指導者の仕事は「選手一人ひとりの成長に最も適した環境を確保してあげること」
2019年08月28日
育成/環境シュタルフ悠紀氏(現・Y.S.C.C.横浜 監督)をお招きして『育成のオーガナイズに目を向ける』をテーマにお話しを伺ってきた8月特集も今回で最終回。ラストは、育成年代の指導者にとって最も重要なテーマである「個別化」についてだ。チーム全体を見ながら、選手一人ひとりを見ることは、難しい作業かもしれない。しかし、ここを疎かにしているチームでは育つ選手も育たない。ぜひ、多くの読者の方々に再考してもらいたいトピックだ。
取材・文●木之下潤 写真●佐藤博之、ジュニサカ編集部
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チーム全体を見ながらも個別化をできるか?
——公式戦では、飛び級で上のカテゴリーの試合には出場することができるルールです。でも、下のカテゴリーでは公式戦に出られません。インタビューの第三弾(日本の子どもたちは「成長のピーク」が早い? となると、セレクション時期なども見直す必要があるのではないか)でも触れましたが、勝つためにわざと下のリーグで戦うチームが出てしまうかもしれませんが、それは一旦置いといて、成長が少し遅い選手を練習だけでも一つカテゴリーを下げてプレーさせることをどう思いますか?
悠紀「そのあたりもすべて個別化だと思います。子どものメンタリティにもよりますから。それを問題としないメンタリティの子もいれば、『自分が下手なんだ』とマイナスだとメンタル的に受け取ってしまう子もいますから、それがきっかけでサッカーを嫌いになってしまう子がいる可能性もいます。
これは非常にデリケートな問題です。
本当にその子を見て、その子の性格を見抜いて、その子と話しながら、説得して下のカテゴリーでプレーさせてあげられたらいいなとは思います。日独フットボール・アカデミーではいつも言っています。レベル差があり過ぎないようにしましょう、と。ただ既存の一期生の選手たちで小学校6年生の子たちはかなりレベルが上がってきてるのがあって、その中で一番のトップレベルの子と新しく入ってきた子のレベル差があることもあります。
その中で、『じゃあどうするか』という点では、グルーピングで対処するしかありません。しかも、それが子どもになるべく察せられないような形で。私たちのチームは4年生まで一緒にトレーニングしていますが、例えばレベルの劣っている6年生をレベルの高い4年生とマッチアップさせるような組みわせにすることもあります。でも、その子が多少なりとも勘づいてるような時はちょっと暗い表情をした気がしたことがあります。だから選手の表情に敏感になる必要があります。もちろん100%勘づいていないことが理想ですが、コーチとしてはその子をいじめたくてやってるわけじゃなく、なるべく成長を早めるためにやっていても、性格的に耐えられない子もいることを頭に入れておく必要はあります。
これがものすごくタフな選手ならはっきり言うと思うんです。『君もわかっているとは思うけど、ちょっと足りないから今月はこのグループでやろう』って。そして「今月終わった時によくできていたら、もう一回こっちに戻ってきなさい」とそこまで指し示します。それでがんばることができる子もいるからケース・バイ・ケースです。
ここは本当に慎重にしないと子どもへの精神的なダメージが大きいですし、特に日本社会では親に対する精神的なダメージも大きいです。だから、保護者への対応としてもしっかり説明して『それが理に適っている』ことを納得してもらわなければいけません。
やはり長期プランが必要です。
『今はこうしているけど、いつまでにもう一回見て』と。『理由としては、下手ではなく、選手に足りないところをこの学年でより取り入れているから』と。トップチームでもありますよね。セカンドチームに落とす時とか。それは言い方だし、その人その人にどういう風にそれを伝えるかということですから、伝える能力は必要です。
個人的な意見で言えば、下のカテゴリーに下げたほうが伸びるのであればやったほうがいいと思います。一番大切なことは、選手一人ひとりの成長に最も適した環境を確保してあげることです。
もちろん、うまく説明しなければいけません。でも、選手にとっては間違いなく自分に合った環境でプレーするのがいいし、難易度が自分にマッチングしていてちょうどクリアできるけど、全力を出し切らないとクリアできないというレベル設定の環境でプレーさせるのが実力としては一番伸びる環境です。それを作り出すために下のカテゴリーのほうがいいのなら、下でプレーさせる決断をすべきです」
——ヨーロッパだと例えば、いわゆるプロクラブのU-13だったらリーグ登録をする時に一つ上のカテゴリーのリーグで戦っていたりもします。そういう考え方も、日本の指導者にも選択肢として持ってもらっていいのかなって思います。例えば、今回はU-10の大会だけど、選手のレベルで言うとU-9の子たちが参戦してもいいわけで。
悠紀「それはすごく良いと思うんですよ。以前、レコスリーグで行っているクラブもいました。でも、そのクラブに関しては失敗しました。なぜか。それは大したレベルではないのに『修行させたい』というだけで上の学年のリーグにエントリーしてきたからです。結果的には、ほぼ毎試合二桁の得点差で負けるんです。U-11の5年生チームをU-12のリーグ戦に登録したんですけど、そういう結果になってしまうとお互いのチームにとってリーグ戦の意味がありません。対戦相手に対しても失礼です。そのチームとの対戦では、経験値がゼロに近いものになってしまうから、それは無責任すぎます。実際にブンデスリーガでは、例えばU-13年代でU-15年代のリーグに出場しているようなチームは基本的に上位です。下位に位置するようなクラブはそういうエントリーはしません。一つ上のカテゴリーでも上位争いができるようなクラブが育成という狙いを持って送り込んでいます」

【写真右:先日16歳298日でバルセロナのトップチームデビューを飾ったアンス・ファティのジュニア時代。当時から年齢よりも上のカテゴリーで活躍していた】
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