「夏休みのうちにどれだけ心身ともに追い込めるかが大切だ」。日本の“夏トレーニング”に対する違和感
2018年07月19日
未分類夏のトレーニングどうすればいい?
一つ興味深い話をしたいと思います。ドイツのとある町にあるプロオーケストラで活躍する音楽家と一緒にご飯を食べる機会がありました。なかには日本人のプロ奏者もいたのですが、サッカー以上に音楽の世界では練習量絶対説が強いらしく、彼ら・彼女らは寸暇を惜しんで練習に励むと聞いたことがあります。でも、そんなに練習ばかりして大丈夫なのだろうか?そんな疑念を常日頃抱いていたので、彼らに尋ねてみたのです。
「日本だと、『一日練習を休むとそれ を取り戻すのに同じか倍の日数がかかる。だから、練習は絶対に欠かしてはならない』という不文律のようなものがありますよね。みなさんはどう思われますか?実際のところ、毎日練習していますか?」
彼らは即答しました。
「まさか。そんなわけないよ」
そこで質問を重ねてみました。
中野「サッカーでもそうなんですよ。僕自身の経験からも、監督も、選手も、しっかりと休みを取った方が練習も試合も間違いなく、いい感じでできるんです」
プロ奏者「その通りだね。休んだ方が断然調子がいい。体と心と頭を休ませて、気力がみなぎった状態で奏でた音こそが本物だからだ。毎日練習すると返って悪くなる」
そういうことなのです。ルーティンワークを持つことは大事です。そうすることで安心と安定を得ることができますから。だけど、そのためにルーティンワークをしなければ何もできないとなってしまうと、本末転倒です。
練習はもちろん大切ですが、体も頭も、そして心も休ませなければ強くはなりません。休みを上手にとることが身体的にも精神的にも成長するために 欠かせないのです。
日本でも「何とかそうした状況を変えたい」と思っている方も増えてきていますが、一気に変えようとすると前述したような形で猛反発にあってしまいます。
では、どうしたらいいのでしょう?
私は「完全休暇」という形より、練習時間を確保した上で、その時間内で子どもたちが負担にならないような練習メニューを取り入れるのが現状の最善策だと思います。夏休みの間は普段できないことをする時期として、みんなでプールに行くのもいいですし、ミニゲーム大会もいいですね。サッカー観戦に行くのも最高でしょうし、子どもたちがそれぞれトレーニングメニューを考案してやってみるのもおもしろい試みです。
「ドイツではこうだから日本もそうしなきゃいけない」。そういう図式は危険な考え方です。それは子どもだけではなく、親の置かれている環境も違うからです。「休みが大事だから夏休みは休みにします」と言っても、日本では親が休めないのが普通です。子どもを預かって面倒を見てくれる環境がありがたいし、お互いにストレスがないという家は多いはず。こうした日本社会の在り方を考えることも大切です。
もちろん、子どもだけではなく、親も指導者もちゃんと休みはとりましょう。自分が思っている以上に日本の生活は忙しいですから、たぶん日本人の感覚で「これは休みすぎかな?」という期間を休んでも、体も頭も心も実はまだ全然休み足らないくらいだと、私は思います。適度に休むことは無理して毎日コツコツやり続けるよりもよっぽど成長につながる。ドイツで生活しているとそういうことにたくさん出会います。

<プロフィール>
中野吉之伴(なかの きちのすけ)
指導者・ジャーナリスト。1977年、秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成年代指導のノウハウを学ぶためにドイツへ渡る。現地で2009年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)。2015年より帰国の際は全国各地でサッカー講習会を開催している。2017年10月よりWeb Magazine「中野吉之伴 子どもが育つ」の配信を開始
価格:1,320円(税込)
A5判/176ページ
2018年6月6日発売
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都倉賢(北海道コンサドーレ札幌)
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