明ける。
実は野崎監督は県トレセンでプレーする彼を何度も見ていて、中3の春から柏監督に「ウチに送ってほしい」と熱烈なオファーを出していた。野崎監督はかつて浦和南高校時代に選手権制覇を経験しているMFで、柏監督とは埼玉県選抜として一緒に国体を戦った仲。話はスムーズだった。けれども「川島ほど名の知れた選手はJクラブの下部組織に行くもんだ」という諦めに似た感情もどこかにあった。それが急転直下、本人が「来たい」と言ってくれたのだから、野崎監督も俄然、やる気が湧いてきたに違いない。
日本代表が史上初となるフランスワールドカップに出場した1998年春、川島は浦和東高校の門をくぐった。
プロフィール
川島永嗣(かわしま えいじ)
少年時代:与野八幡サッカースポーツ少年団
中学時代:与野西中学校
高校時代:浦和東高校
1983年3月20日生まれ、埼玉県出身。小学2年生から本格的にサッカーをはじめ、浦和東高校卒業後、大宮アルディージャに入団。名古屋グランパスエイト、川崎フロンターレを経て、2010年にベルギー1部リーグ・リールセSKへ移籍。その後、2012年、ベルギーの名門・スタンダール・リエージュに移籍。日本人GKとしては初のEL、CL予選出場を果たす。日本代表としては2010年W杯南アフリカ大会、2011年アジアカップ、2014年W杯ブラジル大会、2018年W杯ロシア大会に出場。現在はフランスのFCメスでプレーする。

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