ディフェンスで見るべきは「味方の位置」。ジュニア年代における「正しいポジショニング」の指導法
2019年04月05日
育成/環境Jリーグで監督として数々のチームを指揮し、守備組織の理論と構築のスペシャリストである松田浩氏(日本サッカー協会技術委員)が語る守備のメソッド。『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』より一部抜粋して紹介します。
(文●松田浩/鈴木康浩 写真●編集部)
『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』より一部転載
※この記事は2015年12月17日に掲載した記事を加筆・再編集したものです。
日本のトレセンでゾーンディフェンスは教えられている
戦術的な柔軟性を獲得するという意味では、ある程度の年齢に達した育成年代からしっかり戦術を学んでいくことも重要なのではないだろうか。
以前、千葉県の佐倉にあるイタリアのACミランのスクールを訪ねたことがある。イタリアのU−15世代以下の指導を中心にしていたというイタリア人指導者は「イタリアでは10歳頃から2対2からスタートして戦術の指導を始めます。その年齢の頃から子どもは空間認知ができるようになるので」と話していた。一方、日本U−12世代では、ドリブル力を身につけさせるような、子ども個人にフォーカスした指導が圧倒的に多い。日本はどの段階から戦術指導をスタートさせるべきだろうか。
これは僕自身、日本サッカー協会に入るまでは知りませんでしたが、日本のU−12世代のトレセンでは、守備のトレーニングのなかで『ボールを奪う』ことを十分に取り組んでいるんです。それは間違いなく『ゾーンディフェンス』です。言葉でこそそう表現しませんが、僕にはまったく違和感がありません。
たとえば、2対2のトレーニングのなかでチャレンジカバーをしっかりこなすように促すときに、ボールを中心にしながら味方の位置で守備ポジションが決まる、この概念をしっかりと指導しています。『こうなったときに味方が縦に抜かれたら、カバーをする守備はどこにいればいい?』というように子どもに問いかけながら正しい守備のポジショニングを導いていく指導を行っています。
ドリブルを教え込むのはせいぜい10歳くらいまで。日本のトレセンでは12歳頃からしっかりゾーンディフェンスに取り組んでいるので、トレセンに参加した子どもたちが所属するそれぞれのクラブでも日々ゾーンディフェンスに取り組めるだけの素地はあるのだと思います。
『ボールを奪う』ことを強調してしまうのは是か否か
ただ、同時に注意しなければいけないと感じるのは、草の根の指導者たちが13歳頃からゾーンディフェンスを“配置ありき”で教えてしまっている節があることです。そうすると子どもは守備ポジションの配置ばかりに気がいってしまい、肝心の“ボールを取りに行く”というアクションをしなくなってしまうのです。ボールホルダーを前に、その3メートル手前でペタっと足を止めてしまう。すると、すごく消極的なディフェンスになってしまうし、ボールが奪えません。
そういう状況を作り出してしまうと、子ども自身が、ボールを持っている相手との間合い、これだけ寄せると交わされてしまう、このくらいのアプローチをすればジャストでボールを奪える、といった個人でボールを奪い切るときの守備の肌感覚が身につかないままに育ってしまう状況に陥るので好ましくありません。
日本サッカー協会ではこの弊害をなくそうと必死になっているのも事実で、子どもにゾーンディフェンスを教えるときは、『ボールを奪う』ことをかなり強調して伝えています。そして、子どもが『ボールを奪う』ときのトライ&エラーを通して身体で身につけていくように促しているのです。
まずはボールに行かせるように仕向けながら、『いまのは相手との距離が遠すぎたよね?』『そこまで飛び込んでしまうと相手に交わされてしまうよね?』『飛び込んで交わされることがわかっているなら、自分が相手のパスコースを限定してあげることで、後ろで狙う味方の選手がインターセプトできるよね?』といった声掛けをしながら考えさせ、最終的には自分で判断できるようにしています。
守備ポジションをとるときの判断の拠りどころは『味方の位置』
良い守備のポジションをとってからボールを奪いに行くことができれば、自ずとボールは奪いやすいので、日本サッカー協会の指導者はまず良い守備のポジションを取らせる指導を行います。
『ボールの位置、味方の位置、そして最後には相手の位置を見ながら』というアナウンスで守備ポジションの取り方を教えつつ、ボールを奪えるチャンスを逃さないこと、そしてボールへのアプローチもしっかりと促しています。
ただ、僕個人としては、グループとして守備のポジションを取るときの判断の拠りどころは、『味方の位置』が大事であることを強調して全国に広めたい気持ちがあります。
かなり端的に言ってしまえば、グループで組織立った守備をするためのゾーンディフェンスとは、『守備のポジションは味方の位置で決まる』としても問題はないからです。そして、『相手の位置で守備のポジションが決まる』のがマンツーマンディフェンス。
これらを併せて育成年代の子どもたちにしっかりと根付かせることができればベストだと思います。
さきほど、配置だけに拘る誤ったゾーンディフェンスを教えている指導者がいることについて言及しました。
“選手の配置に拘りすぎて、ボールホルダーへの守備が緩くなってしまう”状況が生じてしまっているわけですが、ただ一方では、自分たちの守備網に穴を開けないために、選手たち同士の距離感、つまり、配置そのものが重要になる局面は試合中にいくらでもあります。
本当に強い相手に押し込まれても、しっかりとリトリートして守り切れる戦いぶりも試合に勝つためには必ず必要でしょう。それを13歳頃から教え込むのはやはり違うと思いますが、一定の年齢を過ぎた頃からはしっかり押さえておかないといけない戦い方だとは思います。
しっかり守り切れる守備網があると、一方の、攻める側は、リトリートして引き籠った相手の守備をどう崩すかを考えないといけない状況に直面します。さらに、自分たちが攻めに攻めているときのカウンターのリスクもしっかり念頭に置きながら崩せるようにならないといけなくなります。
そういう作業を、然るべき育成年代の年齢から繰り返すからこそ、やがて戦術的に幅のある、柔軟な考え方ができる選手が出てくるのです。決してベンチからの指示ではなく、選手自らが『ここは左右に広く使って相手を揺さぶるぞ』などとピッチで起きている現象を自発的に考えられる選手がどんどん出てくるということです。
著者プロフィール
松田浩(まつだ・ひろし)
1960年9月2日生まれ、長崎県長崎市出身。Jリーグでは、栃木SCなど数々のチームを指揮。日本サッカー協会の技術委員および指導者養成インストラクターを務めた後、2018年よりV・ファーレン長崎の育成部長を務める。守備の文化が浸透していないと言われる日本サッカー界において確固たる守備戦術を駆使できる希少な指導者として知られる。
鈴木康浩(すずき・やすひろ)
1978年11月5日生まれ、栃木県宇都宮市出身。法政大学卒業後、作家事務所を経て独立。『フットボール批評』『フットボールサミット』『エルゴラッソ』などに寄稿。
【商品名】サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論
【著者】松田浩/鈴木康浩
【発行】株式会社カンゼン
【判型】A5判/300ページ
【発売】2015年12月17日発売
日本サッカー協会技術委員を務めた、ゾーンディフェンスのパイオニアが正真正銘の守備メソッドを記した「超ゾーンディフェンス論」。日本に足りない守備の哲学と基本理解。守備の戦術とセオリーを知れば、日本は世界で戦える。
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