FCトリアネーロ町田がイタリア遠征で受けた“衝撃”と確かな“手応え”

2019年07月15日

ジュニアサッカーニュース
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FCトリアネーロ町田は昨年末の『第1回MIZUNO U10フットボール日本大会』を制し、今年の4月19~22日にかけてイタリアで行われた『ユニバーサル・ユース・カップ』に日本代表として参加した。世界の強豪チームが集結した国際大会での結果は全64チーム中33位に終わったとはいえ、順位だけでは計り知れない“日本ではありえない数々の衝撃”があった。トリアネーロの5年生チームを率いた若山聖祐監督(34)の述懐から、リアルなイタリア遠征記を全2回に渡ってお届けする。

取材・文●石沢鉄平 写真●FCトリアネーロ町田提供


 
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初戦のフィオレンティーナが与えた衝撃
  
 予選リーグの初戦にはいきなり地元イタリアの強豪フィオレンティーナが待ち構えていた。つまり、初戦がコロンビア代表だったロシアW杯の日本代表と似通った、初戦がすべて…というシチュエーションとなった。早くも1位トーナメント進出がかかる天王山は、FCトリアネーロ町田にとって濃密な一戦となる。
 
 先にスコアを記すと2-3…早くも1位トーナメント進出が遠のいてしまう。2-3の字面だけを見れば惜敗と想像したくなるが、現実はまるで異なるものだった。若山監督が初戦を振り返る。
 
「カルチャーショックでしたね。10回やって8、9回負ける感覚。よく2-3までもっていったな、と。たしかに2-2に追いついて、かなり追い詰めて…120%は出しているんです。3点目は前がかりのところをスーパーカウンターでスコーンとやられました。あのカウンターはスピードがまったく落ちませんでした。ボールを奪ったときのスイッチがまあケタ違いだな、と感じましたね」
 
 その熱を帯びた口調からも、それこそ“ロストフの14秒”を想起させるような高速カウンターだったことがヒシヒシと伝わってくる。若山監督を驚かせたのはカウンターの速さだけではもちろんない。大会前に現地で海外チームとテストマッチが組めず、基準がつかめなかった誤算はあったにせよ、強度の高い守備にも面を食らったようだ。
 
「ウチの選手はドリブルではがしてしまえば日本ではそうそう追いつかれないんですけど、100%追いつかれていました。交わしたと思っても足が伸びてきたり、アタッカー陣が対応できなかったことにまず驚きました」
 
 さらに、類まれな決定力をまざまざと見せつけられる。それも、2点を決められた相手FWとの1対1の局面ではトリアネーロのCBがほぼ抑えていたにもかかわらず、だ。ゆえに若山監督に与えた衝撃度はハンパではない。寄せ切る前に打ち切る技術と判断もさすがだったというが、相手の表情から埋めようのないメンタリティーの差を感じたという。
 
「1点目を決めた選手が僕の目の前を通ったんですけど、“ラッキー”って顔をしていたんですよ(笑)。あ、これは決められちゃうな、ってゾクッとしちゃったんですけど。ウチの選手を見ているとチャンスを決めなきゃって顔をしていた。向こうはミスを恐れていないんですよ。日本人はどうしても大事にっていう気持ちが体を硬直させてしまって技術を出し切れない部分があると思います」
 
 若山監督自らスマホで撮影した試合後のロッカールームの動画を見せてもらうと、まさに嗚咽の2文字がしっくりくるような泣きじゃくる選手たちの姿があった。「こんなに泣いているのを初めて見ました。放心状態です(笑)。ここまでのパフォーマンスをしたら日本ではそう負けないですよ。実力的にもホントに負けたなって思ったのは久々だったんじゃないかな」
 
 涙を枯らすまで泣きに泣いたトリアネーロは、次のエピナイ(フランス)戦に2位トーナメント進出の望みをかけることになった。
  

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沈みかけたモチベーションが「チェルシー」で復活
  
 エピナイ戦はフィオレンティーナ戦に比べてボールを握る時間が増えた。しかし、今度は「日本に戻ってきてから同じ学年とやるとかわいく感じてしまう」ほどのフィジカルの差に苦戦し、1-2で連敗を喫してしまう。2位トーナメント進出の可能性も露と消え、選手の気持ちが“イタリア観光”に移っても仕方がない状況に陥ってしまった、と思いきや…。そこは34歳ですでに15年の指導歴がある若山監督、手綱さばきはさすがだった。この日の夜のミーティングで選手にこう問いかけたという。
 
