お気づきだろうか?「自分で考えろ!」という言葉が持つ”自己矛盾”に【サッカー外から学ぶ】
2019年04月25日
育成/環境
【ビジネスコンサルタントの細谷功氏】
「昔はそれで良かった」を踏まえて、前に踏み出すために
これまでの子どもたちはIQ、テストの点数や偏差値という指標が示され、その中で結果を出せば良かった。しかし、その指標が「生き抜く強さ」を養ったり、「自分で考えて臨機応変に対応する能力」を育むわけではないことは誰の目にも明らかだ。
サッカーでも、ボール保持率という指標が出てくると、なるほどボール保持率を高く保とうとするチームは増えた。しかし、ボール保持率がサッカーのゲームとしての第一目標であるゴールや勝利に直結するのかという検証が行われることはなく、ボール保持率を高めポゼッションサッカーをするということが目的になってしまった面も否めない。
「自分たちのサッカーができれば試合に負けてもいい」は、育成年代の“美談”になりがちだが、サッカーというゲームの目的を考えれば、これもまた自己矛盾に満ちた発言になってしまう。
ご承知の通り、サッカーはとても数値化が難しいスポーツなので、勝つために何をすればいいか? という指標づくりはとても難しい。しかし、世界を変えるような監督、たとえばここ10年でサッカーに新たな価値観を持ち込んだと言われるグアルディオラは、たしかに「ポジショナルプレー」を実現するための独自の指標を自らつくり出している。
一方、日本では、指標を考えるという発想がほとんどないままに、相変わらず与えられた指標だけにフォーカスして、その指標の数値を上げようと努力しているきらいがある。手段が目的化してしまうのはおそらくこのためだ。
「与えられた指標を高めれば良かった時代は極端に言えば、ロボットで良かったんですよ。基準があるからその通り動いてくれる方が都合が良いし、実際に結果も出ていた。サッカーもおそらくある程度のところまでなら、選手をロボットにして言うことを聞かせた方が結果を出しやすいんじゃないでしょうか?
でもそこから上に行くためには、スペインなどのサッカー強国がつくった指標や、スタイルを真似しているだけはダメだと思います。与えられた指標で戦っているうちはイノベーションは起きないし、『自分の頭で考えろ』という外からのアプローチを続けていては、イノベーター、ゲームチェンジャーは出てきませんよね」
子どもたちに「自分の頭で考えろ」と言う前に、大人は「自分の頭で考えて」いるのか? 選手の評価、試合の評価に用いている指標は、本当に目的に適っているのか? いま試合に勝てているからといって、本当にこのままのアプローチを続けていいのか? 「具体」と「抽象」の概念を踏まえ、自分の持つ自己矛盾に気がつくトレーニングを始めるだけでも、子どもたちへの言葉や声がけ、接し方が変わってくるはずだ。
次回は、「自己矛盾」についての話をもう少し掘り下げつつ、サッカー界に起きがちな衝突、断絶の構図を考える。
細谷功(ほそや・いさお)
ビジネスコンサルタント。コンサルティング会社にて業務改革等を担う。近年は国内外で企業や各種団体、大学等に対してセミナーや講演を実施。主な著書に『具体と抽象 ―世界が変わって見える知性のしくみ』、『「無理」の構造 ―この世の理不尽さを可視化する』、『自己矛盾劇場 ―「知ってる・見えてる・正しいつもり」を考察する』などがある。
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