頭が変わればすべてが変わる。“GKを準備できる”指導者の心得【GKを準備する】

2019年06月28日

メンタル/教育

  
クルトワ GK
【レアル・マドリーのティボ・クルトワ】

なぜクルトワは「ありえない」のか?

――え。なぜでしょう?

 すべて私のゴールキーパーに必要な技術からくる基準になりますが、まず、(前に)出るタイミングを知らない。身長が2m近くあるのにハイボールに出ていけない。1対1の状況でボールにアタックできない。キャッチングは両手で弾いてしまう。

 私の考えでは両手でボールにいっていいのはキャッチができるときだけです。運動力学的に両手を伸ばし切ってしまうよりも、肩を動かせる分だけ片手のほうがより遠くに手を出せて距離を伸ばせますよね? ということは、動作の流れとして両手でキャッチにいくけど、キャッチできそうにないから片手で弾く、という流れになるはずなんです。

 なのに両手でボールを弾いてしまうゴールキーパーがとても多い。それでも弾いたら周りは「ナイスセーブ!」という評価をします。

 彼は確かにアスリートとしての能力は高いでしょう。でもそれだけです。それだけでプレーしている。ただ勘違いしないでほしいのは、それは否定しているわけではないんです。

 過去にも偉大なゴールキーパーはたくさんいました。しかし彼らも完璧な技術やポジショニングという視点では足りないことがあります。

 「もっとポジショニングが良かったら…」「もっと正しい技術を発揮できていたら…」さらに長く現役を続けられていた可能性もあったのでは? と、考えてしまいます。つまり能力でプレーしている場合、“今は手が届くボール”でも時間とともに“手が届かなくなっていく”ことが起こるのです。

 話を戻しますが、明日急に彼が子どもを教えられるかどうか考えてみてください。

 もしクルトワ選手が正しいハイボールの処理方法を教えられるほどゴールキーパーのプレーを知っているなら、自らのプレーに反映されているはずなんです。自分が今できないことをどうやって子どもに教えますか?

――たしかに。

 キーパーコーチはトレーニングの時間が少なくてもお金を稼ぐことができます。しかも、キーパーコーチはチームの中で一切責任がないんです。なぜなら勝敗の責任を負わなければならないのは監督だからです。

 ただ、このあたりの話はいつも議論になるのですが、監督がキーパーのことを“知らなすぎる”んです。監督の無知ゆえにキーパーがある意味守られている状況にあるんです。つまり、キーパーが守られているということはキーパーコーチも守られているということです。

 私は、優秀なキーパーコーチほどチーム内で最も仕事を抱えている人間だと思っています。技術、戦術、フィジカル、すべてを教えなければいけないからです。そのためには、時間を気にせず、労を惜しまず、ゴールキーパーが成長、発展していくために行動しなければなりません。

 でも社会的な認知度は皆無でしょう。キーパーは有名になるかもしれませんが、キーパーコーチはまったく有名にはなりません。それでも、キーパーコーチは守備のオーガナイズも考えなければならないので、最もチームの助けとなっているはずなんです。

 つまり、キーパーコーチになりたい人は一定数いても、彼らが求めているキーパーコーチの理想像は私の考えるキーパーコーチの理想像とは真逆なんです。

 指導者講習会で、私が「キーパーはこのようにトレーニングをしなければならない」と話すと「いや、あなたの理論は本当に素晴らしい。まさにそのとおりやっていけばキーパーは良くなるよね」とみんな言います。これはスペインでも日本でも同じです。

 その言葉に私が「じゃあそのままやってみてください」と返すと「できない。仕事量が多すぎる」と言うんです。だから、キーパーは技術的に同じミスをずっと繰り返し続けているんです。これは誰の責任になりますか。

 日本人GKの多くが、ゴールにへばりついて高いポジションを取れません。それは頭を越されたら怖いからですが、逆にいうといまだに後ろへの下がり方をわかっていないからです。それはなぜでしょうか? 要するに“誰からも”教えてもらっていないということになります。

 もしも、いつか監督たちがキーパーとは何かを知る日が来るとします。もしその日が来たら今いるキーパーコーチ全員死亡です(笑)。ミスに突っ込まれすぎて「お前の仕事は何だ?」「どうしてキーパーコーチとしてゴールキーパーに必要な技術を改善できないのか?」となるからです。

 例えば、監督がキーパーコーチに「今のゴールはなぜ入った?」と、聞いたときにキーパーコーチが「今のは多分DFが死角になって見えなかった」とか「風が吹いた」なんて言った瞬間、そのキーパーコーチはアウトです。

 そういったゴールキーパーの世界を大きく変える第一歩は監督たちがゴールキーパーについてよく知ることからはじまります。

 なぜか? もうみなさんわかっていますよね? ゴールキーパーとはそういうポジションではないからです。「ゴールキーパーを準備する人」は、失点シーンでキーパーの対応にミスがなかったかを常に模索しているはずなんです。そして、ミスが起きてしまった場合、その原因をキーパーではなく自身にあることを自覚しています。

 キーパーのことをわかっている監督に「今日はなぜこの練習したの?」と聞かれ、キーパーコーチが「クロスボールの練習したかったから」なんて言ったら「それ、YouTubeで見た練習でしょ?」と言われてアウトなんです。キーパーのことを知っている監督はどのような要素、考えがクロスボールの対処に必要かを知っているためです。なぜその練習がこのキーパーに必要なのかを監督が理解する。こうなったらキーパーを取り巻く世界は大きく変わるでしょう。

 20代後半の選手に、キャッチの仕方から教えなければならない。代表クラスの選手にポジションの取り方を教えなければならない。キャッチの仕方を知らなくてもボールがまったく取れていないという訳ではないのですが、正しいキャッチの仕方ができていないと、時々キャッチできないということが起こります。そうなるとゴールキーパーの頭の中では「今日はグローブが滑るな」とか「今日は調子が悪い」になってしまうんです。本当はグローブや調子の問題ではない。

 ただ勘違いはしないでください。日本人のキーパーはダメなのかと言ったら、絶対にそんなことはない。

 なぜ私が日本で活動しているのか。それは、日本人のみなさんは教えられることに対してリスペクトの気持ちがものすごく強いから。日本人指導者たちの、私のメソッドに対する確信や想い、そしてやりきる力はものすごい。

 私が言っていることが「素晴らしい」とか「正しい」ということではなく、私は今までやってきたことをすべて日本語にするつもりです。本当に私のメソッドがいいかどうかは日本人の方々が選んでください。それができる状態になるまで私は死ねません。


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