「『イタリアで何を学んで帰るのか、このままじゃ帰れないよ』って。実は他の試合をチェックしていたらチェルシー(の結果)が怪しい、と。『いいチームが数多く参加していて、絶対いいチームでもコケるから』と、大会前から話していたんです。『そうすればビッグクラブとできる』って」
 
 もしかしたらチェルシーとやれるかも…。“観光”の魔の手に乗ることなどなく、予選リーグ3戦目のルガーノ(スイス)を2-0で撃破してみせた。若山監督の読みどおり、3位トーナメントの出場チームにはチェルシー、さらには育成に定評があるイタリアのエンポリの名があった。「これでさらにグッとモチベーションが上がりました。『こことやるために来たんだぞ』って。だから、3位トーナメントの1、2回戦もメチャメチャ、モチベーションが高かったので、維持がしっかりとできましたよね」
 
 大会最終日にチェルシーとの対戦が決まった昼食時のエピソードがふるっている。宿泊先のホテルのレストランでピアニストが演奏を始めた途端、一般客が静かにランチを楽しむなか、選手が堰を切ったように踊りだした。これには地元のイタリア人も苦笑いするしかなかった。シャイな日本人とは程遠いエモーショナルな行動には拍手を送りたい。もちろん、“あのチェルシーとやれるんだ”といううれしさが、選手をダンスに駆り立てた最大の要因に違いない。
 
 さて、3位トーナメントに話を戻そう。スッドチロル(イタリア)に4-0、続くアルトパッショ(イタリア)に6-0、コモ(イタリア)に4-1と、いよいよトリアネーロの攻守が躍動する。このスコアからさすがに相手の格が落ちたのかと思いきや、「そんなことはなくて、特にコモはエンポリを倒しているんです。たしかに1試合目と2試合目の相手はフィオレンティーナと比べると落ちたんですけど、それでもあんなに点を取れる相手ではない。こちらがビックリするくらい、ウチの選手がものすごい成長をしたんですよ」。
  

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【数々の“土産話”を持ち帰ってきた若山聖祐監督】
  
 
「ありえへん世界」を地で行く2つのできごと
  
 若山監督が感嘆したのは、国際レベルの強度にこの短期間で選手がしっかりと順応してきたことだ。ボールの置きどころ、体の入れ方など、ディティールの部分を選手に口酸っぱく言い続けていた、としながら、「日本で言ってもピンとこないんですけどね。数試合をやっただけで成長を遂げて、なかなかボールを取られなくなり、ボールを支配できるようになった。子どもは恐るべきスピードで順応するな、と」。
 
 トリアネーロの適応力の高さには頭を垂れるしかないが、イタリアならでは(?)のピッチ内外での日本ではありえない“トラブル”が、選手を奮い立たせた可能性も捨て切れない。
 
 実はコモ戦でトリアネーロの選手の鎖骨にヒビが入るアクシデントがあった。トリアネーロが後半に3点目を入れるとコモは意気消沈し、途中で試合を投げ出してしまう。そんなさなか、相手のDFがスパイクの裏を突き出し、首の近辺(!)をアフターで狙い撃ち…。「スパイクの跡も残っていましたね。でも、痛いと言いながら決勝には出たんですけど…」と若山監督は淡々と振り返ったが、「さすがにベンチ同士で言い合いになりましたよ」。もっとも、試合終了後、コモのスタッフは「すごい心配していました。『救急車呼ぶ?』とかになっちゃって(笑)」と、ピッチ内並みの切り替えの早さを見せたというが…。
 
 さらにピッチ外でも日本ではあえりないできごとがあった。「ちょうど僕がジェラートを買っているとき…」と若山監督は話を始めた。
 
「スリに遭いそうになったんです。いかにもスリって格好じゃなくて、父親役、母親役、子ども役と、ファミリーを装って、これまた普通の格好をしているんですよ(笑)。チームの代表が選手をトイレに連れて行ったところを見計らって、ジェラート屋の前で一人になってしまった選手が父親役にバッグを引っ張られた。結局取られはしなかったんですけど、危なかったですね」
 
 完全アフターの殺人チャージしかり、ファミリー(風)ぐるみのスリグループしかり、例えばフィクションのアニメ上でもお寒く感じる要素に、現実に出くわしてしまうのだから、やはり世界は広いというしかない。これが“ザ海外遠征”と言い換えてもいいのかもしれない。
 
 本場のジェラートと、まさに「ありえへん世界」を短期間で凝縮して味わったトリアネーロっ子は、いよいよ最終戦でとんでもないスーパーエースがいるチェルシーに挑むことになる。
  
 


 

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