町クラブの厳しい現状――。「コーチという生き方」のさまざまな問題点

2018年07月22日

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「少年サッカーコーチ」として生きていくには覚悟が必要です。低い収入、不安定な環境、そんななかで多くのコーチ陣は高い指導スキルを身につける前に挫折してしまう人もいます。前回に(「個人を大切にしてほしい」。元Jリーガーコーチに掛けた言葉の真意とは)引き続き、「町クラブの現状」について、ヴィヴァイオ船橋SCの代表を務める渡辺恭男さんの言葉に耳を傾けます。

再構成●ジュニサカ編集部 文●大泉実成 写真●ジュニサカ編集部、佐藤博之

【前編】「個人を大切にしてほしい」。元Jリーガーコーチに掛けた言葉の真意とは

『裸のJリーガー』より一部転載


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“教えてはいけない”指導方針の大転換

 前回に(「個人を大切にしてほしい」。元Jリーガーコーチに掛けた言葉の真意とは)引き続き、ヴィヴァイオ船橋SCの代表を務める渡辺恭男さんからお話を聞く。
 
 渡辺恭男さんは千葉県船橋市にあるサッカークラブ「ヴィヴァイオ船橋SC」の代表である。いわゆる町の少年サッカークラブを運営し、16年間心血を注いで子どもにサッカーを教えてきた渡辺さんからは、元Jリーガーのコーチがどう見えるのか。

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――ひょっとして、元Jリーガーが一度コーチになってしまうと、どんなに未熟でも、周りはチェックもせずに何年も放置してしまうということが起きているのでは?

渡辺「コーチを教えていくような存在はいないです。サッカーコーチとしてあと何十年も生きていくんだったら、絶対こういう力が必要だよ、ということを、伝える人間がまずいない。

 自分の思い込みでやっていて、僕から見たら明らかに『この指導はまずいな』ということでも、チェックする人間がいないから誰からも教えられない。ぬるま湯みたいな状態で漫然と続けるか、あるいは『俺は一生懸命にやってんのに、何でこいつらできないんだろう』と考えるようになって、結局は子どものせいにする。昔の僕がそうでしたから。
 
 するとどうなるか。

 ポンと現場に出たら、目の前には子どもがいる。子どもの後ろには親がいて、自分の後ろには自分を雇っている人間がいる。いろんな目を気にしながら、日々を過ごしていくことになります。

 で、大会があります。負ければ当然、批判を受けます。ですから、負けられない。なのでより速くて強い子を試合に出すようになる。でもそれでは、ボールが持てる技術や、自分で判断する能力が育たないんですよ。で『こんなに武器がない子はユースに上がれないじゃん』ということになってしまう。

 そうすると、育てているコーチ自身も『こいつダメだな』と評価されるようになって、育成の現場を外されてしまう。これが本当の現実だと思います。もちろん、全部が全部とは言いませんけど。

――渡辺さんご自身が「自分の戦術を押し付けるのではなく、一人一人がボールを持てて、自分で判断できる選手を育てよう」と方針転換なさったとき、具体的に指導法をどのように変えていかれたんですか。

渡辺「要するにそれまでは『指導』してたんですよ。だから子どもたちは『指示待ち』なんです。渡辺コーチが来て、渡辺コーチが指示したら動く。ところが指導法を変えてから、僕がちょっと遅れても、ガンガン練習している。

 これが決定的に違うところで、多分こういう方法はJリーグを引退してきたばかりのコーチにはできないと思う。なぜなら彼らも自分が『教わって』きているからなんですよ。

――なるほど。

渡辺「僕はたまたま気がついただけなんで、あんまり偉そうには言えないですけど、それが関西から学んだ一番大きな点です。選手自らが自分のためにやるという環境は、日本では非常に少ないと思うんです」。

――方針転換のときに子どもたちに一番初めにかけた言葉は?

渡辺「まず、謝ったんですよ」。

――おお、ドラマみてえ。

渡辺「今までは、教えていたけど、教えられて上に行くやつなんていない。自ら成長していかなきゃダメなんだ。だからやりかたを変えて、これからそういう環境を作るからって」。

――関西ショックというか『教えられて上に行くやつなんていない』という認識が強烈だったんですね。

渡辺「関西のチームは、コーチがほとんど指示しないんです。でも選手がみんな動く。それに衝撃を受けたんです。それまでは選手のせいにしてたんですよ。やらないとかできないとか。でも、それはやるような環境を大人が用意してなかっただけの話なんです」。

――そんなに違うんですか。

渡辺「たとえば合同練習するじゃないですか。『先頭8列』というと8人並ぼうとしますよね。ところが10人とか12人とかになるときがある。僕はもともと体育の教員でしたから『おい、多いよ』と言って全部指示を出していたわけです。

 ところが関西のスタッフは、二人でぽーっとベンチに並んでるだけなんです。で、何が始まるのかと思うと、選手が先頭 8人並んでいる。コーチから『7人』とか『6人』とか声がかかると、選手同士が『おい動けよ』と言い合って、あっという間に並ぶんです。それを見たときに、まずここが違うと思いましたね。先頭8人並ぶなんて、何より単純なことじゃないですか」。

――自分たちで考えてやってるんですね、関西の選手たちは。

渡辺「そう。それが全部の練習でそうなんです。たとえば、あるトレーニング終わって『今から水入れるぞ。次の練習はこうだ。で、何分後にやる?』とコーチが聞くんです。『7分?、7分はちと長いな。なに、5分、ええなあ。じゃあ 5分後な』。で、スタッフはテントの中で座ってお茶飲んでるんですよ。

 ところが 5分たっても次の練習に取り掛かっていないとすると、『じゃ、集まろかー。いや、お前ら5分て約束したやないかー』。自分たちでやると言っていて、できてないということは『じゃ、走ろか』となる。
 
 これが昔の僕らなら、時計見て『おい、もう5分になるぞ、何やってんだ』とやらせてますよ。これと、自分たちで決めて、約束してやるというのはぜんぜん違いますよね。僕にはこの感覚がまったくなかったんですよ。

 だからそれまでうちの子達は、怒られないようにやる、だったんです。それが方針を変えてから『自分たちで決めてやる』に変わったわけです。そうすると何が起こるかというと、子どもたちはどんどん大人になっていくんです。

――言われるのを待っているだけじゃなくて、自分たちから動くようになっていく。

渡辺「しかもリーダーだけじゃダメなんです。みんなで動かないと絶対できないようなシステムになっているんです。いいかげんなやつが出てこないんですよ。一人だけボールけっいるやつとか。みんなでやらないと約束が守れないから。で、今うちはそういうふうにしてるんです」。

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