目に見える結果だけを求めても「本当に勝ちたいとき」に勝てる選手は育たない【サッカー外から学ぶ】

2018年12月27日

コラム

「褒めて伸ばす」神話の嘘

「褒めるというのはむずかしいんですよ」

 1位になったことを褒めない理由についてはすでに説明したが、近年、日本中に蔓延する「褒めて育てる」子育て方についても、注意が必要だと橋井さんは指摘する。

「褒めて伸ばすというと聞こえは良いのですが、心から共感して添えた言葉と、評価目線で添えた言葉では受け取られ方が全く違います。先ほどの徒競走の話ではないですが、褒められるために結果だけを求めるようになったり、褒められることに満足してしまったりするのは子どもの成長を阻害する要因になります。裏を返せば、褒められないとイヤだから、褒められるために挑戦性の低いことばかりやるようになったり、失敗する可能性があるものを排除するようになる。褒められることが目的化してしまうわけです」

 “子育ての心理学”として知られるアドラー心理学では、叱ることの弊害と同じように、褒めることの弊害を唱えている。アルフレッド・アドラーはただ「勇気づける」ことだけが子どもたちを伸ばす方法だと言っている。

「子どもたちのアクションに対して共感してあげる。何かを言葉を添えてあげることを褒めるというならそれはぜひやって欲しいのですが、いまみなさんが頭に思い浮かべている褒め方というのは少し違うような気がしますね」

 競争心を高めるつもりで結果を褒めると“いびつな競争心”が生まれ、褒められることが目的化すると伸ばすどころか成長の妨げになる。橋井さんは、「周囲の大人が表面的な言葉がけや自分たちの行動で子どもを変えられる、成長させてあげられるという“過信”をなくすべき」と結論づける。

「子どもたちを成長させる言葉がけとか、伸ばす言葉についてよく質問を受けますが、大人の言葉がけだけで子どもの成長を期待したり、逆に心配したりすることが間違っていると思います。言葉より子どものすることに興味を持ってあげたり同じ目線に立って物事を見てあげたり、見たものに、触れたものに共感してあげたることの方がよほど大切です。子どもたちに必要なのは次の発見のチャンスを与えるような援助なんです。分かりやすくいえば、自分とは『別人格』と認めてあげることです。そう認めてあげれば評価的な言葉や働きかけは出てきません」

 子どもの成長に欠かせない内発的動機は、子どもの内側から生まれるものだ。言葉がけで「どうにかしよう」と思っているうちは、子どもの中から意欲が湧いてくることはない。

「承認欲求を受け止めてあげることは大切です。子どもが褒めて欲しそうにアピールしてきたらたくさん褒めてあげた方がいい。でも、こちらからドライブをかけて褒めるのはまさに外発的動機づけになってしまいます。内発的動機を生む内発性というのは、熾火のようなもの。燃え上がるまで辛抱強く待つしかないけど、いざ燃え始めたらその火はなかなか消えません。心の内側から熱くなれる子だけが、将来に渡って、つまずいても自力で這い上がれる力を育むことができるんです」

 勝利か? 育成か?はやはり二元論にあらず。本能的に競争心を持っている子どもたちに大人から過剰に働きかける必要はないし、子どもたちから自然に湧き上がる勝ちたい気持ちをあえて押しつける必要もない。勝利至上主義を植え付けなくても子どもたちは勝ちにこだわりながら成長する方法を自分で見つけられる。

「椅子取りゲームなんかをやると、音楽が止まる前に椅子に手をかけながら回ってる子どもとか出てくるんですよ。それを『ズルい』と言ってしまうのは簡単ですが、子どもたちは反則ギリギリがどこか探りながらやっているんです。この先生だったらここまで許されるかな? とかそういう工夫がものすごく面白い。ゲームに勝つことを目標として強く意識させなくても、子どもにはこういう一面がある。だから無理に競争をうながす必要もないし、勝ちにこだわることを教え込む必要もない。反対にあれもダメこれもダメという必要もない。子どもの中から出てくる自然な感情を大切にしてあげるようにすればいいんです」

 スポーツ指導はティーチ(教える)ではなく、コーチ(馬車を語源とし、ゴールまで連れていてくれることを指す)と言われるが、これもまた二元論ではなく、何を教え、何を引き出し、どこに連れて行くのか? が問われる。サッカーの指導も子どもたちに相対する以上、技術や知識だけではなく、どういうアプローチで、何を目標に関わっていくのかが問われている。

【連載】「サッカーを“サッカー外”から学ぶ重要性」


<プロフィール>
橋井 健司(はしい けんじ)

保育士・研修指導講師。静岡県出身。1993年から2006年まで外資系企業でオーガナイザーとして活動。2007年1月、新教育デザイニング株式会社設立し、同年3月には幼児園First Classroom世田谷を開園。異年齢教育を特徴とした独自のカリキュラムに基づく保育を実践し、2019年4月には世田谷・梅ヶ丘に新園を増設し、大阪府での開園も計画している。著書に「世界基準の幼稚園 6歳までにリーダーシップは磨かれる」がある。


 

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