唱え続けられる「部活動=勝利」の呪文。両者が決別する日はやってくるのか
2019年07月24日
育成/環境

育成期のスポーツの商業化が起こす問題点
――少し野球のことが出ましたが、野球はどうしても高体連が強いようなイメージです。組織が別々だったり、つながりがなかったりというのも部活問題が解決しない原因なんですかね?
内田「高校野球を仕切っている組織といえば、高野連ですね」
――高校野球でいうと、高野連を動かすためにはそこにくっついているメディアがあって、という仕組みが歴史的に作られています。だから、どうしても春と夏は別々だということになりますし、でも意外と学校とは関係ない部分です。
内田「商業化してしまうと、もう止められません。加熱に歯止めがきかなくなりますよね。ただ、甲子園だけでなく、他の競技もインターハイは夏に開催されています。そうすると、甲子園だけ可哀想なくらい叩かれているような状況です」
――テレビ放送されていて、目立っているというのもあります。
内田「せめて夕方以降に行うとか。でも、そうすると日程が足りないという問題が出てきたりするんでしょうけど。でも、日程が確保できないからと子どもたちの安全を侵すのかという話なわけですよ。日程より安心安全が最優先でしょう、と。そもそも学校部活は教育活動ですから」
――全日本少年サッカー大会も、昔は夏開催でした。現在は冬に行われるようになりましたが、そこで起こったことといえば、スポンサーが降りてしまった。JFAとしても悩みを抱えることになりました。当然、企業も利益を求めるので、そういう矛盾したことは起こりえることがあると思うんですけど、そこも利益ベースで子どもたちを利用しすぎている感じはどうしても否定できません。
やはり普及要素も含むので、そこを全部否定するわけではもちろんないですし、大会という目標があるという意味ではメリットもあります。だからこそ実際にじゃあどう運用するか、そこに対するガイドラインですよね。個人的にはそういう風に落とし込んでいかないとサッカーに限らず、日本のスポーツは変わっていかない気がします。
内田「大会というのが絡んできたときに、いろんなことが歪んでいきますよね。そこは難しい」
――そこも日本国内で「トップアスリートの育成ではない」という解釈の仕方があまりにもいろんなものが絡みすぎていて、非常に難しいなと思います。サッカー界にもいろんなことがありますが、勝利至上主義じゃない的なことについては少し理解があると感じる部分はあります。単なるスポーツのひとつなので、今回の東京都少年サッカー連盟みたいな思い切った決断がやれたりもするのかなあと思ったりします。
内田「いずれにしてもスポーツの在り方というのは、少なくとも2つに分けるべきです。トップアスリート養成とレクリエーションとに。レクリエーションだとしてももちろん練習や試合はやるんですが、気持ちとしては勝っても負けても全力を尽くしてよかったと、みんなが笑顔でいる。ところが今は、学校部活がトップアスリート養成の巨大なピラミッドを構成してしまっています」
――学校の部活がそのトップアスリート養成の一部に結果として組み込まれていますよね。分けられないものですかね。トップアスリート養成じゃないってことで、活動時間そのものを週3回、試合があるときは土日どっちかみたいな。
内田「学校部活に対するルールを作れば、部活問題にかけているお金も減るわけですからね。できるはずなのに、今のところはまったくできる気がしません。学校部活なのに、勝つことがかなり重要視されていて加熱が止まらないという構造に問題があります。でも、よくよく考えると、大人たちは緩いスポーツの在り方を知っている訳ですよね。
大会に出るとか関係なく、夜間に走ったり、趣味でテニスや卓球をしたり、みんな好きでやっています。草野球なんてみんな負けてもなぜか笑っているじゃないですか。私は、あの感覚を子どもにも伝えるべきだと思っています。それはスポーツの普及にすごく大事なことだと思うんです。
だって、大学に入ったら、本当にみんな部活に入りませんから。こんな悲しいことってありませんよね。それよりも緩くていいから一生涯続けるようなスポーツの在り方がいい。そういった発想が中学や高校にはあまりないですよね。『勝つために頑張ってこそナンボだ』みたいな在り方になってしまっています。それで、その魅力にハマってしまった教師、さらには親が『子どものためだ』となかなか引き下がらない現状ができてしまっているわけです。
もう勝ちにハマってしまった人って、週3日の活動なんて考えもつかないんですよね。
週3日では強くなれない、と。学校部活に関わる人たちはみんな『強くなれない』と呪文のように唱えています。でも、多くの競技では民間のクラブチームでトップアスリートを育成しているんです。サッカー、水泳、体操など、トップアスリートは民間のチームで指導を受けているわけです。私は学校に対して『トップアスリートを育てたいんですか?』と問いたいです。練習は週3日までの範囲でやればいいじゃないですか。そういうルールを守って…。なかなかそういう発想には向かいません。倒れる直前までやって強くなるっていう日本型根性論の発想に進んでいきます」
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