目に見える結果だけを求めても「本当に勝ちたいとき」に勝てる選手は育たない【サッカー外から学ぶ】
2018年12月27日
コラム昨今スポーツ界で話題になる体罰や暴力の問題はなぜ起こるのか。その原因は、歪んだ「勝利至上主義」によるところが大きい。大人が勝利というわかりやすい「結果」にしか目がいかず、子どもたちに成長を求める。確かに競争を勝ち抜くには厳しさも必要だ。しかし、人間は本能的に競争心を持ち「勝利」を求めるものだと「世界基準の幼稚園 6歳までにリーダーシップは磨かれる」の著者である橋井健司氏は指摘する。「勝利か育成か」の二元論で終わらせず、なぜ育成において「勝利」や「競争」について語る必要があるのか。橋井さんの言葉から改めて考えていきたい。
文●大塚一樹 写真●Getty Images、佐藤博之
【第2回】日本の子どもたちに必要なものは「余白」であることを大人たちはわかっているようでわかっていない
勝ちたい気持ちも仲良くしたい気持ちも本能的なもの
前回、子どもが自分で自分を伸ばす方法として橋井さんが示してくれたのは、「鬼ごっこ」の例だった。大人がルールを決めなくても、子どもたちは自分たちで勝手に「公平になるように」どんどん工夫していく。子どもたちにとって「一人勝ち」の状態は遊びとしての楽しさをうばってしまうもの。だから、自然と公平さに傾く。
そこで思い浮かんだのが、サッカーだけでなく多くのスポーツの育成年代で問題になっている、勝利至上主義の弊害だ。
「子どもたちには勝ちたい! という気持ちとみんなと仲良くしたい気持ち、その二つがあるように見えますね。幼稚園児といえども『人より優れたい』という気持ちは出てきます。でもその一方で、自分だけずっと勝っているというのも実はあまり楽しくない。負けている子がその遊びを『つまらない』と離れていってしまえば一緒に遊ぶ仲間もいなくなる。だから子どもたち同士でルールやメンバーを変えたりしながらレベル調整をするんです」
橋井さんは、勝ちたい気持ちと仲良くしたい気持ち、そのどちらも人間に備わった「本能のようなもの」だと指摘する。
「圧倒的に勝っても楽しめない。実力が拮抗している方が楽しいというのもありますよね。もし、圧倒的に一人勝ちして、自分だけがずっと勝ち続けたいという子どもがいたら、それはその子の自然な感情、人間が本来持っているものではなくて、“何か”や“誰か”の意図が作用していると考えた方がいいでしょう」
スポーツ界でも勝つこと“だけ”を目標とする勝利至上主義に対する批判が集まっている。今年大きな話題になった日大アメフト部の危険タックル指示問題は、元を正せば勝利のための自己犠牲、勝たせてくれる監督に絶対的な権力が集中したことにその主因がある。野球界に蔓延る甲子園至上主義による選手の疲弊、故障の問題、ジュニアサッカーの現場で指導者間でも議論の的になる「育成か? 勝利か?」という命題を解くヒントが、子どもたちの心の中にあるのかもしれない。
「勝つことにこだわるのは人間の本能であり、誰にでもあります。人生においても自然なことだと思います。子どもたちに勝利を意識させようとすること自体が方法として違うのではないでしょうか。幼稚園は言うまでもありませんが、小学生年代でも、その部分をことさら強調する必要はまったくないと思います」
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